第64話 国家樹立21
レンが先程の光景を思い出し悶々と自問自答していると再び扉が叩かれた。
先程の出来事がなかったかのように居住まいを正して入るように告げると、息を切らせたクレーズが部屋に入ってくる。
「レ、レン様、お待たせいたしました」
息を切らせながら挨拶をしてくれるクレーズに座るように告げると、グラスに注いだ飲み物をクレーズに進めた。
『これでも飲んで落ち着け、ゆっくり食事でもしようではないか』
「め、滅相もございません。レン様と食事を共にするなどそような……」
『私がお前と一緒に食事を取りたいのだ。それとも私と食事をするのが嫌なのか?』
「いえ、そのようなことは決してございません。寧ろ私のような老いぼれには身に余る光栄でございます」
『ならば一緒に食事をしようではないか。お前に聞きたいこともある』
「畏まりました」
レンはクレーズを真向かいに座らせると食事をはじめた。
そして食事をしながら冒険者ギルドで作った認識票と、エイプリルから貰った認識票をテーブルに並べてクレーズに尋ねる。
『クレーズ、冒険者について知りたい。私は二枚の認識票を作ってもらったのだが説明をしてくれないか?』
「二枚でございますか?」
『一つは正規の手順で作ったもので、もう一つは配下にもらったものだ』
レンはそう言ってそれぞれの認識票を指さした。
クレーズはその認識票に視線を落として「触ってもよろしいでしょうか?」と訪ねた。
構わないと言うとクレーズは興味有りげに二枚の認識票を見比べている。
「一枚はGランクですな、もう一枚はSSSランク、流石でございます」
『配下の贈り物だから大切にするが、私はSSSランクの認識票を使うつもりはない。私が聞きたいのはそのGランクについてだ』
「そうなのですか?勿体ないですな。世界で三人目のSSSランクですのに……」
『私は徐々にランクを上げて楽しみたいのだ。そのGランクというのは最低のランクとみてよいのか?ランクについて詳しく教えてくれ』
「レン様の仰る通りGランクは最低のランクでございます。それからF、E、D、C、B、A、S、とランクが上がり、Sランクまでは一定数の依頼を成功させることでランクを上げることができます。レン様のお持ちになられているSSSランクの認識票は、多大な功績を残した者に贈られる言わば勲章のようなもの。SSランクもしかり、認識票には希少な金属が使われており、誰しも手に入れることができるものではございません」
それを聞いてレンはSSSランクの認識票に視線を移した。
確かに黒光りする認識票は僅かに暗い光を放ち普通の金属とは一線を画している。
希少な金属と言われても確かに納得がいくものだ。
レンは黒曜石のように輝く認識票を見つめる。漆黒の夜空を思わせるそれは、全てのものを吸い込むのではと思うほど暗い光を放っていた。
エイプリルはどうやってこれを手に入れたんだ?
まさか悪いことはしてないだろうな……
『では認識票は冒険者の名前とランクを調べるものと考えてよいのだな?』
「それもありますが認識票で登録者の強さも見ることができます。異世界人が広めたステータスというもので強さが数値で現れるのです」
異世界人が広めたステータスだと?
それってもしかしてゲームのあれか?
確かにステータスが表示されるゲームはかなり昔からあるし考えられなくもないな。
取り敢えず俺の強さもこれで分かるということか。
『クレーズ、私もステータスを確認したいのだがどうすればよい』
「登録者本人が認識票に触れて、ステータスと唱えれば認識票に数値が浮かび上がります」
『ほう、楽しそうだな。では早速試してみようではないか』
レンは冒険者ギルドで作ったGランクの認識票を手にすると「ステータス」と唱えてみた。
認識票の名前とランクの下に文字が浮かび上がる。
レン・ロード・ドラゴン
ランクG
種族 竜王
職業 世界を統べる者
筋力 ――――――――
体力 ――――――――
魔力 ――――――――
抗魔 ――――――――
敏捷 ――――――――
耐性 ――――――――
レンは現れた文字を確認して大きく溜息を漏らした。
突っ込みどころ満載だな。
先ず種族は
そして職業、世界を統べる者ってなんだよ!
俺を魔王にでもする気か?
この認識票を作った異世界人ってのはどこのどいつだよ!
それと楽しみにしていたステータスが表示されないってのはどういうことだ?
もしかして不良品じゃないのか?
『クレーズ、これを見てくれ。私の認識票がおかしいのだ』
レンは表示された内容に顔を顰めながらクレーズに認識票を手渡した。
クレーズはそれを
「レン様、何もおかしなところはございませんが?」
『何を言っている。種族が
「レン様はこの世で唯一無二の存在、竜王様でございます。種族が竜王になるのは必然かと。職業もおかしなことはございません、竜王とは世界を統べる存在でございますから。ステータスが表示されないのも当然のこと、人間の作ったもので竜王様の力を測れるはずがございません」
クレーズはさも当然のようにレンに告げた。
だが、そんなことで納得できるレンではなかった。種族と職業は仕方ないとしてもステータスはどう考えてもおかしいのだ。
レンは少し体格が良い程度で人並み外れた力があるわけではない。ステータスに表示されないほど数値が高いわけがないのだ。
『クレーズ、私は人並み外れた力があるわけではない。身体能力は並みの人間と変わらないだろう、それなのにステータスに表示されないのはなぜだ?』
「恐らくレン様本来のステータスは測定できないほど高いものと思われます。しかしながら、その力を引き出せないか使いこなせていないのではないでしょうか?」
レンはそれを聞いて暫し思考を巡らせた。
前竜王グラゼルから受け取った力が使いこなせていないのか……
確かに竜王が生身の人間と同じ身体能力なんて有り得ないよな。
人間の体だから力が使えないのか?
特訓しだいで力が引き出せるなら是非特訓したいな。
いつまでも皆に守られてばかりじゃ申し訳ないし、出来れば主として皆を守れるような存在になりたい。
明日にでもカオスに聞いてみよう。
『クレーズの言葉は参考にさせてもらう、私も本来の力が使えるように努力しよう。ステータスの項目について詳しく教えてくれないか?』
「畏まりました。では、まず最初の筋力ですが――」
レンはクレーズの話を聞きながら頷いていく。
概ね予想通りの内容だな。
筋力は攻撃力みたいなものか、体力は打たれ強さ。
魔力は魔法の威力、抗魔は魔法にどれだけ打たれ強いか。
敏捷は素早く動ける速さ、耐性は状態異常や精神攻撃への強さか。
レベルがないのがちょっと残念だが、ゲームじゃないんだ当然と言えば当然か。
普通の人間はレベルが上がって一気にステータスが伸びるなんてことはないよな。
ステータスは日々の積み重ねで少しずつ伸びるか……
地道に冒険や特訓をしろってことだな。
「――最後に、ステータスはあくまでも身体能力の目安でしかございません。使用できる魔法やスキル、戦闘経験により強さは大幅に変わります。ステータスを過信するのはお気をつけください」
『ステータスは目安か――忠告感謝する』
レンは一つ溜息を漏らした。
どんなに身体能力が高くても使いこなせなければ意味はないってことか……
気をつけなければな。
『クレーズ、ステータスについて聞きたいのだが、ステータスが出来たのはつい最近なのか?』
「いえ、もう数千年前になるかと。その間に冒険者の認識票は何度も改良され、今では僅かな血でも正確にステータスが表示されるようになりました。また、多種多様な種族のステータスを表示できるように改良が施されております」
数千年前と聞かされてレンは怪訝な表情を見せた。
そんな時代にステータスという言葉があったのかと違和感を覚えたのだ。
数千年前だと?
おかしくないか?そんな昔にゲームなんてないだろ。
なんでステータスのことを知っているんだ?
それとも大昔にステータスという言葉が既にあったのか?
仮にあったとしてもゲームで見るような使われ方をしていたとは到底思えない。
『おかしくはないか?私も異世界から来たのだが認識票に使われているようなステータスは、異世界では数十年前から始まったものだ。なぜ数千年前に来た異世界人がステータスのことを知っている』
「レン様が異世界よりお越しくださったことは聞き及んでおります。端的に申しますと、こちらの世界とレン様の世界では時間の流れが違うのです。異世界人の残した文献では異世界の星は誕生してから約四十五億年だと書かれておろました。そしてこちらの世界なのですが我ら
『つまり、私の居た世界で二十年前に誰かがこの世界にやってきたとすると、そいつはこの世界では二千年前に来ているというわけか?』
「その通りでございます。つけ加えて申し上げますと、異世界人はこちらの世界では寿命が延びることになります。どうやら異世界からきた人間は、こちらの時間の流れに合わせて残りの寿命が百倍になるらしいのです」
『百倍だと?では私もそうなるのか?』
「レン様は竜王様になられましたので寿命はもっと伸びることでしょう。前竜王グラゼル様は約四千五百億年ご存命されました。異世界人のレン様はそれ以上と思われます」
『………………………』
それを聞いたレンは言葉が出なくなる。
長生きしすぎじゃないか?
逆に生きてて辛くなりそうなんだが……
みんな死んで俺だけ一人は絶対に嫌だぞ。
あれ、おかしいな目から汗が出そうだよ。
これは聞きたくなかったな……
あと数年で死ぬと言われるより余程いいが、寿命が数千億年あると言われてレンも困っていた。
勿論、その間に何らかの原因で死ぬかもしれないが、それでも普通の人より遥かに長く生きるだろう。
何せ周りには過保護な配下もいるのだから。
レンは考えても仕方ないと、先程の話を
『クレーズ、冒険者ギルドの――そうだな今度は依頼のことを教えてくれ』
「畏まりました。依頼にもランクが決められております。受けられる依頼のランクは自分のランクの前後一つまで、また複数の冒険者が集まりチームと呼ばれる団体で依頼を受けることもできます。この際に受けられる依頼のランクはチームを纏める者、チームリーダーのランクが基準となります。またランクを上げるためには自分のランクと同等以上の依頼を一定回数成功させる必要がございます。逆に一定回数依頼を失敗するとランクは下がりますのでご注意ください。それと依頼を受ける際には依頼報酬の二割を受付で支払わなければなりません。これは依頼が失敗に終わった時の違約金となります。当然、依頼が失敗した時には戻ってきません。ですが、依頼が成功した時には依頼報酬と共に支払われますのでご安心ください。また――」
それからレンは食事を忘れてギルドのこと冒険者のことを聞いた。
クレーズは聞けば何でも教えてくた、クレーズ自身も昔は様々な知識を求め冒険者をしていたらしい。
依頼が多く冒険者の多い街の話も聞くことができた。
色々あったが最後にこうして楽しい話を聞けたのは幸いだったのかもしれない。
こうしてレンの慌ただしい一日と、国家樹立の記念日は過ぎ去っていった。
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