第63話 国家樹立20
寝室に戻って来たレンはソファに腰を落として冒険者ギルドで作った認識票を手にとった。
鉄のようなありふれた金属で出来たそれには、いつの間にかレンの名前と冒険者ランクが刻まれていた。
血を垂らした時に一瞬光ったことから何らかの魔法が付与されていたのだろう、その時に名前が刻まれたのだろうと特に気にすることもなく認識票を懐に入れた。
そして今度は受付嬢に渡された小箱を取り出す。
蓋を開けると一枚の金属の板が入っていた。黒曜石のように黒光りするその板にはレンの名前と冒険者ランクが刻まれている。
刻まれた冒険者ランクを見てレンは苦笑いを浮かべた。
確かエイプリルからの届け物だよな。
それにしてもSSSランクって……
以前断られてたのに――いいのかこれ?
それに、こういうのは下から徐々に上がっていくのが楽しんだよな。
思えばランクの上げ方も教えてもらっていない。
エイプリルかセプテバを呼ぶか――いや、今日は忙しいだろうからクレーズの方がいいかもしれない。
クレーズの食事もここに運ばせて食事をしながら教えてもらおう。
それと謹慎中の三人の部屋にも食事を運ばせないとな。
レンは口元に指輪を近づけた。
(マーチ、いま大丈夫か?)
(え、レン様?だだだ、大丈夫れふ)
本当に大丈夫か?
すんごい噛んでるぞ。
(少し頼みがあるのだが、ニュクス、アテナ、ヘスティアの三人を三日間の謹慎処分とした。そのため三人の食事は部屋に運んでくれ)
(か、畏まりました)
(それと私も今日は寝室で食事を取りたいのだが、その際にクレーズと少し話がしたいのだ。もしクレーズの都合がよければクレーズの食事も私の寝室に運んでくれ)
(かか、畏まりました。で、では、クレーズさんをレン様の寝室に、おお、お呼びいたします)
(よろしく頼む)
レンは口元から指輪を離すと、そのままソファに倒れ込んだ。
もう少しで晩餐会が始まる頃かな。
あっちはオーガストたちに任せておけば問題ないだろ。
今日は色々あったけど俺も晴れて冒険者だ。
どこかの冒険者ギルドで依頼を受けてみたいし、そこらへんもクレーズに聞いてみるか。
暫く考えごとをしていると扉がを叩く音が聞こえてきた。
レンは体を起こして部屋に入るように告げると、ジャニーとフェブがテーブルワゴンを押して部屋に入ってきた。
『もう料理を運んできたのか?随分と早いな』
「早すぎたでしょうか、申し訳ございません」
ジュニーが深々と頭を下げる。
その姿にレンは目を見張る、いつも執事服を着ているジャニーがドレスを着ているのだ。
ドレスを身に纏い執事のような一礼をするジャニーの姿は違和感しかない。
フェブもジャニー同様、ドレスに身を包んでいる。
『いや、気にすることはない。それにしても二人共今日はドレスなのか』
式典にもドレス姿で参加したのだろう。これから晩餐会で竜王国の重臣として紹介されるのかもしれない。
二人は恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべていた。
「こんな服は初めてだからよ。あ、いえ、初めてでして少し緊張してますです」
『フェブ、普段通り話せ。私もその方が親しみやすい』
「はぁ、ですが……」
『ここに
「そういうことなら普段通りに話させてもらうか」
『うむ、二人分食事があるということはクレーズは来るのだな?』
「ああ、あの爺さんなら今こっちに大急ぎで向かってるぜ。急ぎすぎて倒れてなきゃいいけどよ」
『別に急がなくともよいのだがな』
レンとフェブが話している間に、ジャニーが慣れた手つきでテーブルに料理を並べ終えていた。
「レン様、お食事のご用意が整いました」
『ご苦労だった。二人のドレス姿なんて滅多に見れないからな。二人共そこで少し回ってみてくれないか?勿論嫌なら断ってもよいぞ、無理強いするつもりはないからな』
「お断りするなどとんでもございません」
「ちょっと恥ずかしいけど、レン様の頼みなら断れねぇよな」
二人はその場で勢いよく回転した。
それはもうドレスが捲れ上がるほどの勢いで。
ソファに座っていたレンからはドレスの下が丸見えになる。
高く舞い上がったドレスは回転後も数秒捲くれ上がっていた。
レンの視界には数秒もの間、立ち尽くす二人の下半身が露わになる。
レンは信じられないものを見るように表情が硬くなった、見間違いかと数回瞬きを繰り返す。
ドレスがふわりと元の位置に戻ると、二人がどうでしょうかとレンに視線を向けてきた。
レンは先程の光景を見て戸惑いを隠せない。
えっ!?毛がない?
違う!そこじゃない!下着は?
なんで
それともこの世界ではドレスの下は何も穿かないのが普通なのか?
いや、ニュクスたちは下着を穿いていたしそんなことはないよな……
流石にこのままというのも問題がある。
レンは失礼だと知りつつも意を決して下着のことを問いかけた。
『ああ、一つ聞きたいのだが二人共下着はどうした?』
「下着でございますか?持っていませんが?」
「私も普段身につける習慣がねぇしな」
『そ、それは上の方もか?』
「胸には普段布を巻いております」
「私は何もつけてないぜ」
『下着は着けた方がよいのではないか?その――色々困るだろ?』
「いえ、特に困ることはございません」
「そうだよな、
『そ、そうなのか……だが、下着は着けた方がよいと思うぞ』
「そうでしょうか?」
「んなことよりレン様、私らのドレス姿はどうなんだ?」
『ん?それは良く似合っているぞ、今日の二人はいつもより美しい』
それを聞いた二人は満面の笑みを浮かべながら再びドレスを見せるように回転する。
先程と同じようにドレスが捲くれ上がり下半身が露になった。
レンは咄嗟に顔を背けて声を出す。
『も、もう回らなくてよい、お前たちも晩餐会に出席するのだろう?時間は大丈夫なのか?』
回転をぴたりと止めるとジャニーとフェブは渋い顔をしながら時計に視線を向けていた。
「行かないと不味いわね」
「もうこんな時間かよ、そろそろ行かないとオーガストあたりが
「ではレン様、私たちはこれで失礼いたします」
『うむ、それとドレス姿で回ることは許さん。人前では絶対にするなよ』
「?よく分からねぇけど、レン様の前でしかやらねぇよ」
「その通りです、レン様以外の男性に見せるわけがないではありませんか」
二人はそう言って笑顔を見せると寝室を後にした。
下着を着けた方が良いと辛うじて言えたが、あの様子では下着を着けることはないだろう。
レンは二人の最後の言葉を思い出してふと気付いた。
ちょっとまて!あの言い方だと
まさかあいつらも確信犯?いや、まだそうと決まったわけじゃないよな。
もしかして恥ずかしいのを我慢して回ったのかもしれない。
詰まる所あれか、俺は配下にドレスを捲くれと強要したことになるのか?
もしそうだとしたら最悪だな、威厳もくそもない。
だが、俺だってドレスがあんなに高く捲れるとは思っていなかったわけだし、下着を穿いていないなんて夢にも思わなかったんだぞ。
別に下心や悪気があったわけじゃないんだ。
でもなぁ――やっぱり俺が悪いのか?
だがその問いに答える者はだれもいない。
元より心の声なのだから誰かに聞かれることはないのだが……
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