第8話 ドレイク王国4
カーテン越しに薄らと陽の光が差し込む。
窓の外から鳥の
部屋の隅に置かれている時計の針は既に9時を指している。
(10時間以上寝ていたのか。気だるいわけだ……)
レンは寝惚け眼を擦りながらベッドから体を起こす。
体の調子を確認するように、背伸びをして肩を回した。完全に目が覚める頃には体は軽く、頭もすっきりする。
周囲を見渡すとソファにはニュクスが腰掛け、此方の様子を静かに窺っていた。
「おはようございます。レン様」
「おはよう。ニュクス」
レンは軽い挨拶を交わすと、視線を落として今日の過ごし方をぼんやり考えた。
(先ずはこの世界の文化、一般常識を教えてもらう。その他にも街を歩いて買い物をしたいな。街の外にも出てみたい。一度に全ては無理だろうから、ヒューリと相談して決める必要があるだろうな……)
考えが纏まると、洗面台で顔を洗い身だしなみを整えて部屋に戻った。
「ニュクス、部屋を出る」
「畏まりました」
扉を開けると部屋の前にはカオスたちが待機していた。
レンの姿を確認すると恭しく頭を下げる。この時点でレンの護衛がニュクスからアテナに変わり、アテナが嬉しそうにレンの傍に寄り添っていた。
「レン様、食事の準備は出来ております」
「そう言えば、今日の護衛当番はアテナだったな」
「はい、誠心誠意つとめさせて頂きます」
「では案内はお前に任せる」
「畏まりました」
指名されたアテナは先頭を喜々として歩く。
食堂に到着すると、テーブルには既に料理が並べられ、ヒューリも席に着いていた。
「ヒューリ、お前も食事はまだなのか?」
「はっ! レン様より先に頂くわけにはまいりません」
待たなくても先に食べればいいのに。そう思うレンだったが何も言わないことにした。また否定されるのが目に見えている。
「私も今日は寝過ぎた。明日からはもう少し早く来るようにしよう』
「そのような気使いは無用です。レン様のお時間に合わせますのでご安心ください」
世話になっている身としては申し訳ない話だ。
レンは滞在先に迷惑を掛けたくないため、明日からは早起きをしようと心に留めた。
その後は食事を楽しみながら今日の予定を話し合う。
「ヒューリ、私の部屋に文化や一般常識を教える者を呼んでくれないか?」
「承知いたしました」
「カオス、お前たちはこの後どうする?」
「私は
「構わんが、死の大地とやらに私の居城を作るのだろう? そちらは大丈夫なのか?」
「問題ございません。今日はアテナがレン様の護衛に付きますので、まずはヘスティアを向かわせ土地の再生を行わせます。明日はヘスティアがレン様の護衛に付きますので、アテナが居城作りを行います。ニュクスには二人のサポートをしてもらう予定です」
「私の護衛以外の二人が死の大地に向かうわけか」
「その通りでございます」
(喧嘩をしないか少し心配だが、まぁ何とかなるだろう)
「ではそのように進めるがよい」
「畏まりました」
レンは食事を終えるとアテナを従え部屋に戻るが、食堂を出る際にはニュクスとヘスティアがアテナを睨んでいるのが見える。
もはや竜王と一緒に居る女性を睨むのが習慣になっているようだ。
部屋には直ぐに王宮学術顧問なる
ソファに促すと、その向かいにレンが座り、横にアテナが腰掛けた。
「お初にお目にかかります、レン竜王様。私は王宮学術顧問のクレーズと申します。以後お見知りおきを」
クレーズは深々と頭を下げると尊敬の眼差しでレンを見つめる。
「クレーズか、世話になる。私のことはレンと呼ぶがよい」
「はっ」
クレーズは深々と頭を下げ、それからは様々なことを教えてもらった。文化、一般常識、この国の成り立ちから歴史まで、クレーズは事細かく丁寧に説明する。
「クレーズ、この世界には魔法もあるのだろう? 魔法のことも教えてほしい」
「畏まりました。魔法には等級魔法と呼ばれるものと、精霊魔法と呼ばれるものがございます。等級魔法とは第1等級から第10等級に分けられる魔法で、等級が上がるごとに取得は困難になります。第7等級以上は幻の魔法とも呼ばれ、使える者は数える程しかいないと聞き及んでおります。精霊魔法は主にエルフが使う魔法で、精霊の力を借りて魔法を発動させると言われております」
「二種類の魔法があるのか」
「レン様であれば、二種類ともお使いになれることでしょう」
それを聞いてレンは破顔する。やはり異世界に来たのだ、魔法は絶対に欠かすことはできない。
「そうか、それは楽しみだな。クレーズ、私に魔法を教えてはくれないか?」
「申し訳ございません。我ら
「それは残念だな。まぁよい、何れ魔法を覚える機会もあるだろう。説明ご苦労だった。引き続きこの世界のことを教えてくれ」
「畏まりました」
傍にいるアテナに魔法を教えて貰うこともできたが、何故か嫌な予感がしたためレンは口に出さなかった。世界を献上すると言ってしまうほどの強者だ。下手に魔法を使わせて、この国を破壊されたら目も当てられない。
途中、昼食を挟み午後も引き続き話を聞く。全て終わる頃には日は完全に落ち外は暗闇に包まれていた。それでも大分省略したらしく、クレーズは名残惜しそうに部屋を立ち去っていった。
クレーズに聞いた話だと、普通に生活する分には地球と
だが大きく違うことがある。この世界では独裁国家が当たり前で、国王、貴族、教会などが国を動かし、庶民の発言力は皆無に等しいということ。
国によっては逆らう者は奴隷に落とされ、酷い扱いを受けるとも言っていた。
他にも、この街が竜王の居城から近い場所にあるのは偶然ではないとのことだ。
竜王の居城がある山脈はウェンザー山脈と呼ばれていて、もともと
ウェンザー山脈を聖なる山として長く崇めてきたこともあり、自然と近くに街が作られ発展したということだ。いつしか街は国となり、国は勢力を拡大して今に至る。
ドレイク王国に奴隷制度はないようだが、やはり国王による独裁国家は同じだ。もっとも現国王のヒューリは勿論のこと、過去の国王に至るまで、
レンは教えて貰ったことを心の中で反芻して思う。
(国民に慕われる王か……。ヒューリは立派な国王なんだな。それに比べて俺はどうなんだろうか……)
レンは自然とアテナに視線を向けていた。
「アテナ、私はお前たちの良き主になれると思うか?」
アテナは目を大きく見開き驚きを隠せない。
竜王は存在するだけで最高の主だ。その最高の主たるレンが、良き主になれるかと尋ねるのが分からなかった。
(……きっと私たちはレン様の期待に添える働きをしていないのね。主の思うように動いてくれない配下。それは即ち、配下も使いこなせない駄目な主だと思っているのかも知れないわ)
アテナの狂った思考が変な答えを捻り出す。
「レン様は我々にとって既に最高の主でございます。もし、レン様が違うと仰るのであれば、それは我々に至らぬ点があるためでしょう」
アテナは顔を顰める。
(これは早急に話し合う必要があるわね。カオスが戻り次第この事を伝えなくては……。我々のせいでレン様がお心を痛めることなどあってはならない。場合によっては全員の首を差し出してもまだ足りない。だけど我々が全員いなくなれば、レン様の身の回りのお世話は誰がするの?
アテナは正しい答えを導き出せずにいた。
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