第2話 崩れていく平日
今年の冬は例年以上に寒かった。が、ようやく冬も終わり、代わりと言ってはなんだがここ何日間は例年よりも暖かく、平年より何日間か早く桜前線が日本に到来するそうだ。
だか、そんな季節の変わり目にも関わらず、布団を何重にも体に巻きつけ、まだ寒いんだ!とでも言いたそうな人間がいた。
「もぉー。シランー!いったいどうして学校へ行かないの?お母さん心配で死んじまうわよ。」
シランという人間はどうやら寒いから布団を巻き付けた訳ではなく、サボるためそうしたようだ。
しんじまうわよ?なんだよその言い方と思いつつ断固として学校へ行こうはしないシラン。
あ、この布団にくるまるサボりな糞のご紹介が遅れました。
名前はシラン。18歳のO型男子。体つきは弱々しくガリガリ体系。顔つきはこれといって悪くないがかといってかっこいい!って程でもない。とりあえず今はこの辺で、、。
さて、シランもそろそろ限界なのだろう、顔を真っ赤にして汗をダラダラ流しながら、
「絶対、高校なんかいくもんか!最後の高校生活くらいゆっくりサボらせて下さい。我慢の限界なんですぅー!」
なんだその口答えはーっと思いつつ、仕事へ向う時刻も差しかかり、「続きは帰ってからね!」と諦めて家を出た母親。
ドアがガチャリとしまった音がシランの鼓膜に届く頃には
「ヒヤッハァァァァーーー!!!!」
と解放されたシランからはきらめく汗が朝日とともによりいっそうきらめきを増し、周囲に飛び散った。そうして、引きこもり生活は再び始まった。
しばらく暇を楽しんでいたのだが、シランの中の理性が真面目モードに切り替わり、少しだけ考え事をした。
「確かに、俺、将来どんな職業に就くんだろ。大学と専門学校諸々進学はとりあえずパスなんだよなぁ。かといって公務員はお硬すぎというか応募終わってるし、、、、、、、。
・・・・・・・・・あぁーなんか、ないかなーー!!」
まぁ、こんな感じで話はまとまる事無く、いつものことだから切り替えて別の話題にすり替えるところなのだが、、
「あのー。こんな職業はいかがでしょうか?」
「え?」
声がする方を向いてみると、シランの目の前には自分と同学年くらいに見える爽やかな男がニコッと笑いいきなり目の前に現れた。
「あんただれです!!てか不法侵入ですよ?通報してもいいんですか?」
なぜいきなり現れたよ!どっから来たんだよ!影が薄いのか?薄すぎるにもほどがあるんじゃないか?おいおいおいおい!
「だから!話を少し聞いてください!僕がご紹介する職業に就かれてはどうでしょうか?」
若く見えるけど、もしかしてもう成人で、近所を回ってるセールスマンなのかなと疑いつつ仕方なく暇だし、とりあえず話を聞くことにしたシラン。
「とりあえずその仕事っていうのは、、、?」
「えーっと。異世界でモンスター駆除の仕事です!」
ときっぱりと言い放ったセールスマン。
「は?」
意味がわからん、はい?異世界?はぁー、最近の中高生はラノベを読む人が増えたからって異世界で釣られるとでもぉ?確かに驚くが詐欺だ!異世界詐欺だ!にしてはひどいな!まぁ、とりあえず落ち着くんだシランーー。と頭の中で色々落ち着かせる様子。
そんな様子を無視してセールスマンは話を続ける。
「お願い致します!信じてください!朝、異世界に出勤して、夕方にこちらの世界に帰宅してもらうだけですから!土日祝はもちろんお休みですし、月給は最低限の固定給+討伐モンスター手当という感じです!どうです?どうです?」
なかなかがっついてくるセールスマンに戸惑うもほんの少しだけ、ほほぉーと感心しているシラン。それでもやはりまだ信じきれないのは当然である。
「混乱していてまだよくわからないので色々と教えて欲しいんですけど。まず嘘じゃないっすよね?」
「当たり前です!!」
と自信ありの返事。
「ちなみに固定給はいかほどで、、、。」
お金はやはり気になるシラン、それもそうだろう、お金とはすなわちその人のステータス。今の時代は特にお金をいかに多く稼ぐかが重要なポイントでもあるのだから。
「えぇー、、、、最初の1ヶ月は研修生としての採用なので15万円です。そして正社員となりましたら20万円の固定給となります。ちなみに手当は歴代ですと最高数千万円が支払われたこともあります!」
固定給はなんか安定してるけど手当エグっ!!!!
と脳内では激しいツッコミなシラン。決していつもはツッコミでもボケでもそんな担当はないはずなのに。
「でも、お金とか休日の良さにとらわれすぎたために仕事に慣れなかったり、精神状態に支障をきたしたり、と色々あるんです。お陰で離職率は95%以上を維持しているのが現状で、、。まぁ実際は大半の人達はモンスターによって死んだのが事実なんですけどね。」
「い、いわゆる超ブラック企業なんですね。よくネットで目にするあの産業よりブラックそうですけど、、、。」
と汗が滲み出てくるシラン。死ぬ職業なんてカニ漁とか除けばそうそうないし。
「まぁそれでも休日がしっかりありつつ高卒にしては給与は大卒並、頑張ればそれ以上あるんで、、ね!」
そんな危険な職業でもシランはどんどん興味が湧いてきた。モンスターに殺されるはもちろん嫌だが、異世界とかにシランは昔から憧れているのだから。
「どうです?とりあえず高校卒業したら研修生としてやってみます?」
研修くらいなら受けてもよさそうだし、なにより就職したと親にきっぱりと言えるし、、、。でもなぁ、死ぬのはごめんだし、もっと楽な仕事とかあるよなぁ、、。
「はい!もちろん!やりまっす!!」
と反射的に元気よく二つ返事、いや三つ返事してしまったシラン。
きっと深く考えていたとしても結果は同じだろう。
ありがとうと言わんばかりの笑顔で頷くセールスマン。しばらくするとだんだん姿が薄くなっていくようでいつの間にか完全に姿を消した。
「それでは卒業後お迎えにいきますのでぇぇえー。」
と完全に姿を消す間際にそう耳にしたシランであった。
「ふぅー。」
っと一息つくシラン。
いや、まて。とシランの中の理性が続いて賢者モードに切り替わった。
「まぁ、休みきちんとあるし、給料だって悪くない、むしろこの不景気の中いい方だと思う。そこはいいんだが、しかし本当に信じていいのだろうか。俺気軽にやりますとか言ったけど実は詐欺集団の会社だったりとか色々ヤバイんじゃないかなぁあ!!」
そんなこんなでシランのサボった平日はあっという間に終わってしまった。
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