咲夜家の日常 その2
「やっと来たか」
「お姉ちゃん遅いよー」
桜が制服に着替えて茶の間につづく廊下を歩いていると
結羽は制服に着替えいて桜が通う小中高大一貫校の中等部の制服だ。セーラー服だ。桜のお下がりを着ていて袖が余っている。
「先に行っててもよかったんですよ?」
「挨拶を一回にした方が楽だろ」
「みんなお腹から声出すもんねー」
「それもそうですね」
そんな会話をしながら廊下を進み茶の間の扉の前に着く。
茶の間からは大勢の人が話しているような賑かな音が聞こえる。
「みんな朝からげんきだねー」
「そうね、賑やかじゃないと心配になるほどね」
「開けるぞー」
美桜が扉を開けると、
「「「「おはようございます旦那!お嬢!」」」」
そこには三十人を超える人達がいた。
「おはよーさん。待たせて悪かったな」
「ごめんねー!」
「待たせてすみませんね」
軽く挨拶を返し三人は定位置に座る。
「どうぞ」
三人が座ると同時に朝御飯を持ってくる女性。
「いつもありがとね」
「ありがとうございます」
「いえいえ、仕事ですから」
にっこりと綺麗な笑顔で返す。
運ばれてきた料理は白米に納豆、大根の味噌汁、鮭の切り身に小鉢に沢庵。
まさしく日本の朝食と言えるだろうラインナップだ。
気がつくと全員分の料理が運ばれていて静かに待っている。
「さて、今日も命を有り難くいただき、感謝しながら食べよう。いただきます」
「「「「いただきますます」」」」
美桜の音頭で全員が食べ始める。
ここで彼らの説明を。
桜組と名乗る《元》極道だ。現在美桜が組長であり構成員は百人程度の小さい組だ。
三代前の組長までは警察とドンパチやっていたのだが、先々代が「サツどもと殺りあうのめんどくせぇ。ちと話あってくるわ」と頭を疑うことを言い出し、部下達が止めるも武道の達人だった先々代は部下達を傷一つなく薙ぎ倒し、警察まで行き和平を勝ち取って来た。
先々代が引退する頃には町の何でも屋、自警団として町の人々に愛されるまでなっていた。
ちなみに先々代は商才もあったらしく、町の商店街と提携し、デパート以上の売り上げを叩きだしデパートの社長にどや顔をしていた。(そのデパートは町からなくなった)
先々代の伝説はまだまだあるが、それはまたの機会に。
「ごちそうさまでした」
美桜が一番最初に食べ終わり、料理を運んできた女性が皿を片付け、食後のお茶を持ってくる。
しばらくして桜と結羽も食べ終わりお茶を飲み始める。
「ところで二人ともちゃんと櫛通したのか?はねてるんだが」
「やってなーい」
「待たせてましたからね」
「はぁ、やってやるから座ってろ」
「「はーい」」
美桜はまず結羽の後ろに回り櫛を通す。そして結羽が持っていた赤い組紐でポニーテールにまとめる。サイドを三つ編みにしていて無駄に手が込んでいる。
「兄さんほんと器用ですよね」
あきれ混じりに桜がいう。
「かわいい妹が二人もいるからな。編み物好きだし」
ちなみに組紐も美桜の自作だったりする。
「ありがとね、お兄ちゃん!」
嬉しい気持ちを隠さずにお礼を言う結羽。
「……かわいい妹が二人もいるじゃん?」
「……そうですね。かわいい妹です」
「なに?」
首を傾げて問うかわいい妹。
「気にするな」「なんでもないわ」
「そうなの?」
「そうなの。次桜な」
結羽と同じく櫛を通したあと緩く三つ編みに纏め、左肩から前に垂らすと綺麗に纏まるようにした。ちなみに三つ編みを纏めているのも美桜が編んだ組紐だ。こちらは濃い青色で編まれている。
「うむ、上出来」
「ありがとうございます兄さん」
「お姉ちゃんかわいい!」
結羽が桜に飛びついて抱きつく。
「結羽もかわいいわよ」
微笑みながら髪をくずさないように頭を撫でる。
「そろそろ学校だろ?出た方がいいんじゃないか?」
七時半になっていた。
学校はそこまで遠くなく、歩いて二十分くらいで着く距離だ。八時半までに教室に着いていればいいのだが……。
「そうですね、兄さんのこと聞かれて遅れてしまいますからそろそろ出ましょうか」
「お兄ちゃん人気者だよねー」
小中高大の一貫校で、結羽が中等部、桜が高等部で、美桜が大学。学校祭などは合同でやるため、大規模なお祭りになる。(提携、桜組)
「兄さん、去年の学校祭で伝説化してますからね……」
「かっこきれいだったねー」
学校祭の自由参加の出し物で美桜はバンドのボーカルをやっていた。
友人に頼まれてやったのだが、
「まさか兄さんが女装するとは思いませんでした……」
「美人さんだったねー」
謎の美人ボーカルとして君の知らない物語を歌い上げた。女声の綺麗な高音を苦もなく出し、盛り上がったところでどうやったのかもわからない早着替えで男に戻ったあと、ざわつく客を無視し全力でEXIT、シルエット、GO!!!を歌い上げ盛り上げた。バンド後の出し物全て辞退したのは当然だろう。
「なんで女装したんですか?」
「驚かせるの楽しいじゃん?」
「お兄ちゃんだと思わなくてびっくりしたよ」
「うむ、大成功。ただまぁ、CDが非公式に販売されるとは思わなんだ……」
「一万枚突破したって
「ゆずにーちゃんが『がっぽがっぽだぜぇー!フゥーハッハッハー!』って言ってたよ?」
(……あの野郎次会ったときピーしてピーピーしたあとバキューンだな)
とても中学生に聞かせられるような内容ではないため頭の中で断罪方法を考える。
「兄さん、顔が怖いです」
「おっと、すまんすまん。って話してたら八時になっちまったな。車出すから鞄取ってこい」
「「はーい」」
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