第四章 異世界
第67話 近況
ユナが石化状態から回復して、さらに半年が過ぎた。
この間、まず全員で王都セントラル・バナンに戻り、ユナとソフィア王女は、感動の再会を果たした。
これでようやく、『呪い』関連の問題全てが解決したことになる。
しかし、ここに至るまでに新たな問題がいくつも発生していた。
まず、一番大きな課題は、ウィンの恋人であるクラーラを見つけ出さないといけない事だ。
これは俺とウィンだけの契約であるため、他のメンバーは関係無いのだが、ユナと、さらにはミリアまでもが同行してくれることになった。
これは魔導師ジフラールの勧めがあったため。
彼は、俺達がいわゆる『異世界』への旅に出ることになるかもしれない、という話を聞いて非常に興味を持ち、ミリアならその場合でも自分達と連絡を取り合えるはずだ、と、送り出すことに賛同したのだ。
彼女が、実はジフラールに旅の様子を詳細に伝えていたことを知らなかったので、まあ少し引っかかったところはあるが、もし異世界に行けたとして、そこで元の世界の人間と連絡が取れるのであればこれほど心強いことはない。
それに、彼女の強力な爆炎攻撃魔法と広範囲の探知魔法も、非常に助けになる。
難点は、ミリアが熱暴走を起こしたときにどうやって冷却するかということだったのだが、そこはジフラールが専用の魔道具である『氷水晶の護符』を作成してくれており、ウィンやユナのように強い魔力を持つ者であれば使いこなせるということだった。
ミウとユアンの二人は、アイフォースの領地へ帰り、結婚の準備を進めることになった。
『王女を助けたメンバー』という名誉は、二人の名声を飛躍的に高め、国家としても若手貴族の注目株として将来を有望視されている。
俺達との友情も変わる事無く、
「困った事があれば最優先で協力する」
と、握手をして誓い合った。
もっと注目を浴びているのが、アクト、本名アクテリオスだ。
彼こそが、伝説の英雄ラルクと、ファナ王女の忘れ形見であるとの情報は、既に多くの者に知れ渡っていた。
アクトの王位継承権は曖昧になったままなのだが、彼はそんなことに興味を示さず、それよりも俺達を襲撃し、ユナに猛毒を与えたテロリスト集団討伐のために奮闘している毎日だ。
育ての親が上級騎士ということもあり、彼も騎士の称号を与えられ、活躍している。
また、どこが発端か分からないのだが、彼とソフィア王女が近い将来結婚するという噂もまことしやかに流れており、そうなると次期国王となるわけだから、貴族達にとっては、ある意味大騒ぎとなっている。
ウィンは、自分を訪ねてきたメンバーがこれほどの実力者だとは知らなかったようで、相当驚いていた。
そうは言っても、ユナは昔はともかく、今は貴族の家を出た身だし、俺に至ってはただの平民だ。
ジル先生も、医師ではあるが、そんなに権力を持っているわけではない。
そんな彼は、サウスバブルの街に戻って、喪が明けたアイシスさんと結婚し、開業医として忙しい毎日を送っている。
俺とユナも、一旦サウスバブルに帰ることにした。
本来ならば契約に従い、クラーラ探索の旅を優先させないといけないのだが、ウィンの準備が整っていなかった。
なにしろ今度の旅の目的地は、『異世界』だ。帰って来られない可能性だって十分にある。
いままでの気ままな放浪の旅とは訳が違い、聖地『アイゼンシュタート大寺院』の創始者、アイゼンハイムとして、後継者への完全権限委譲をはじめ、領主としての雑務など、かなり準備に時間がかかるということだった。
どうせ時間がかかるならば、再度『
俺とユナは、また『タクヤ結婚相談所』を再開させた。
正式には、ユナは助手で、隣の『ユナ上級ハンター依頼受付所』の経営者でもあるのだが。
なお、ミリアも俺達と一緒にサウスバブルにやってきて、現在、ユナと一緒に寝泊まりしている。
つまり、俺とユナは一緒に生活している訳ではないのであって……要するに、恋人同士としては、それほど進展していない。
ミリアは俺とユナに懐いていて、本当の娘みたいだ。
年齢でいえば十三歳ぐらいだが、もう少し幼く見える。
それでも、娘として考えるならば大きいのだが、徐々に感情を取り戻しつつある彼女、ほんの少し笑みを浮かべただけで、俺達はほっこりした気分になれる。
ユナはまだ十七歳、少なくとも結婚は考えていないようだ。
俺もまだ十九歳、彼女と同じく、結婚はまだ早いと思っている。
しかし、もう少しユナとは進展があっても良いんじゃないか、とは考えているが……意外と彼女のガードは固い。
結婚相談所の方の経営は順調で、連日数組のカップルを誕生させているのだが、ここ最近はもう相談を受け尽くしたのか、遠方からの客がメインとなっていた。
そして、その日は訪れた。
荷物を沢山載せた豪華な馬車が、『タクヤ結婚相談所』の前に止ったのだ。
「……やあ、タクヤ、久しぶり。待たせたけど、やっと準備が整ったよ」
満面の笑みで降りてきたのは、ウィン、本名・アイゼンハイムだった――。
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