第37話 「一緒に泊る!」

 一通り観光を終えた俺達は、明日からの旅に備え、準備を進めることにした。


 まず、馬車の確保。


 それほど長旅にはならない予定だが、目的が大事おおごとなので、二頭立ての馬車を一台、丸々レンタルすることにした。


 御者は、ジル先生が経験があったし、ユアンも召使い時代に教え込まれていたということで、わざわざ誰かを雇う必要がなかった。


 華美な装飾はなく、その代わりに頑丈そうな作りの馬車。

 馬も、かなり良いものを借りる事ができた……らしい。これは俺では分からないのだが、自分の愛馬を持つミウがそう言うのだから、間違いないだろう。


 荷物として、テントを二つ、人数分の寝袋、毛布、鍋や食器といった、野宿に必要な道具と、ナイフやランタンなど小道具を買い足し、水と保存食、油などの消耗品など。

 基本的にはそれらは馬車の荷台に置くのだが、歩いて旅をすることも想定し、大きめのバックパックも人数分用意した。


 旅の途中は宿場町に立ち寄る予定だったので、なぜ野宿の道具が必要なのかと思ったが、馬車が壊れたり、馬の調子が悪くなったり、その他何らかのトラブルにより馬車で移動できなくなったときのために用意しておいて損はない、との事だった。


 ユナによれば、アクトは冒険好きなので、とんでもないところに行っている事もあり、そうなると何日か町で待たされる、うかつに足跡そくせきを追いかけると大冒険になる可能性すらある、ということで、はやくもうんざりした気分にさせられた。


 素直に古都キエントで待っていれば、彼は少なくとも十日に一度は帰って来るということなので、それが俺達が辿り着いた日であることを祈るばかりだ。


 馬車に荷物を積み込んで全員乗り込み、オルド公の公邸へと帰ったのは、日が大分傾いた頃だった。

 ところが、そのまま俺達の馬車は奥につながれ、その代わり、もっと豪華な馬車に乗り換えて(オルド公も乗り込んで)、高級なレストランへと食事に連れて行ってもらった。


 オルド公が、ご馳走してくれるのだという。


 一応、国王陛下に謁見したときと同じ、高そうな服装に着替えていたが……なんか、俺達以外の客、全員貴族に見える。

 いや、オルド公はもちろん、ミウも、ユナも元貴族だったか……。


 こんなところへ連れて来られたのは、オルド公が今回の謁見を、大成功だったと認識していたからだった。


 俺を陛下の元へ連れて行ったことは大正解だった、感謝していると何度も言われた。

 オルド公からすれば、自分の連れてきた占い師が姫様を助ける道を開き、その旅に、将来の娘婿が参加するように任命されたのだから、してやったり、という気分なのだろう。


 ミウまでもが参加することになったのは少々意外だったが、ジル先生もいることだし、心配ないと、自分に言い聞かせるように話していた。


 その高級レストランの味は……正直、上品すぎて、俺の舌には合わなかった。


 ユナやミウ、それに育ちのよいジル先生は絶賛していたのだが……ユアンに後で聞いてみると、


「本音を言うと、昼間のバナンサンドのほうが美味かった」


 と言うことなので、彼は同士だ。

 あと、ミリアの感想も


「……ふつう……」


 だったので、俺達の意見の方が多分正しい、と思う。


 明日の早朝出発と言うことで、飲食は程々に控えて、早めに公邸に帰った。


 このお屋敷、来客用の寝室が六つもあって、全ての部屋にベッドが二つずつ置かれている豪華仕様だ。

 この日は俺達しかいなかったので、一人一部屋割り当てられる事もできる。

 しかし……機嫌の良いオルド公は、ミウとユアンを同じ部屋に泊る事を勧め、二人は恥ずかしがりながらもそれを受け入れた。


 ジル先生は一人。


 ユナも、


「今日はゆっくり一人で眠れる!」


 と、喜んで? いたのだが……。


 ミリアが、


「……私はタクヤと同じ部屋に泊る……」


 と言い出したものだから、ユナが


「えっ……それってどういうこと?」


 となって、なんか妙な雰囲気になった。


「えっと、あの……ミリアちゃん、タクヤさんの事……好きなんですか?」


 ミウがストレートに聞いたので、俺の方が焦ったのだが、ミリアは全く顔色を変えず、


「……ふつう……」


 と答えた。


「だったら、どうして? タクヤと一緒に泊ったりしたら、何されるか分からないわよ!」


 ユナが必死にミリアを説得する……って、それ、酷くないか?


「……私は、タクヤの側にいるように命令されている……タクヤのこと、守らなくちゃならないの……」


 と、相変わらず無表情でミリアが話すのを聞いて、ユナは、なにかピンと来たようだった。


「……そっか、あの二人がミリアに命令しているんだ……このパーティーで一番重要で、ちょっと弱点でもあるタクヤの側にいて、常に守るようにって」


「……そんなかんじ……」


 ……それって、微妙にショックだ。

 それを聞いて、ユナは真剣に悩み始めた。

 でも、それが俺にとってはちょっと不満で、ユナの手を取ってみんなから離れ、廊下の隅で話をした。


「ユナ、大丈夫だって。いくら俺だって、変なことしたりしないよ。ミリアはまだ、子供じゃないか」


「……うん、まあ……タクの性格からして、それは無いとは思うけど……でも、もう十三歳、子供じゃないよ。それにあの子の理想の結婚相手、見えなかったんでしょう?」


「ああ、まあ、そうだけど……」


「だったら、それって……可能性が二つ、あるのよね?」


「二つ? ……ああ、『誰と結婚しても幸せになれない』か、『最良の相手が俺』の場合……」


 俺がそこまで言ったところで、ユナが、しまったという表情になっていることに気付いた。


「……ひょっとして、妬いてる?」


「ばっ……馬鹿っ、何言ってるの! 私は、ただ、ミリアちゃんの事を心配しているだけ!」


 真っ赤になって反論するユナ。


 その後、ちょっと沈黙が続いて、ユナは、


「……決めた! 私もタクの部屋に、一緒に泊る!」


 と言い出した。


 えっと……でも、一部屋にベッドは二つしか無いわけで……ちょっとよく分からない状況になりつつあった――。

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