第26話 能力の詳細

 デルモベートという名の老占術師は、しばし思案顔となったが、やがて何かに納得したように大きく頷いた。


「……なるほど、もし姫様の結婚相手が見えたならば、つまりは姫様は助かる、健康になる、ということですな」


「そうなります。しかも、彼の能力はそれだけに留まりません」


 オルド公が自信たっぷりにそう言うと、老占術師とイケメン魔術師は、さらに興味津津な様子で俺を一瞬見た後、オルド公に視線を戻し、次の言葉を待った。


「彼は、最高の結婚相手の容姿を明かすだけではなく、その者に会う為の手掛かりも告げることができ……必要とあらば、直接案内することすら可能です」


「……ほう。直接案内、とな?」


 老占術師は大きく目を見開いて、再び視線を俺の方に向けた。


「はい、僕には、二人をつなぐ『運命フォーチューンライン』が見えます。それをたどっていけば、運命の相手に出会える、というわけです」


 緊張しながらも、なんとか噛まずにはっきりと答えることができた。


「……ふむ……なんとも興味深い能力ですな……面白い。いや、これは……使い方によってはとんでもない力じゃ。一国の運命すら左右しかねない」


「……一国の運命?」


 今度は俺が戸惑いの声を上げる番だった。


「眠り続ける姫様の、目を覚ます手掛かりを見つけるだけでなく、その姫様の結婚相手……つまり、次期国王を見つけ出す、ということなのではないですかの?」


「次期国王……そうか……そうですね、そうなりますね……」


 実際のところ、『理想の結婚相手』というだけで、本当に結婚に至るかどうかは分からないが……そういう意味で占い、姫君が健康になったのであれば、そうなる可能性は十分に考えられる。

 つまり俺の能力が、次期国王を決めてしまう事になり得るのだ。


「しかし、先生も占術が得意なのでしょう?」


 急に自分にのしかかるプレッシャーを恐れた俺は、目の前の、恐らくこの国でも有数の占術師に、なかば助けを乞うようにそう尋ねた。


「……いや……残念ながら、儂の占いは、神に質問をしてみて、いわばヒントとなる『イメージ』を得るだけの能力ですじゃ。かならず返答が帰って来るとは限らぬし、そのイメージから正解を導き出すには苦労する」


「……難解な言い回しですが、なんとなく理解はできます。僕も、依頼者を見たときに最初に得られるのは、相手を特定するためのヒントとなる『イメージ』だけで、その名前などははっきりとは分かりません。その代わり、二人を繋ぐ『ライン』が見えますが……それに先生と違って、『理想の結婚相手』限定の占いなのです」


「……ふむ。神は、なかなか万能な能力は与えてはくれない、ということか……正直なところ、儂も占える内容はほぼ『国家の一大事』に限定される……まあ、それ以外に、たまに『神のきまぐれ』のようなものを、一方的に見せられることはあるが……いや、話が逸れましたの。では、タクヤ殿。もう一つ教えて欲しいのじゃが……貴殿のその能力、誰に対しても有効なのですかな?」


「……いえ、残念ながら、自分の事に関しては占えません。あと、既に二百人近くを占いましたが、残念ながら一人だけ、理想の結婚相手が見えませんでした」


 正直にそう話したのだが……すぐ隣にいるユナの顔が、怖くて見えない。


「ほう、二百人でたった一人……では、ひとつお願いがありますが、よろしいですかの?」


「はい、なんでしょうか?」


「この……ミリアの、理想の結婚相手を、占ってはもらえませぬかの?」


 その言葉を聞いて、俺は思わず、えっと声を上げた。

 焦点が合っていないような目つきで、一切表情を変えず、ぼーっと立っている女の子。

 まだ十二、三歳ぐらいにしか見えない。


「……えっと……失礼ながら、まだ結婚できる年齢ではありませんよね?」


「おそらく、そうであろうな。実のところ、事情があって、はっきりした年齢が分からぬのですじゃ。ご覧の通り、少し変わったところもある。しかし、儂もジフラールも、この娘には幸せになって欲しいと願っているのですじゃ」


 ……なるほど、何か複雑な背景があるようだ。

 イケメン青年であるジフラールさんの方を見ると、彼も真剣な表情で頷いた。

 そこまで言われるのであれば……いや、望まれているのであれば、問題は無い。


「……分かりました。では……失礼します」


 相手を見つめて意識を集中するだけで俺の能力は発動されるのだが、ここはそれっぽく、右手を彼女の頭にかざして、理想の相手を読み取ろうとした。

 彼女は、相変わらず表情を変えず、ぼーっとしている。


 そして俺は、衝撃的なある事実を目の当たりにし、目を見開き、口をぽかんと開けてしまった。

 それを見た老占術師が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 俺は思わず、こう口走ってしまいそうになった。


「――この娘は、人間なのですか?」

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