第25話 黒い来客
セントラル・バナンの港は、サウスバブルの軽く十倍は有ろうかと思われるほど大規模なものだった。
次々に入港する船が、てきぱきと動く作業員によって誘導され、着岸する。
そんな中、俺達が乗る船は特別扱いだった。
よく分からないが、外からも貴族が乗っているという事が分かるように、なんらかの標識が掲げられていたらしい。
この頃には、ミウとユアンも正装に着替えて起きてきていたが、眠そうだった。
そして係員に案内されるまま、二頭立ての大きな馬車へと乗り込んだ。
内装も乗り心地も、アイフォースの馬車より洗練されている。
いきなり王に会うと聞かされたときは驚いたが、バナンに着いたならばまずは挨拶に行くのが礼儀なのだという。
王城は港から見えてはいたが、それは建物自体が巨大だったからであり、相当歩かないといけないと覚悟していたので、馬車で移動出来る事は、俺とユナにとっては幸運だった。
馬車に乗ったまま城内に通され、来客用の建物の玄関前広場で降りて、そのまま客間で待たされる。
他にも挨拶に来ている貴族は多いようなので、順番待ちということなのだろう。
それにしても……この客間、豪華すぎて逆に落ち着けない。
広さは、横十五メル、横二十五メルほど。
壁には大きな絵画が飾られており、その額縁は金色だ。
天上には豪華なシャンデリアが三つも着いており、一つにつき二十本以上のロウソクが灯されている。
それに、メイドが二人待機しており、
「「なんなりとご用件をお申しつけください」」
と揃って言われて、こちらが恐縮するほどだった。
オルド公は出されたお茶を優雅に、ジル先生はちょっと緊張の面持ちで、同じソファに座って飲んでいる。
俺とユナも、その対面で同じようにお茶を飲んでいるのだが、俺がジル先生以上に緊張しているのに対して、ユナはどことなく、オルド公と同じく優雅だ。
今の服装は、冒険者用ではなく貴族のそれで、よく似合っている。
俺も、一応それなりの服を借りて着ているのだが、なんかしっくり来ない。
ユアンも俺と同じで、なんか正装が似合っていないが、ミウはさすがの着こなし。
緊張するどころかいつもの好奇心を発揮し、ユアンを連れて、飾られている絵画に見入っている状況だ。
と、ここでドアをノックする音が聞こえ、オルド公が待機しているメイドに頷いて合図する。
するとその娘は一礼してドアに近づき、そっと開けた。
そして入ってきたのは、老人と青年、そしてまだ十代前半と思える金髪の少女だった。
三人共が黒系統の上質なローブを纏い、なにやら怪しげな雰囲気を醸し出している。
「……デルモベート先生、ご無沙汰しています!」
貴族であるオルド公が、慌てて立ち上がって挨拶する。
その様子を見て、俺を含む全員が同様に立ち上がり、姿勢を調えた。
「剣聖オルド殿、久しぶりですな。先程城内に入られたと聞き、お疲れのところ申し訳ないが、挨拶に寄らせていただきました」
「これはこれは、恐縮です。しかし、なぜ先生ほどのお方が……」
「それはもちろん、貴公が今回、姫様を救う占い師とその仲間を連れて来られたからに他なりませぬ」
「な……私が、ですか? それは、先生の占いの結果ですか?」
「その通り。占い師がより優秀な占い師を言い当てる、というのも妙な話ですが、ご存じの通り、儂に見えるのは神からの一方的な、助言のようなもののみですのでな」
「……しかし、その予言は間違いなく当たる」
「今のところ、大雑把に言えば、ですがな……おっと、本題に入る前に、紹介しておきますかの。この男は儂の弟子で、名前はジフラール。そしてこの娘は、ジフラールのさらに弟子、つまり儂の孫弟子の、ミリアですじゃ」
その言葉に、紹介された二十代前半ぐらいのイケメンは、
「ジフラールと申します、以後、お見知りおきを」
と、優雅に挨拶した。
そして少女も、
「……ミリアです、よろしくお願いします……」
と一応挨拶したものの、何か無表情で元気がないというか、精気があまり感じられなかった。
そしてこちらも全員、自己紹介して挨拶していく。
俺が一番最後になり、名前を名乗って、自分が占い師であることを告げると、
「おお……貴殿が、神から特別な力を授かった方ですな……なるほど、いい眼差しをしておられる……貴殿ならば……いや、貴殿にしか、姫様は救えぬ……」
ちょっと不気味な笑顔で俺のことを値踏みするように見つめる老人……正直、怖い。
「デルモベート先生、それは……占いの結果、ということでよろしいのですか?」
オルド公が、確認するようにそう尋ねた。
「その通り。オルド殿も、そう思われていたのではあるまいか」
「……貴方が、王女を救う手立てとして、『国中の領主から優秀な医者と占い師を一人ずつ参集せよ。さすれば、我を超えし神の御使いと、この苦難を救うべき勇者達が集うであろう』という占いをしたことは知っていました。しかし、先生を超えるほどの占い師がいるとは信じられなかった……だが、その青年は、ある一点においては完全に的中させる能力がある」
やや興奮気味にそう語るオルド公の言葉を聞いて、老人はニヤリと笑った。
「ふむ……相当自信があるようですな……して、若者よ。もし差し支えなければ教えてはいただけまいか。貴殿が、何を、どのように占い、的中させるのかを」
ギン、と目を見開き、その老人は俺を見つめた。
彼の弟子だという青年も、興味深そうにこちらを見つめている。
ただ、その隣の女の子だけは、相変わらずぼけーと突っ立っているように見えた。
「あの……もちろん、得意な占いを言うのはいいのですが……たぶんガッカリしますよ」
「……ガッカリなど、するものか。貴殿の能力は儂を超えておるはずじゃ。さあ、神に愛され、授けられたその能力の正体を、我に話してくだされ!」
なんか、勝手に盛り上がっているようだが……しかたない、正直に言おう。
「俺……いや、私の占いは……相手の、人生で最高の結婚相手を見つけることです」
「……なん……じゃと?」
――ちょっと冷たい空気が流れた気がした。
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