春はすぐそこに(BL)

「ねえ、寒いなって思ったら氷だよ。暦ならもう春なのにね」

 指し示した先にあるのは、水溜りに薄く張った氷だ。

「こうゆうの見るとさぁ」

 答えながら、スニーカーの爪先はちょんちょんと氷の上を慎重に突く。

「こうしたよね」

「おまえらしいな」

「どういう意味?」

 曖昧に笑いながら、するりと流れ出して行く水を息を飲むようにしながら眺める。

「昔さ、先生が言ってたんだよね」

 瞳を細めながら、傍の相手は答える。

「雪や氷が溶けることで、またひとつ春が近づきます、って」

 得意げな笑い顔と共に告げられる言葉はこうだ。

「早く春になるおまじない、ね」

 やわらかなぬくもりが、胸の奥を淡く溶かしていく。



薄氷を踏みしだかれて春溶ける


第二十九回 #Twitter300字SS お題:氷

「ほどけない体温」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054880429454)周と忍

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