第13話

「びっくりしたっ。お、おい大丈夫か?」

 須藤は意外にも地面に倒れこんだレンに手を差し伸べた。

「あっ、ごめんなさいっ。よそ見してたものですから」

 須藤の手を握り、レンは立ち上がった。

 須藤はレンの顔を見ると、みるみるうちに顔を紅潮させた。

「おい、レン。大丈夫かー? 早くその男から離れた方がいいぞー。そいつは凶暴な上に、人類史上最底なバカだからな~」

 そう言って、おれがレンの肩をポンっと叩いた途端、須藤に首根っこを掴まれ、少し離れた場所まで連れて行かれ、しゃがみこんでおれに小声で話しかけた。

「り、凛太。お前、あの娘の知り合いか?」

「なんだよ、びっくりさせんなよ。こんな人混みの中でおれとやりあうのかと思ったぞ。レンはおれの彼女の親友だ」

「お前、彼女なんかいたのかよ。まぁいい。頼みがある」

 粘土に爪楊枝で線を引いたくらいの細い目がいつもの倍以上に開かれていた。その異様な表情を見て、ふと感じた違和感をすっかり忘れてしまっていた。

「さっきの娘をおれに紹介してくれ。頼むっ」

「うーん、無理だと思うぞ。だって、この間お前の手下のやつに拉致られかけたんだぜ?」

「はっ、まさか。三週間前におれんとこのメンバー六人を病院送りにした奴って、凛太だったのかよ?」

「その通り。レンを助け出すのにまたボコボコにされたよ」

「あいつら、だから何回問いただしても誰にやられたのか答えなかったんだな。女に乱暴したことがおれにバレるからか」

「そう。だからそんな奴らのボスを紹介することはできねーって、あれっ?」

 ずらしていた目線を須藤に戻すと、そこに須藤の姿はなかった。ふと辺りを見回すと、レンの前で土下座している須藤が目に飛び込んできた。

「申し訳ないことをしたぁー。この通りだ。どうか許してくださいっ」

 長身の強面オールバックの大男が、ハーフ美女に土下座で許しを乞うている。街ゆく人はその異様な光景を、ひそひそと眺めている。

「ちょっと、どうしたんですか? 謝らなきゃいけないのは私の方……」

 レンが話終わるのを待たずして、須藤は再び土下座の体勢のまま、声を張り上げた。

「三週間前の事件。あなたを連れ去ろうとした不届き者はおれの仲間でした。普段から女に乱暴するなと教育してるのに、すまなかったぁ~」

 レンは困惑の表情を浮かべ、おれを見つめている。おれは言葉を発さず、無言で頷いた。

「ううん。いいんです。凛太くんには悪いけど、あの事件のおかげで私はかすみと仲直りできたし、あなたに責任はありませんよっ。さっ、早く顔をあげてください」

 そう言われた須藤は「ありがとうございます」と心からの感謝を叫びながら顔をあげた。そしてカメレオンが変色するより早く顔を真っ赤にし、かすれた声で「ぴっ、ピンク」と言った。

 そう、その体勢、その距離から上を見上げると、ミニスカートを穿いているレンのパンツを傍観できてしまうのだ。

 自分のパンツの色を言い当てられたレンは「このド変態」と叫び、須藤の顔面に靴底を押し付けた。須藤の口元はパンツが見えたことによる優越感からか、うっすらと微笑んでいる。女の子に顔面を蹴られ、喜んでいるまさにド変態の図であった。

 レンは身を翻し、かすみを連れて街の喧騒に消えゆこうとしていた。

「残念だったな。まぁ、なんだ。ドンマイ、ド変態」

 そう言って、軽く須藤の肩をポンっと叩くとおれはかすみたちのあとを追った。

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