第2話「夜中の電話」
電話がかかってきたのは夜の10時。
英語の予習を済ませて、そろそろお風呂に行こうかって時に携帯に通知が飛んできて、同じ部活の祥子が「電話していい?」って。
明日の部活のことかなーってホイホイいいよーって言ったのが始まりで、そこから30分、永遠と「恋の相談」に付き合うハメになった。
「ねぇ? どう思う?」
「いやいや、どうって言われてもさー……?」
正直、恋ってものを私はよくわからない。
中学3年にもなればそりゃ彼氏彼女とかいる子もいるし、好きな人がいるんだー? みたいな話で盛り上がるのも仕方ないとは思う。
だけど私には未だにその感覚が理解できなかった。
「祥子的には告白あるのみなんでしょ? ならしちゃえばいいじゃん」
「もーっ!! そんな単純な話じゃなくてぇ〜!」
そんな単純じゃない話を恋愛未経験の私に相談する時点で間違っていると思うんだけど祥子はその点を気にしない。
恋は盲目って言うけど重症だなーってひとごとのように思う。
いや、ひとごとなんだけどさ。実際。
「だって怖くない!? どうなっちゃうのかわかんないじゃん!?」
「いやいや、だってショーコ様ですよ? なに言ってんですか」
祥子はモテる。
いわゆるモテモテだ。
テニス部で成績も良くて、実際可愛い。
同級生の中では一番可愛いんじゃないかってぐらい可愛いし、性格もいい。頭も良くて運動もできる。後これでお嬢様だとか言ったらマジで神様ぶん殴りたくなるレベルだけど、そこまでは凄くない。普通のお家。一般家庭。
けど、そんなウチと変わらないような有象無象から奇跡が生まれるのだから人間というものは平等ではない。生まれながらにして不平等だ。マジファック。
「そのまじファックってのさ、何かのドラマの影響? 似合わないよ?」
「んー、ドラマってか漫画……? 最近ちょっとハマってて」
「いいけどさー」
ゴロゴロときっと布団の上で転がっているんだろう。もぞもぞ音がこもる。
ベットじゃなくて布団。洋室じゃなくて和室なのが祥子のギャップというか可愛いところっていうか。
そう言うのが男子にモテるんだろうか。
「実際、浴衣とかちょー似合ってたもんねー、去年の夏祭り」
「いつの話よ」
お嬢様って雰囲気を醸し出してるくせに純和製もイケるとかマジありえない。半分ぐらい分けて欲しい。主にお嬢様成分を。
「綾香って変なところで子供っぽいよね」
「子供っぽいって何がよ」
「ブラの色とか髪型とか」
「なっ……!!」
「もうちょっと女の子らしくしたら?」
「うっさいなぁっ?!」
余計なお世話だ!
ちらりと、タンスに仕舞い損ねて放ったらかしされている下着類に目がついて、コソコソとそれらを片付けた。なんて言うか、だってメンドくさいんだもん。
ブツブツ文句を言いながら、そんなことに気を使うぐらいなら女の子らしくなくていいと正直思う。
「正直ねぇ……?」
祥子は呆れ顔だ。たぶん。
「そんなことより今はしょーこの話でしょー!?」
矛先を変える。
このままだとグサグサ刺されたままヤスリがけまでされそうだから。丸くなっちゃう。私が。
「それでその意中の王子様は誰なのさ? 結局教えてくれてないじゃん」
祥子に好きな人がいると言うのは去年の冬頃から知っていた。
先輩を始め、次々と玉砕していく男子を見て不思議に思って聞いたのだ。「なんで付き合わないの?」と。すると祥子は照れ臭そうに教えてくれた。「だって好きでもない人と付き合いたくないじゃん」って。
「そのお嬢様に選ばれた素敵な殿方ってのが私は気になるんですけどねー」
とは言いつつも、実際のところどうでもよかったりする。
けどちゃんと聞いておかないと話が前に進まないし、そろそろお風呂に入りたい。さっきからお母さんが下から早く入れって煩いし。
「……しょーこー?」
ねー、聞いてるー? って沈黙に向かって尋ねかけるともぞもぞ動く音が聞こえては来る。電話は切れてない。まさか寝落ちしたとかじゃないでしょうねーって思うけどそれはそれでもいい。だったらこのまま電話を切れば良いだけの話だ。
「あのね、実はさ」
ドキドキと、聞いている私の方が緊張するような甘い声色が飛び込んできて思わず息が止まった。
「……なに……?」
勿体ぶっているわけではないのだろうけど、実はと言いながら黙り込んでしまった祥子に思わず聞き促す。
何だろう、これ……何なんだろ……?
バクバクと喉から心臓が飛び出そうだ。まるでこれじゃ私が告白されようとしてるみたいじゃんッ……?! て明後日の方向に頭がパンクしそうになる。
「山本……亮太くん……」
「へ……ぁ……?」
「だから、山本亮太くんっ……」
きゃーっと恐らく電話の向こうで顔を真っ赤にして枕か何かに顔を埋めているのだろう。バタバタ暴れる祥子の様子が伝わって来る。
けれど私はそれどころじゃなかった。山本亮太。
祥子から教えられた名前が反復する。
「うそ……? 本気で?」
「……うん……」
ぎゅっと胸の奥が締め付けられるように苦しいのは祥子のドキドキが憑ったからだとは思えなかった。
バクバク、だくだく。
上手く息が吸えなくて、お母さんがばーんって部屋の扉を開けるまで「あうあう」言ってた。
「お、風、呂」
「あ……うん……?」
ドキドキを止められないまま「また明日ね」って電話を切って、ふわふわした気持ちで覗き込んだ洗面台に映る私の顔は、
「ぁ〜……?」
真っ赤だった。
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