万年筆を買うにあたって

 さて、試筆が要るような万年筆は高価である。一本一本がショーケースにディスプレイされているのだから当然だ。すると奥ゆかしいかな日本人、買わないのでは申し訳ないのではなどと考える人も多いらしい。だが販売員をしていた身として、本気で悩んだ末に買わないという選択はあっても良いと思う。即決できる豪胆さがあるのも美徳だし、売る身としては確かにありがたい。だが考えるまでもなく一万円以上するペンは高級品だ。これだ、という一本との出会いを大切にしたい。そういう出会いをプロデュースしてくれる販売員との出会いもある種の縁である。

 十割を冷やかしの気持ちで来る客は心底暇だなと呆れるが、正直十分もすれば忘れる。仮に貴方が買わないと決断したとしても、そのことで貴方の親を呪ってやろうという程恨みを持つ販売員はいない。むしろ今度来た時は買ってくれるだろうかと楽しみにするものだ。だからどんと胸を借りるつもりで店に行けばよい。後のことはプロが導いてくれるだろう。

 高級な品をろくに選定もせず買って、ほこりを被せてしまうようなことでは所持者の品位を落とす。そのような無粋はないようにしたいものである。

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