第四章③
インカムでこちらの音が聞こえないようにボリュームを絞りながら、引き金を二回、三回と引き絞る。
周りにいたオタクだけでなく、螢樹やアンリも唖然と言った表情で俺を見ていた。散々注意していた俺が発砲したのだ。それも当然の反応だろう。
NLFも同じような顔をしていたのが滑稽だ。自分たちが、ここに爆弾を持ち込もうとしたことを忘れているのか? 自分だけ安全圏内にいられると思ったら、大間違いだ。
NLFが、ニートたちが『神』に従っているのは、自分の身を守るためだ。だから、目の前に自分の身を脅かしそうな俺という存在が現れれば、彼らは俺に従うしかない。
今彼らが自分の身を守る唯一の方法は『神』に従うことではなく、銃口を向けられないように俺に従うことだけだ。
自分で数回鳴らした騒音の余韻に浸りつつ、その様子を眺めながら、俺はインカムのボリュームを元に戻した。
『何をやっているんだ、馬鹿者!』
戻した瞬間に、再び俺の鼓膜を突き破りそうな教官の怒号が聞こえる。
「……聞こえましたか」
『私も近くにいることを忘れているのか? いくらインカムのボリュームを絞っても、この距離なら直接発砲した音は聞こえるわ! いったい何を考えている、無辺四曹!』
「大丈夫ですよ。ただの空砲ですから」
『そういう問題では、』
「そういう問題なんですよ!」
教官の言葉に被るように、俺は叫んだ。
「問題児らしく解決しろって言ったのは、教官でしょ? だったら問題児は問題児らしく、問題起こして解決しますよ!」
『だが、それではまたお前の立場が……』
こちらを心配してくれる教官の声に、俺は思わず頭を下げそうになる。なんだかんだ言いながらも人払いをして俺に注意をしてくれる、優しい人なのだ。この人は。
「相変わらずお優しいですね、教官」
『……こんな時に、ふざけたことを言うやつがあるか!』
いや、別にふざけているつもりはないのだが……。
「それに、教官が言っていたんじゃないですか。結果が大事だ、って。俺が上に睨まれてるのは昔からです。今更問題行為が一つ増えたところで、俺の立場なんて変わりはしません。不都合があれば俺の切り捨てられて、後はあいつらが引き継ぎますよ」
『それを聞いたお前の部下は、何と言うか考えたことはあるか?』
「……あいつらが何と言おうと、俺は『仲間』の居場所を守れるのなら、それで構いません」
インカム越しに、観念したような教官のため息が聞こえる。
『……上に報告する、私の立場になってもらいたいものだな。無辺四曹』
「だったら、こう言えばいいじゃないですか。『いろいろ問題はありましたが、つつがなく作戦は終了しました』って」
『いろいろあった時点で、つつがなくないだろうが!』
「ごもっとも」
肩をすくめながら教官との会話を切り上げ、俺は螢樹とアンリに指示を出す。
「螢樹とアンリはNLFを確保。その後スタッフと協力して、この場の混乱を治めろ」
「ムヘンはどうするデスか?」
「俺は脱走兵を追う」
「隊長が?」
俺の言葉に、螢樹が息をのむ。
「何を言ってるんですかっ! 隊長が抜けたら、部隊の指揮はどうするんですかっ!」
「この中では俺が一番足が速い。時間を考えると、俺が行くのが適任だ」
「でも、指揮は誰がするんですか!」
「俺とお前が同じ階級なのを忘れたのか? 俺の代わりに指揮を取れ。アンリ、補佐を頼む。不動もそれでいいな?」
「了解デース」
『いいよー』
「なっ! そんな、急に言われても!」
慌てている螢樹をよそに、俺は話を進めていく。
「現時刻を持って、関川無辺四曹士は第八特別国家公務員法周知・送迎隊を一時離脱。その間部隊の指揮権は、福留螢樹四曹士に移行する!」
「だから、私の名前はっ!」
「あってるだろ? 螢樹」
「!」
「このまま、脱走兵を逃がすわけにはいかないんだ!」
逃がしてしまえば、それだけ脱走兵が救われるチャンスが減ってしまうから。
だから。
「復唱しろ、螢樹。頼む」
「ん~も~! 分かった、分かりましたよ! やりますやりますよ、もうっ! そんなにニートが大事なら、どこへでも行けばいいんですっ! 隊長のバーカ!」
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