第14話 36枚

 人はクソをしたときトイレットペーパーで肛門を拭き上げる習性があるが、一説によるとクソに潜在している大腸菌群を手につかないようにする為には何とトイレットペーパーを36枚重ねにして拭かねばならないらしい。この神主がそれを実行しているとも思えない。 

 ということは……そういうことだ。今頃僕の肩は多くの大腸菌達の観光スポットと化していることだろう。標高72mmにも及ぶ肩甲骨の山頂を踏破されていることだろう。




 Holy sh〇t!! クソがっ!!

F****#j#*!!***&**#*#*#*#*##*5,──#**#s*#*#***$*##*:*#*#c*#*-ーー*#*#8*#*#p**#*#!!#*#*#ma***#*#c#**k##*y*#**#$*#*****ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!


 ……ふん……まあいい。よくよく考えたら先に手を出した(恐大便を送り付けた)のは僕だ。過失割合でいったら10:0で僕が悪い。これで喧嘩両成敗ということにし(させていただき)、さっさと肩に除菌用アルコールを吹きかけてこの件はもう不問にしよう。僕には揉め事を起こしている時間はないのだ。レッドカーペットの如く顔を真っ赤にした神主に対し、僕は意を決して切り出した。勿論、除菌用アルコールを吹きかけた後で。


 「すみません。聞きたいことがあるんですが……」

「聞きたいことだと!? いきなり肩にアルコールを吹きかけたと思ったらそれか!?なめてるのか!? 聞きたいことだらけなのはこっちなんだよ! というか何で肩にアルコール吹きかけた!?」

 やはり取り付く島もないな。分かってはいたがやはりそう易々とこの事態は収められないようだ。そればかりか神主の赤み具合は既にサンタクロースを優に超えている。ここで馬鹿正直にアルコールを吹きかけた理由を答えようものなら、一体次はどの赤を超えてくるのかまったくもって想像もつかない。ていうか赤み具合って何だ? 虫刺されの度合いか!? 僕はひとしきり自問自答した後に本題を思い出し我に返った。そして神主を落ち着かせる方法の候補を頭から幾つか捻り出した頃、それを狙ったかの様にフンの声が聞こえてきた。

 フンは言った。


 (マグロの配分のことじゃない?)

 

 (赤み具合のことはいいんだよもう! それより聞いてくれ。神主を落ち着かせたいんだがどの方法が良いと思う? 今から候補を挙げ)

 (鎮静剤が良いんじゃない?)

 (フライングやめろ! いいかフンちなみに鎮静剤は候補に入ってない。残念だったな)


 その事実を知りフンは悔しそうな顔をしている。ような気がした。それをたしなめるかのように僕は更にフンに言い聞かせた。


 (そんな顔をしても無駄だ。いいか。今から候補を三つ挙げるからちゃんと最後まで聞くんだぞ。そしてどれが良い案か答えるんだ。分かったな。それじゃあ一つ目は)

 (スタンガンが良いんじゃない?)

 (だからフライングするな! 失格にするぞ!)


 (失格って何? 失格なんてものが存在するの? 今やっているのは何かの競技なのかしら?)


 ……相変わらず生意気なウンコだ。思わず勢いで出ただけの言葉を見逃さず掘り下げてくる。その口をトイレのラバーカップ……またの名をすっぽんといわれるアレで塞いでやりたい心情だ。幾ばくかの沈黙の後、僕はもうフンの横槍は無視して候補を伝えきることにした。


 (……一つ目は“土下座”だ。これをすることによりこちらの謝意や誠意が伝わる。恐らく相手は怯むだろう。その隙を狙って相談する)


 (二つ目は“大きな音を立てる”だ。これをすることにより相手は驚き、一瞬(口の)動きが止まる。その隙を狙って相談する)


 (三つめは“奉納”だ。かしこまった言い方をしているが、まあ要するにプレゼントをするって案だ。視覚的に一番効果のある贈り物は何だと思う? ……現金だ。万札をちらつかせれば途端に相手の目の色が変わる。その隙を狙って相談する) 


 意外にもフンは最後まで口を挟むことなく黙って聞いてくれた。本当にちゃんと聞いていたのかは定かではないが。僕は念の為、フンに今挙げた候補を復唱するように促した。


 (失礼ね。ちゃんと聞いてたわよ。えっと一つ目が“手刀”で二つ目が“腹パン”、そして三つ目が“金的蹴り”だったわよね)


 (暴力で統一されてるじゃないか!! 何一つ合ってないぞ!?)


 (こっちの案の方が確実だと思うけど?)

 

 僕の指摘に対しフンは悪びれもなく反論してくる。僕は更に溜まった不満をぶつけ返した。


 (代案を出すならせめて種類をバラバラにしてくれよ! 何で全部暴力カテゴリーからチョイスするんだ!)


 僕が心の中で必死にフンとやり取りしていると、それを制止するかのように神主が割って入ってきた。

 「なに、苦悶の表情を浮かべたまま、無言で何分もつっ立ってるんだ!? 肩にアルコールの件を説明する気にはなったのかぁぁぁ!?」

 怒りに打ち震え最早新色といってもいいほどの顔色をした神主はそう言うと、再び僕の肩に掴みかかろうとしてきた。僕はそれを闘牛士の如くヒラリとかわすと、思わず無防備になった神主の首目掛け勢い任せに手刀を叩き込んでいた。

 ドサッという音と共に神主が崩れ落ちる。その瞬間僕は彼が気絶した(落ち着いた)のを理解した。


 (採用してくれたみたいね)


 フンの皮肉とも分からない一言に僕は応えることをせず、それよりも神主の意外と綺麗なうなじ一点をただただ見つめることに集中していた。


 



 



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