第13話 修羅場

(ヒサク? ソンナモノナイワヨ)


 僕は最初、フンが何を言っているのかよく分からなかった。脳がとっさに理解するのを拒絶したのかもしれない。だがフンは大事なことは聞き逃さないようにか、わざわざご丁寧に二回言ってくれた。


(秘策? そんなものないわよ)


 うん、やはりどうやら秘策なんてものは無いと言っているようだ。間違いない。ここで聞き逃していたら作戦に多大な影響が出ていただろう。フンが親切なウンコで良かった。

 さて、秘策が無いと……。だからといってフンを責める気は起きない。僕が勝手に勘違いしていただけだ。確かにフンは秘策があるとは一言も言っていなかった。うん。責めるのはお門違いだ。だが、こうなるように仕向けたのは紛れもなくフンだ。僕には質問する権利がある。早速その権利を行使するとしよう。


(おい、この腐れ未来ウンコ! 何故神主と密談させたいのか、その真意をさっさと説明しろ!!!!)


 僕に質問されたフンは悪びれる様子もなく、淡々とその理由を説明し始めた。


(密談するんじゃなくて相談するの。人生相談をね。全てを説明して、これからどうしたらいいんですかねえ? って聞いてアドバイスを貰うのよ)


 ナメてるのかコイツは。僕はそれをする為にわざわざあんな死ぬ思いをしたというのか。だったらそれこそ他にいくらでもやりようがあっただろうに。


(そうは言っても相手はウンコ神の関係者よ。ある種、専門家といっても過言ではないわ。街角の占い師とかに相談するよりよっぽど良い答えが得られると思うわ)


 いつもの如くフンが僕の心のぼやきに反応してくる。思っていることが全て相手に筒抜けというのも考え物だな。まあ、この疑似テレパシーのおかげで色々やり取りできているのも事実だが。


(そうよ。感謝なさい)


 くっ……。まあいい。フンの主張もあながち間違いではない。確かにあの神社の神主なら何か良い方法を教えてくれるかもしれない。というか他に相談する相手がいない。過程はともかく結果的に前には進んでいる。そう思いたい。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 玄関から凄まじい声が聞こえたので、とっさに僕は再び窓から下の様子を覗った。下では強行突破を試みた神主が母の閉めた玄関のドアに挟まり苦悶の表情を浮かべていた。


(チャンスよ! 今なら固定されてるから話しかけやすいわ!)


(どこがチャンスだ! ドアに挟まれてる人に相談は持ち掛けるべきじゃない!)


 非常識な発言をするフンたしなめつつもやはり玄関の惨状が気になる僕は窓の下に目をやった。するとついさっきまで人を挟むという業務外の作業を行っていたドアがその口を閉じ、まるで何事もなかったかの様に入口に静かにたたずみ、ただただ本来の仕事を果たしている。


(神主が……居なくなってる……!?)


 まさか、ペシャンコにでもなったのか!? いや、そうだとしても流石に残骸ぐらいは残るはずだ。だが、辺りにはそれらしい物は見当たらない。これじゃあまるで神隠しにあったみたいじゃないか。神主だけにそういうことなのか!?

 気になって居ても立っても居られなくなった僕は、気付いた時には部屋を飛び出てそのまま二階から階段を駆け降りていた。玄関に着いた僕はその場に立ち尽くしていた母と目が合う。


一本かずもと! そんなに勢いよく駆け降りてきて、具合が悪いんじゃなかったの!?」


 僕に気付いた母は目を大きく見開き、怪訝そうにそう尋ねてきた。だが僕はそれに答える余裕はなく、結果として質問を質問で返すことになった。


「それより神主は!? さっき二階から神主が挟まって――」

「ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!」

 僕が言い終えるより前に誰かの叫び声がした! ……いや違う。これは何かが流れる音だ! 何かの流れる音がし、それと同時にどう見ても家族ではない男が何故かトイレから出てきた。よく見るとその男はさっきまでドアに挟まれていた神主だった。


「瞬間……移動!?」


 驚愕している僕に母が冷たく言い放った。


「何をバカなことを言っているの。便意が我慢できないからかわやを貸してほしいと頼まれただけよ」


 母が種明かしをしてくれたが、それだけでは全てを理解するには至らなかった。


「さっきまで修羅場だったじゃないか! あの状況からよく家に上げたな!?」


「ここで排泄するぞって言われたらどうしようもないじゃないの!」


 それはしょうがない。母の必死の訴えを聞き、僕は秒で納得した。

 その時だった。秒で納得したまさにその時、近くで話を聞いていた神主が僕に掴みかかってきた!


「貴様が巻野一本まきのかずもとかぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!」


 僕の肩を掴んでおり、鼻の近くに陣取る神主のその手からは、ほんのりウンコウの香りが漂ってくる。僕は叫ばずにはいられなかった。


「ちょっとぉぉ! 洗ってない手で触らないでえぇぇぇぇぇぇぇ!!! ウンコ臭いウンコ臭い!!!」


 僕の叫びを聞き届けた神主はその表情を更に険しくさせた。


「お前が言うな! 宅配便でウンコをを送り付けた……お前が言うなっ!!」


 神主の全く以て正当な主張に僕は何も言い返す言葉が浮かばなかった……。 


 

 

 


 

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学校一恐ろしい教師がウンコを漏らした話 冬のキリギリス @GRGRS-NTR

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