第7話 想定外

「巻野ぉ、後でバキュームカーを手配してやるからグラウンドで待っとけぇ。それと親御さんにも替えのパンツを持ってきてくれるように連絡しといてやるぅ」


 恐田はすれ違いざまに僕の肩を軽く二、三度叩くと、そう言い放ち教室を後にした。珍しく良い人を演じているが、こちらからしたら冗談じゃない。そんなことされたら完全に僕が糞漏者わるものだ。

 このままじゃ、アイツの糞漏あくぎょうも無かったことにされてしまいそうな勢いになってきている。


(なあ、フン。何か良いアイデアはないのか?)


(……わたくしの声が聞こえますでしょうか? 突然ですが、残念ながら貴方様は7日以内にそのお尻の大便を他の方に転移しないと死んでしまう呪いにかかってしまわれました)


 ……フンの声じゃない! もしかしてこれがウンコ神のアナウンスか!?


(申し遅れました。わたくし、ウンコの神をさせていただいている者でございます。さて、早速ですが簡潔に説明いたしますと、貴方様にはお尻のウンコを転移する能力が備わって……)

 フンの言った通りだ。と、なるとやはり僕は誰かにウンコを送り付けなきゃいけないってことか……。

(ウンコの神、待ってくれ。その件については知っている。だが、ルールが厳しすぎやしないか? ルールの改定を申し入れたい)


(申し訳ございません。それは出来かねます)

(何故だ!? ウンコの神本人なら如何様いかようにも出来るんじゃないのか!? 改定するまで抗議させてもらう!)

(色々と諸事情がございまして……。どうかご理解いただきますよう、お願い申しあげます)

(駄目だ! そんなんじゃ納得が……)

(どうしてもご納得いただけないのならこのまま貴方様自身が、ウンコになられる呪いをかけさせていただきますが、いかがなさいますか?)

(そうか。ならいい。納得した。もう大丈夫だ。今のは忘れてくれ)


 やはりルール変更は無理なようだ。だが、疑問点はまだ山ほどある。どうにかしてこの会話から光明を見出だすしかない。再び僕は切り出した。


(すいません、ウンコの神様。質問があるのですが大丈夫でしょうか?)

(はい。何なりとどうぞ)

(転移の対象についての質問なのですが、まず一度呪いにかかった人間には転移できないという認識で間違いないでしょうか?)

(ええ、その様な仕様にさせていただいております。大変、ご不便をお掛けしております)

(いえいえ! とんでもないです。僕、頑張って何とかするんでどうかお気になさらず)


 ……参ったな。やはりフンの情報は正しかったみたいだ。だが、この事は想定内だ。それよりできるだけ多く新情報を入手して、そこから活路を見出だすんだ……。

(あの……ウンコの神様。もう一つ質問なのですが……)

(申し訳ございません。そろそろ時間がきてしまいました。用事がございますので続きはまたの機会に)

 大変だ。話を引き延ばさないと……!

(あの!用事とは何でしょうか?)

(……便意です)

(……ああ、なるほど……。)

(それではこれにて失礼致します)


 再び静寂が訪れ、ウンコの神との通信が途絶えたことを理解した。正直、まったくの収穫無しといっても過言ではない。強いていえば、ウンコの神もウンコするんだということが分かったのがせめてもの収穫か……。




 そんな情報何の役に立つっていうんだ!


 ……つい感情的になってしまった。

 だが、怒りを制御出来ない自分を擁護したくなるのも事実だ。それ程までにウンコの神とのやり取りは貴重なものだったからだ。

 もっと知りたいことは山程あった。転移の仕組み……ルール……対象……数え上げればキリがない。

 ……対象……。そういえば転移の対象について詳しく聞かされてなかったな。誰かのお尻にしか転移できないってことしか把握出来ていない。

 ……フンなら知ってるかもな。そう考えた僕はフンに呼び掛けてみることにした。


(おい、フン。聞こえてるか?)


 ……返事がない。アイツちょこちょこ連絡が取れなくなるからな。

 一人で何とかするしかないかと腹を括ろうとしたとき、それを狙ったかのごときタイミングでフンから返事が返ってきた。


(聞こえてるわ)


 僕はフンの声が聞こえた瞬間、疑問が解けるかもしれないと【安堵】した。が、その気持ちはすぐ【驚愕】に変わった。フンがその後放った言葉は想定外のものだったからだ。


(ところでだけど貴方を救う方法……思い付いたわ)


 僕は生唾をゴクリと飲み込んだ。



 

 








 

 

 

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