第6話 二択

 ちなみに、でいうことじゃないだろ……メインだろ……。僕は愕然とした。フンの話が事実なら、即ち呪われているということなのだ。僕は。

 だが、能力者じゃない者はどうやって条件をクリアすればいいのだろうか……。わざわざ尋ねなくても既に僕の心を読んでいるフンが疑問に答えてくれた。


(まずは社会に恨みを持つの。そして お百度参りを始めるのよ)


(そこからかよ!! 7日しかないのにタイトスケジュールすぎだろ! しかも、仮に頑張ってもガチャ方式じゃあ同じ能力が出るかも分からないってのに!)

 

 僕は勢い任せにまくし立てた。すると僕の嘆きを聞き終えたフンは、こともあろうに笑いだした。


(フフフ……。ゴメンゴメン、冗談よ。呪いの伝染者にはちゃんと転移能力も備わるのよ。だから貴方には、そのお尻に置いてある恐田怖一の便を転移させることが出来るはず)


(自分で脱糞しなくて良いのか?)


 これは気になったのできちんと確認してみた。


(ええ。イメージとしては恐田の便が呪われてると思ってもらえたらいいわ。なのでそれを7日以内に別の誰かのお尻のふもとに転移させないと死ぬってことね。勿論、転移以外の方法で処分しても駄目よ。まあその内ウンコの神から正式なアナウンスはあるはずだけどね。じゃないと呪われたことを知れない者も出てくるし)


(ちょっと待ってくれ、誰かの!? 転移する場所にも制限があるのか!? どこかそこら辺に転移させたりはできないってことか!?)


(あのね。船だって港じゃないと停泊できないでしょ。旅客機だって空港じゃないと着陸できない。それと一緒よ。本来あるべき場所へ還らないと不自然でしょ?)


(トイレの便器じゃ駄目なのか!? 畑に着陸して土に還るのは駄目なのか!?)


(駄目よ。)


 フンが冷たくいい放った。

 パンツの中が本来あるべき場所なら世の中に「ウンコを」という表現は存在しないだろ。とも思ったが、反論したところで結果が変わるわけではないので、僕は大人しく受け入れることにした。

 そうか……ということは誰かに僕はこの恐大便おそれだいべんを転移しなくちゃいけないのか。そして、受取人はまた誰かに送りつける。となると……

(ええ。憎しみの連鎖が生まれるわ)


 フンが僕の考えを大便だいべんした……間違った、代弁だいべんした。


(ちょっと待ってくれフン。そういえば同じ相手に送り返せば済む話じゃないのか?)


(あのね、例えば常識的に考えて送られてきたお歳暮を相手に送り返すなんて失礼な真似できないでしょ? それと一緒よ)

(何でウンコとお歳暮を同列に扱うんだ! 真逆真逆! 天と地! 陰と陽!)

 

(……とにかく一度呪われた人間には送り返せないようになってるのよ。諦めなさい)


 どうもフンはルールに詳しすぎるような気がするが彼女の言うことが事実なら、この呪いの連鎖がどこかで断ち切れない限り地獄のような未来が待っているということだ……未来……もしかしてフンは……。


(ええ。そのクソみたいな未来を変えることがこの私の任務)

(私は100年後の未来から通信してるんだけどね……貴方の言う通り未来は正に地獄よ。途中で呪いが変異したりウンコが増殖したり、お裾分けとかいって一度に複数に転移させる者が現れたり……なんだかんだで被害者は、ねずみ算式に増えていってね、今では全人類の90%以上が被害者となり心に闇を抱えているのよ)


 フンから聞かされた未来は想像以上に酷いものだった。100年もの年月が経つまでに恐らくこのクラスのみんな、そして僕の家族も今僕が味わっているこの苦痛を経験する可能性が高い。

 僕はぎゅっと拳を握りしめた。みんなにこんな思いをさせたくはない。一生、心に傷を負うことなる。

 ……僕がここで誰にも転移させなければ呪いが連鎖することは無くなるんじゃないか?

 やるせない事実に気付いてしまった。いや、敢えて今まで気付かない振りをしていただけかもしれない。向き合いたくなかったのだ。自分の名誉と命を取り最悪の未来を紡ぎだすか、或いは誰にも知られず悲劇の英雄となりこの世を去るかの究極の二択と。

 ……もういっそのことウンコの神に反旗をひるがえしたら何とかならないか? ……いや駄目だ。何を考えてるんだ僕は。  

 相手はウンコの神だぞ!? 反乱なんか起こしたら何されるか分かったもんじゃない! 僕はこの無謀な案を頭の片隅に追いやった。 

「……ブリブリー! ブリブリブリー!!」

 唐突に異様な音が耳元に流れ込んでくる。もしかしてこれがウンコの神のアナウンスとやらだろうか。

「おい巻野ぉ!? 聞いてるのか巻野ぉ!!」

 恐田の呼び掛けに気付き、僕はハッと我に返った。どうやらさっきブリブリ聞こえたのも、ただ単にオソレダブリドリが何かわめいていただけだったみたいだ。

 元はといえばコイツが僕にウンコを移転してきたせいで今こんなに悩んでいるのだと思うと、怒りが沸々と込み上げてきて僕は恐田を睨み付けた。


「何だその目は巻野ぉ? ウンコ漏らしてる奴がする目かぁ~? むしろ睨みたいのは周りの皆なんだぞぉ~?」


 僕は恐る恐る周りに目をやった。皆の視線がこれでもかと突き刺さる。いっそのこと山下君辺りにでも転移して楽になるか……? 駄目だ駄目だ。それをしてしまったら僕は恐田と同じだ。でも、一体どうすれば……。

 その時だった。

「キーンコーンカーンコーン」

 途方に暮れている僕をよそに幸か不幸か授業の終了を告げるチャイムが教室中に響き渡ったのだった。





 


   


    



 

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