第5話 衝撃の事実 

(未来からやって来て、バックスピンをかけられたウンコだから、ミラバック・ウンとでも呼んでよね)


 ウンコがクソ生意気にも要求してきた。僕は思わずそれを踏み潰しそうになるのを、寸前で踏み留まった。

 というか、ウンコってどういうことだ? ウンコに自我なんてあるのか? 分からないことだらけだ。本人……いや、本糞に聞いた方が早いか。


(おい、ミラバック。そもそも何でウンコが喋れるんだ?)


(ちょっと! いきなりファーストネーム呼びは馴れ馴れしくない? 距離感とか

ちゃんと考えてよね)


 殺すぞ! これでも譲歩して向こうの要求に応じてやってるというのに調子に乗りやがって! 鶏冠トサカにきた僕は、コイツに少々身の程を分からせることにした。


(ふん、何がミラバック・ウンだ。ハリウッドスターみたいな贅沢な名前しやがって。今からお前はフンだ。いいか、フンだ。分かったら返事をするんだ、フン‼)


 ここで働かせてくださいと言わんばかりの、世間知らずの小学生みたいなウンコに僕は一発かましてやった。スッキリした。ウンコだけに。

 僕にガツンと言われたウンコは憔悴しきっているようだった。いや、多分違う。正直なところウンコの様子をうかがったところで、ウンコの心情など分かるはずもないのだ。だが、さっきからウンコは黙ったままでやはり少々こたえているのかもしれない。僕はちょっとだけウンコが可哀想になった。


(なあ、さっきはちょっと言い過ぎたよ。ゴメンな。水に流してくれないか……おっとすまない! ウンコにとってこの表現は不謹慎だったな。撤回するよ。……なあ、僕はただ、状況を整理したいだけなん……)

(——二万円で手を打つわ。フンと呼びたいのなら)


(おいフン! さっさとお前のことやオソレダブリドリのことを洗いざらい教えやがれ‼ 踏み潰すぞ‼ いいか! 既にお尻が大変なことになっている僕にとっちゃあ、今更上履きが汚れようがそれはもう些細なことなんだぞ‼)


 フンは今までにない早口で、僕の求める説明をし始めた。30秒の自己PRを完璧にこなす就活生の様に、それは洗練されていて無駄のないものであり、おかげで僕は容易におおよその状況が理解できたのだった。



 ——フンによるとこういうことらしい。まず、彼女は正確にはウンコではない。超小型の独立飛行型通信機器を過去へ送り込み、それを未来からフンが操作しているそうだ。それだけでも凄いことなのに、まさか過去と未来に居る者同士でやり取りまで出来るとはな。仕組みは想像もつかないが未来の科学技術にはまったく驚かされる。

 あと、細かい素性は明かさなかったが、フンは未来のとある諜報機関に勤める若年の女性工作員で、ある任務の達成を目的としているらしい。その為、超小型機器でオソレダブリドリの巣に潜入していたところ、偶然か必然か巣の一部が切り離されフンはそれに巻き込まれてしまい、結果的に今この僕の足元に存在するということみたいだ。

 そして忌まわしい恐田の能力についても明かされた。これこそがまさにフンの任務と大いに関係している。恐田は生まれついての能力者というわけではなく、ある出来事を受けて能力に目覚めたそうだ。そのきっかけとなったのが五年前にワイドショーを賑わせた強盗放火連続殺人犯との誤認だ。恐田は当時、警察やマスコミに散々追われることとなった。結果的に無実は証明できたが、このことにより恐田は社会に対し、強い怨恨を抱く運びとなったのだ。

 世の中に復讐する為の力を手に入れたい恐田は願いを叶える為、神社へのお百度参りを決行したらしい。労力を軽減する為、自宅から一番近い古びた神社を利用したそうだ。

 ——結果的に奴の願いは叶えられた。遂にお百度参りを達成した恐田の元へ、神社の神が現れたのだ。神は恐田が欲する復讐の能力を与えた。ガチャ方式で。

 そのとき引いた能力がまさに僕が今、大被害を被っている能力【一生に一回、排便してから10分経ったウンコのみを亜空間物質転移できる能力】だ。

 恐田はそもそも神社選びの時点で失敗していた。よく調べなかった奴のミスだが、通った神社にはウンコの神のみが祀られていたのだ。

 ウンコの神によるガチャから引いた能力は、使えないランクKのまさにクソみたいな能力だった。それに納得がいかない恐田は再度お百度参りを決行したそうだ。

 そして恐田は神にリセマラを要求したが、そのことで神の怒りを買い、祟られた。【7日以内に能力を使って誰かにウンコを転移しないと死んでしまう呪い】をかけられたらしい。この事実を聞かされ、僕はようやく恐田の目的を察知したが、本当に重要なのはこの後フンが言っていたもう一つの事実の方であった。


(ちなみになんだけど、転移された者にもこの呪いは伝染するわよ)








 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る