第28話 麻祐子と園子
戦いの後の静けさの中、二人は何も言わず労りあうように身を寄せあっていた。
だが暫しの沈黙の後、園子は思い出したように麻祐子の方を振り返った。
麻祐子は桜の木から少し離れたところに横たわっている。
園子はその傍らに歩み寄り、片膝をつくと、その顔に手を添えた。すると、天乃もその隣に膝をつき、園子に語りかけた。
「安心して、皆、命に別状はないわ。今助けを呼ぶから、この子たちはそちらに任せましょう」
天乃はそう言いながらポケットから携帯電話を取りだし、どこかへメッセージを打った。
園子は、自分の上着を脱ぐと地面に敷き、その上に麻祐子を横たえて言った。
「黛さん、悪いものに取り憑かれていたんだね」
「彼女はね、弱い人だったの」
「え?」
「もちろん、人を
「訳って……?」
「彼女、ずっといじめられていたの」
「黛さんが?」
園子は驚きながら天乃を振り返った。
「ええ、彼女のこと、少し調べさせてもらったわ。彼女が都会から転校してきたわけ。黛さんね、中学の時酷いいじめにあって、最後の年はほとんど学校にも行けなかったそうよ。それで、卒業を機に知り合いのいないこの街へ引っ越してきたらしいわ」
「でも、じゃあなんでいじめなんか……」
「もちろん、自分がいじめられないためよ」
「……そうだったんだ」
「ええ、黛さんは、あなたを
戸惑いの視線で麻祐子を見つめる園子に、天乃は続けて言った。
「でもね園子、これだけは分かってほしいんだけど、その間も、彼女はずっと苦しんでいたのよ」
「苦しんでいたって…… どうしてそんなことがわかるの?」
納得のいかない不満げな表情でそう聞く園子に、天乃は答えた。
「……黛さんね、あの夜、ここに来ていたの」
「え……」
「園子、あなたがここに来た夜、黛さんもあなたとと同じように、あのネットの広告を見てここに来ていたのよ」
園子は自分がこの神社に来たときのことを思い出した。
あの怪しい広告を見たとき、自分がどんな気持ちであったか、何を思ってその広告に従ったか、その時の自分の状態を、目の前の麻祐子に重ね合わせてイメージした。
「あの広告は、人になりすましたジガバチが、更なる獲物を狩るために仕込んだ罠だったの。彼奴等は人の弱い心に付け入るからね。普通ならあんな広告、誰も気にかけたりしないわ。でも、あなたと黛さんは、同じように騙され、同じように取り憑かれてしまったのよ…… 多分その時、私があなたの胸を撃ち抜いてしまったのも見ていたんでしょうね」
「でも、だからって――」
園子は一度言葉を句切り、天乃に向き直って言った。
「だからって、そんなこと許されるわけじゃない」
「別に誰も許せなんて言ってないわ――」
天乃がさらりと言い返した。
「それはあなたが決めることだもの。私はただ事実を伝えただけ」
「えー、そこまで言っといて、なんか、ずるいなあ」
「ふふふ。そうよ、私ずるい女なの。ごめんあそばせ」
園子はその場に正座すると、自分の膝に麻祐子の頭を乗せた。
涼しい春風がそよ吹き、桜の大樹と少女たちの間を通り抜けていった。
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