第21話 拡散する噂
「学校は随分楽しいみたいだな」
その日の夕食時、園子が用意した晩ご飯を二人で食べているとき、不意に史朗が言った。
「え、そ、そう?」
その言葉に虚を突かれ、園子は少し口ごもりながら答えた。
「ああ、最近、園子は学校のことをよく話すようになった」
園子自身にも自覚がなかった。だが言われてみれば、一年生の時は、出来るだけ学校の話題を避けていた事を思い出した。そしてその為、嫌っているわけでもない父のことをそれとなく避けることも多かった。
しかし今は、取り立てて意識していたわけでもないが、ごく普通に学校のことを話題に出来る。そして父を避けることもなくなった。自分の家での態度にそんな変化があったことを、園子自身史朗に言われて初めて気が付いた。
親子の団欒―― ごく普通の家族がごく普通に享受している心安まる時間が、園子の家にもいつの間にか戻ってきていた。
「そ、そうかな、前からこうじゃなかった?」
園子は父の指摘を何故か気恥ずかしく感じ、照れ笑いをしながら曖昧な返事で誤魔化してしまった。だがその気まずさも、園子にとってそれ程不快な物ではなかった。
食事を終えたその夜、入浴を済ませた園子は、自室に戻るとまたいつものようにノートパソコンを開いた。特に調べたいことがあった訳ではないが、日課のような物である。
普段から良く暇潰し程度に眺めるイラスト投稿サイトや動画サイトなどを見て廻った後、いつもの大型掲示板サイトを訪れ、いつものように自分たちの学校である百合ヶ丘高校のスレッドを開いた。
(あれ、なんか今日は――)
開いてすぐ、園子は違和感を感じた。
何か、いつもと雰囲気が違う。いつもに比べ、スレッドが大きく動いている。炎上というほどではない。しかしレスの数が普段よりも明らかに多く、煽りとおぼしき無責任な発言がいつもよりずっと目に付く。
今、何か大きな話題がこのスレッドを行き交っている。それもあまり穏やかな雰囲気ではない。はっきりとした名前はあがっていないが、誰か特定の人物に対して疑惑をあおっている様子である。
ざわりと、嫌な予感がした。
園子は普段あまり見ないSNSのサイトも開いて自分の学校の話題を確認した。
そこでは、既にBBS以上に同じ話題で盛り上がっていた。
園子は前回見たところまでログをさかのぼって、スレッドの流れを追った。今日の夕方頃からそれは始まっているらしかった。
身の上を隠すわけ―― 人付き合いの不自然さ――
複数のアカウントから、話題を一定の方向に導く書き込みがある。そしてそれに呼応する形で無責任なレスが話を大げさに広げていく。
園子がログを追っている間にも、書き込みは増えていく。そして、全てのレスの大意はある結論に結びついていた。
―― あの転校生は、人を殺してこの学校に来た ――
『そんなのでたらめ。そんなこと絶対にない』
その夜、園子は今まで読むだけで一度もレスをしたことが無かったその掲示板に、初めて書き込みをした。
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