第11話 シン レッド ライン
市街地を出て山道に入り、さらに三十分ほど走った所、人気の全く無い山陰の林の奥にある簡素な作りの山小屋に武雄達はいた。今は使われていない山の管理小屋で、電気すら通っていなかったのだが、三人はこの日のために発電機や必要な機材などをすでに揃えていた。
室内は結構広く、山仕事のための機材などが
その部屋の隅に、武雄達がかどわかしてきた女は乱暴に転がされていた。
年の頃はまだ十代半ばといったところか、まだ幼さの残る風貌である。学校帰りの様で、近くの高校の制服である黒いセーラー服を着ていた。
正樹達がカメラや照明の準備をしている間、武雄はその獲物が逃げ出さないよう見張っていた。
(こりゃあ上物だぜ)
彼女の顔をのぞき込みながら武雄は思った。
口元がガムテープで大きく覆われているにもかかわらず、整った輪郭や目鼻立ちだけで、その美しさは十分に見て取れた。武雄の興奮はいやが上にも高まった。
「お、こんなものがあったぞ」
少女の鞄をあさっていた祥造が、中から学生証を見つけ正樹に投げてよこした。正樹は器用に空中でそれを受け取ると中身を確認した。
「ふーん、美里ちゃんって言うんだ。百合ヶ丘高校の一年生か。いいねえ、入学したてじゃん」
正樹はそう言うと邪悪な笑みをうかべた。少女の顔が恐怖に引きつった。
「武雄、そいつこっちへ連れてきて」
準備を終えた正樹が言った。武雄は少女の胸ぐらを掴むと乱暴に引き立ててカメラの前に連れて行き、ベッドの上へ突き飛ばした。祥造が近づき、少女の口を塞いでいたガムテープを引きはがした。正樹が三脚にセットされたビデオカメラを覗きながら話しかけた。
「いきなりなんだけど、ちょっと俺等に協力して貰おうかな」
「お、お願い。やめて下さい、こんなこと。今逃がしてくれたら、誰にも言いません」
少女は恐怖に怯えた様子で懇願した。
「んな訳ねーだろ、大人しくしてろっ」
武雄はその横顔をいきなり平手打ちした。乾いた音が部屋に響いた。武雄の胸にぞわりと快感が湧き上がった。邪悪な悦楽が背筋を通り抜けた。
無抵抗の物に加える一方的な暴力、弱者に対する理不尽な虐待。武雄はそういった行為にいつも言い知れぬ快感を感じていた。
武雄は本質的には臆病な男で、常に強い物に追従しながら生きている。しかし、己の弱さを認めようとは決してしなかった。そしてその弱さを誤魔化すために、自分よりも弱いものを見つけてはいたぶり、それを自分の強さだと無意識に曲解して、周りにも誇示してきた。武雄にとって弱者への暴力は、自分の矮小さを隠すために不可欠な代償行動だった。
それは歪んだ幻想でしかなかったが、無抵抗な人間をいたぶればいたぶるほど、自分の強さと雄々しさを実感することができた。
武雄は少女のおとがいを乱暴に掴み、その顔を自分の方に向けた。
少女の震えおののく表情をのぞき込みながら武雄は思った。
(こいつに自分の立場をわからせてやる。誰に従わなければいけないのか、躰にたたき込んでやる)
武雄は少女の前開きのセーラー服の襟に手をかけ、力任せに引き下ろした。ホックがまとめてはじけ飛び、大きくはだけた。小振りな胸を覆う白い下着がさらけ出された。
「いやああああっ」
その時、ふいに正樹が武雄の後ろから話しかけてきた。
「いい気分だろ、武雄」
いつもと同じ、飄々とした口ぶりだった。が、なぜかその時の正樹の言葉は武雄の心の奥にするりと入り込んできた。
「もう最高っすね」
「お前ならきっと気に入ってくれると思ってたよ」
正樹はそう言って満足そうに微笑むと、カメラから離れ武雄の背後にゆっくりと近付いた。
「なあ、武雄……」
正樹が武雄の両肩に優しく手をおいた。
「世の中にはさ、法とか道徳とかややこしい物があって、世間の奴らはそういうのにがんじがらめにされながら生きているだろう? そしてそのせいで、殆どの奴らは、人間の一番気持ちいいことを最後まで知らないまま死んでいくんだ」
正樹は、武雄の後ろから耳元に口を寄せ、ゆっくりと言い聞かせるように話を続けた。
「でもさ、そんなのちょっとした考え方なんだ。ちょっと考え方を変えるだけで、お前はつまんない制約から逃れて、普通の生き方じゃ得られない最高の快楽を手に入れられるんだよ。このさきもずっとさ」
武雄は怯える少女の顔から目をそらさずに、その言葉に聞き入った。
「どういうことっすか?」
「この女はもうお前の物さ。何したっていいんだ。生かすも殺すも、お前が決めるんだ。普通に生きてちゃこんないい目には絶対にありつけない」
「いやっ、やめてっ。助けてえっ」
二人の会話の内容に恐怖した少女が悲痛な声を張り上げた。
「君、ちょっとうるさいな。今大事な話をしてるんだ。黙っててもらおうかな。」
正樹は少女の方を向いて不快そうにそう言うと、いきなり少女の首筋にスタンガンを押しつけた。
数秒、恐ろしい電子音と痛々しい絶叫が響いた。正樹がトリガーを離すと、既に少女は気を失っていた。
そんな少女の様子を見ても正樹は眉一つ動かす様子はなかった。
「な、見なよ、弱っちいにも程があんだろ。女なんてヤワな生き物、俺たちの思いのままにできるのさ」
いつもと変わらぬ事も無げな口調だった。だがなぜか、その日の正樹の言葉には不思議な魅力があった。武雄の頭の中に、正樹の一言一言がじっとりと入り込んできた。まるで言葉の麻薬に意識を侵食されていく様な気分だった。
「それに、この女で終わりじゃない。お前さえその気になれば、俺たちはこれからいくらでも新しい女を調達出来るんだ。お前だってそうしたいだろう?」
「はい、したいです」
「だけどさ、それにはお前の本気が必要なんだ。中途半端な気持ちじゃやって行けない。大事なところでビビっちまう奴は使えないんだ。俺たちはお前の本気が知りたいんだよ」
「俺は本気っすよ」
「口じゃなんとでも言えるさ。だからちゃんと見せて欲しいんだ、お前の本気をさ」
「……なにをすればいいんすか?」
すると正樹は、後ろから武雄の手に何かを握らせた。
「見せてくれよ。お前がこの女、いや、これから手に入れる女達の全てを、完全に思い通りに出来るって覚悟を……」
武雄は自分の手に視線を落とした。そして手の中の物を見たとき、正樹の意図を理解した。それは、刃渡り十五センチほどの狩猟用ナイフであった。
武雄の背筋に、不思議な快感を伴った戦慄が走った。
柄を握る手にじっとりと汗が絡んだ。
その武雄の様子を見ながら正樹は言葉を続けた。
「タイミング、うまく計れよ?」
「……何のっすか?」
「お前がいくのと同時にその
武雄の、最後にか細く残っていた理性の糸が切れた。
武雄はまるで操られる様に、手にしたナイフをゆっくりと振りかざした。
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