第10話 ナイト ストーカー
矢島武雄はその夜、二人の仲間と連れだっていた。いつも行動を共にしている仲間達である。三人は大型のSUV車に乗り込み、武雄は後部座席で今夜これから三人で行う予定の仕事に胸躍らせていた。
彼らは普段週末に集まることが多いのだが、今日は特別であった。今夜はいつもと違い、でかいことをする。
武雄は今までも散々、タカリやカツアゲなどの悪事は働いてきたが、所詮は学生レベルの悪事だと自分では思っていた。だが今日から自分は本当の意味で悪の道に進むという自覚があった。
武雄を呼び出したのは金田正樹と木村祥造の二人である。二人は武雄の二つ上の学年で、近郊の大学に通っていた。
貧しい武雄の家とは対照的に、二人の家は比較的裕福だった。特に正樹の実家は消費者金融を経営しており、その事業がかなり利益を出しているらしく、仲間内では一番羽振りが良い。今三人が乗っている大型のSUV車も正樹の持ち物である。かなりあくどい商売をしているらしく、噂では暴力団と繋がっているという話もある。そのような背景もあって、武雄の仲間内では正樹がリーダーの位置にいた。
そして、正樹の隣にはいつも祥造がいた。粗野だが用心深い男で、常に正樹の参謀の様に動いていた。
その二人から連絡があった。彼らにはまだ他にも普段から徒党を組んでいる仲間がいるのだが、今回誘いを受けたのは武雄だけであった。武雄は二人に話を持ちかけられたとき、他に誰も呼ばれていないのを見て、今回は何か大きいことをするという予感を感じた。彼らが連れ立つ仲間達の中で本当に道を踏み外せるのは、自分を含めたこの三人だけだと思っていたからだ。
「マサさん、ちょっと暑いっすね」
気温がそれほど高い訳では無かったが、つい今し方正樹達と一仕事終えたばかりで、その為体が火照っていた。それは肉体的な作業からというよりも、先程こなした作業の満足感と、これから行う仕事への期待による物だった。
「天井がサンルーフになってるから開けたらいいよ」
武雄は言われたままに電動のサンルーフを開け放した。涼しい風が入り込み、火照った体に心地よかった。
すると車体後部のラゲッジスペースでごとりと音がした。
「あれ、積荷が動いてるみたいだね」
「そうっすね」
「あんまり動くようなら、お前何とかしろ」
後を振り返りながら祥造が行った。
「あ、はい」
(けっ、威張りくさりやがって)
武雄は心の中で悪態をつきながら後ろの積荷を確認した。
ついさっき、正樹の指示で調達してきた積荷である。武雄と祥造が主に直接の作業をした。違法な行為であった。
話を持ちかけられたのは先週のことである――
その日、正樹から電話があった。
「武雄さあ、高校卒業したんだよね。今晩俺んちに来なよ。卒業祝いって訳でもないけど、ちょっと面白い話があるんだ」
武雄が呼び出された正樹の家に着くと、そこで彼らの計画の話をされた。来週、ある仕事があるのだが、人手が足りないので手伝いに来いと言われた。その仕事というのが何でも非合法のビデオの作成とのことである。正樹の知り合いにアンダーグランドでビデオの流通をやっている組織があるそうだ。それも、表には決して出てこない類いの物のみを扱っていると説明をされた。
下卑た興奮が湧き上がってきた。
「うあ、それいいっすね、俺にも手伝わせて下さいよ」
「ああ、もちろんそのつもりで呼んだんだよ」
正樹の話によれば、その組織が今回企画しているのはポルノビデオである。当然検閲も無い。
「おー、それって女優さんとか雇うんすか? 有名な人だといいなあ」
「いや、今回の企画は完全素人。街で探してくるんだよ」
「へー、ナンパ物っすかあ。俺、やったこと無いんすよねー、できっかな」
「いや、ナンパ物じゃないよ」
「じゃあ、どんなヤツっすか?」
「んー、ジャンルとしては陵辱とか調教物になるのかな? 俺もエロビデオのジャンルなんてよく知らないんだけど」
「へえ……」
話の内容に妙な違和感を感じた。
(完全素人? で、陵辱調教?)
「でもそれって……」
そう言いながら、武雄は二人の顔を見た。正樹のいつも通りの事も無げな話し方で気付かなかったが、彼らの目にはいつもとは違う凄味が宿っていた。
(こりゃマジな話だ。こいつ等の目、ヤバいことをやる目だ)
正樹の説明と二人の表情から、血の巡りの悪い武雄にも、やっと話が見えてきた。
正樹が持ちかけてきたのは、今まで武雄が仲間達とやらかしてきたレベルの犯罪では無い。今までにも暴力沙汰や恐喝は何度も経験してきたが、それらは武雄の感覚からすれば、どこの学校でも見受けられるタイプの悪事であった。
しかし、この話は違う。拉致、監禁、強姦。それも相手はいがみ合っている他の不良達などでは無く、全く見ず知らずの一般人。完全に凶悪犯罪として分類される行為である。
それに気付いたとき、武雄はどす黒い昂揚感を覚えた。よこしまな興奮と意気がむらむらと湧き上がってきた。
「俺、やりますよ。任せといて下さいよ」
その後、正樹から具体的な内容を説明され、そして今日、つい三十分ほど前、その計画は開始された――
武雄は、先程使った高出力のスタンガンを手に取り、車体後部に積まれた「積荷」に話しかけた。
「じっとしてろよ。またこいつを食らいたくねえだろ?」
どっしりと重量のある黒い機械の先端に、太く青白い電光が走った。バチバチと恐ろしい音が鳴った。
「ちゃんと言うことを聞きゃあ、痛い目には遭わせないからよ」
(ま、嘘だけどね)
結束バンドで後ろ手に拘束され、ガムテープで口を塞がれた状態の「積荷」は、目に涙を浮かべながら、ガクガクと震えるように頷いた。
こいつを滅茶苦茶にいたぶってやる。自分の獣欲を思いのまま注ぎ込んでやる。
邪悪な妄想に、武雄の血は熱く
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