ボッチ、ルリアについて聞いてみた
歓声が聞こえてくる。
「......さて、時間ですね」
会場のとある一室で、青い長髪が特徴的な、美しい少女がそうぼやく。
片手にはスタッフ、もう片方には少し青みががった黒色をした魔術書(グリモア)をそれぞれ持ち上げた。
長椅子が三つ並べられただけの無機質なこの部屋は、学園内の第四実技会場という訓練場の控え室だ。
本来この部屋は、放課後に自身の魔法を高めるために訓練した後、その生徒達の休憩するための場として使用されていたが、現在は年に二回開催される『校内戦』の開催期間中のこの頃は試合前に心を落ち着かせるため、又色々なは準備する為に使用されている。
そして、今から『校内戦』の開幕試合をする生徒の一人である、ルリア・シリウス・ボルズがこの控え室で、準備をしていた。
時計を一瞥し、試合開始一分前を確認したルリアは、不敵に笑いながら、試合会場に向かい始める。
今日は負けられませんね......ええ、最もな理由の一つとして、コンドウ様が来ていることですが......
「フフッ......コンドウ様、見ていて下さいね? 私の魔法(ワールド)を」
..................
............
......
────「出てきましたね! コンドウさん」
「えぇ、そうですね」
ルリアさん、凄い気迫だな
駿は観客席から、悠然と貴族らしい立ち振舞いを所々にちらつかせながら入場してきたルリアを見て、率直に思ってしまっていた。
その表情は固く、強い決意を持ってこの試合に望もうとしているのが見て窺えたからだ。
「そういえば、序列とは一体?」
先程の会話から気になったことを、隣でルリアに羨望の目を向けていたリーゼに聞くと、「あ、あぁ。すみませんっ......えっと──」と、説明をし始めた。
リーゼからの説明をまとめると、要はこの学園での総合的な能力の高さを順位に表したものが序列なんだそうだ。
普段からの授業態度、意欲、学力と戦闘力を基準としていて、それらを総合的に評価をして序列を決めているのだとか。
結構実力主義なのな?
そんなことを思いながら、ルリアが入場してきたことによってこれ以上ないほどに沸き上がる歓声達に、少々の場違い感を感じてしまう。
......そこまで熱狂的に応援しようとかじゃなくて、知り合いが参加するからお気軽感覚でここに来たわけなんだけどなぁ......
「......あの、リーゼさん。これは憶測なんですけど......もしかしてこの学園内にルリアさんに酔狂し、ルリアさんを狂信している団体とか幾つかあるんじゃないでしょうか?」
渋々ながら、そう聞くとリーゼは心底驚いた表情をこちらに向けてきた。
「え? 何で知ってるんですか? もしかしてルリア様から聞いたんですか?」
学園の事情を知っている部外者が居て驚いたような仕草を見せるリーゼに、「いや......この熱狂のしようを見れば分かりますよ? こんな人気のある人を応援したり崇めたりする団体が一つや二つあると思わない方が不思議ですよ」と、駿は苦笑気味に答えた。
「確かにそうですよね」
リーゼも駿に釣られて苦笑したが、直後には羨望の目を試合開始を静かに待っているルリアに向ける。
「......ルリア様はいつも副会長の補佐をやっていまして、補佐ということもあって大勢の前に立つ時が多かったんです」
「副会長の補佐を? 凄いですね。人前に立つことも多いと......自分にはそんなの身震いするほど苦手ですね......」
最近やっと友達が増えて、それまでずっとボッチだった俺にとっては......人前に立つことなんて地獄だわ
遠い目をしながら、畏怖をする駿にリーゼは微笑む。
「へぇ、そうだったんですか。てっきりコンドウ様は何の抵抗もなく人前に立つような方かと思いました」
「いや。産まれてこのかた最近までずっと人間関係が身内の他に気にかけてくれる同級生二人という、今時の高校生では類を見ないほどの交友の狭いままでしたから、当然交友する人が少ないため人との会話の数が必然的に少なくなる訳でして......恥ずかしながら、最近やっと人並みの交友関係を持つことが出来たので、乗じて人との接し方を現在も模索中でして......いきなりそんな状況で人前で話せと言われても社会的に自滅して死ぬだけかと......」
「あ、ああ......その............すみません」
段々とネガティブな思考になっていく駿に、リーゼからは不味いことを聞いてしまったと勘違いされて、謝られてしまった。
いや謝らないで。リーゼさん。なんだか本当に惨めになっていくからっ
「あ、いや謝らなくても良いんですよ。というか謝らないでください。お願いします。なんでもしますから」
というか、これ以上謝られると自分が本当に可哀想になってくからっ!
「あっ、え、え?」
多分、リーゼは駿のなんでもしますからという言葉にどう返せば良いか分からないのだろう。
なので、リーゼは
「で、では......コホン。一緒にルリア様を応援してくださいね?」
そう返すと「仰せの通りにっ!」と、大袈裟に恭しく礼をされてしまった。
なんでしょうか......これ
内心困惑しているリーゼだったが、次の駿からの質問で正気へ戻る。
「そういえば、どうして俺が人前で話すような自分が尊敬して止まない偉大なる方々の仲間だと思ったんですか? 先程も話しましたが、俺は人前で堂々と話すような勇気ある主人公ではなく、人前に出ると萎縮してしまう小者みたいな奴だと自負しておりますが」
先程から自らを過小評価し過ぎている駿に少々苦笑いを浮かべながら、考えるように顎へ指を持っていく。
「それはですね......」
そう聞かれ、リーゼはしばらく黙考した後、理由を挙げた。
「話しやすかったからでしょうか?」
「えっ......話しやすい、ですか?」
「はい。実際、今自分で思ったことなんですけど、『自分の家はルリア様の分家で、昔から姉妹のように接してきた』という話題、これ個人情報ですよね?」
「......あっ」
これもしかして個人情報知っちゃったから殺されるパターン......?
映画やアニメを見すぎてついそんな思考に辿り着いてしまった駿は、察した瞬間、顔をしかめてながらズズズ......とリーゼとは少し距離を取り始める。
「なんだか、日頃から人とはそれほど会話しないので、つい溜め込んでいた分を吐き出すようにここまですらすらと話し上げてしまったとはいえ、それほどコンドウ様は聞き上手でもあり、話し上手でもあると思うんです。なので、この人は話し慣れてるなと思い、人前に出て話すような人なのかなと思い立った訳です」
「へ、へぇ......そうなんですか」
「はい。それで......その......別にこれは機密事項も入っていない訳ですし......他人に知られてもさして問題もない個人情報ですので......その......距離を取らないで頂けないでしょうか?」
「えっ......あ......そうなんですか。......なんかすみません。早とちりしてしまって......」
ヤバイ。これで貴族の人に対しての不敬罪に問われる可能性がなきにしもあらずっ......
優しい女の子相手に怖がってしまって体が勝手に動いてしまったことを恥じ、後悔するも過去は過去、戻れない。
せ、精一杯謝ろう!
「本当に、申し訳無いです」
「いえ、相手の個人情報を知ってしまって、周囲を警戒することはこの物騒な世の中を生きていく上で重要になって来るものだと思いますよ? なのでそんなに......気落ちしなくても」
先程から感情と共に表情をコロコロと変わらせている目の前の青年に、感情豊かな子供みたいな人だなと微笑ましく思いながら口を綻ばせる。
「そうですけど......」
「ふふ......だから良いのです。......謙虚なのは良いことですが、謙虚すぎるのはいけないですよ? コンドウさん」
何だか、弟が出来たみたいだ。
いつもルリアにしてもらっている、こうして反省している人を宥めるという行為をリーゼ自身が他人にしていることに、多少の違和感はあるものの、何かと様になっている。
リーゼはルリアに倣いながら、そうして駿を宥めていく。
まだ今日会って間もない人だけども、不思議とこのやり取りを心地よく感じているリーゼが居た。
「......」
「───あの」
「あ......」
思い耽っていると、そんな自分に駿から訝しげに話しかけられて、リーゼは話を続けさせた。
「......実はああ見えて、ルリア様は人前に立つことを苦手としていたのですよ?」
「え? そうだったんですか?」
昔はシャイな性格だったのかな? ......いや、でもマジで想像できない。あの堂々としているルリアさんがだぞ? 人前にいざ出ようとした瞬間、顔を真っ赤にしてテンパってるんだぞ? ......ちょっと見てみたかった。うん絶対可愛い。うん
驚きながらも、内心ではそんな本音を叩いている。
こんなことを口にだしたら、リーゼの性格的に正座させられそうな未来が脳裏に過ったため止めておく。
「はい。ですが副会長の補佐になった以上は、人前に出ることは偶然ではなく、必然になって来るので、必死に自分なりに努力し、克服して、今に至っているんです。......確かに綺麗ですし、実力も折り紙付きで、誰彼構わず別け隔てなく接しられますし......それらだけでも憧れを持つ方が多いのですが、やはり一番皆さんや私が憧れている所は───ルリア様がルリア様なりに必死に頑張って今を大事にしている所なんです」
「......」
「ルリア様は凄いです......本当に、それこそあの『勇者』を越えるぐらいに......」
リーゼはそこで言葉を切って、試合開始直前のルリアの横顔を見始めた。
それほど、勝ってほしいのだろう。
会場のルリア目当てで来た人達も、一様にそう願っていることだろう。
改めて、『勇者』を越えるぐらい大勢の人を惹き付けるほどのルリアの人と為りの素晴らしさを実感した駿は、ルリアの最後に言った言葉に、返答は愚問だと思い、静かに頷き返すのだった。
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