四
百パーセント果汁のオレンジジュースで作ったかき氷は甘酸っぱくて汗が引いた。手回し式のペンギンは幼稚園のころから使っていて、角のあたりが剥げて地の色がところどころ出ているが、中の刃は初めて使った時と同じように光っている。
冷蔵庫の扉には象の磁石でメモがとめてあって、母さんは地域の集まりで出かけるとあった。冷房の設定温度は二十八度で操作ロックがかけられていじれない。それでも外にくらべれば涼しい。外と中から冷やされ、肌はすぐにさらりとなった。
暑くて、静かで、なにもすることがない。録画しておいたドラマを見たがつまらなそうな始まり方だった。ドラマだからすこしは大げさにしていて本当とは違うのだろうけれど、アメリカの男子は人前でも普通に女子としゃべったり、一緒に行動したりしてるのがわからない。主人公がかっこよくて好きなのに、そういうところだけは嫌だ。
帽子のつばを後ろ向けにかぶりなおした主人公が、クラスのちょっと引っ込み思案の女子と、地下室からひっぱりだしてきたキャンプ用のテーブルの錆を落とし、ペンキで色をぬっている。そうして、拾った犬の医者代を返すために、お祭りでレモネードスタンドを出すというのが今回の話だった。
画面のなかの夏は、こっちとおなじで暑くて不快そうで、レモネードのピッチャーだけが冷たく黄色くさわやかだった。主人公と女子と犬がならんでにこやかに売っている。コップにはさまれた半月に切られたレモンを見ているとつばがでてきた。
三日間のお祭りが終わり、売り上げを計算すると、医者代を返しても余るくらいに儲けていたので、きれいな首輪を買い、それをつけた犬の幸せそうなアップでいつものテーマソングが流れた。最後まで見てみると、今日の話は犬が良かったからまあまあだった。
ドラマを見てしまうと、また静かになった。暑さは音を吸収するのか、どの家も締め切っているからだろうか。
ペンギンとスプーンと青いガラスの碗を洗って片付け、ソファーにもたれていると眠たくなってきた。
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