三
でも、あいつの言うことももっともな気がする。八月が全部自分のものなんだから、なにかしたっていいかもしれない。
土手は下流に行くにしたがって高く、コンクリートで灰色に固まっている部分が多くなり、むっとする熱気を吐き出すので土手際を走るのはやめにした。
考え事ができる程度の速度に落として住宅地を走る。どの家も締め切られ、物音ひとつしない。中は冷えているのだろう。そういえば学校にもエアコンをつける話があるけれど、快適になったら休みを短縮されそうなので良いような悪いような気がする。
「もう、休みだからってだらだらしない」と、毎朝言われる。今朝も言われた。だけど、やらなきゃならないことを片づけて時間がたっぷりあるんだから、自然に目が覚めるときに起きていいじゃないかと思うのに、母さんは母さんでやらなきゃならないことがあって、その段取りに家じゅうの全部をはめ込みたいらしい。
母さんの段取りと自分のがぶつかった時にどうすればいいのかまだわからない。父さんもわからないみたいで時々口げんかをしている。ということは、これは大人も解決できない問題なのだから、どうしようもないと思ってあきらめている。
きのうも、夕飯の後、父さんが地域の夏祭りの相談に出かけるときに母さんがぶつぶつ言って小さな口げんかになった。相談と言っても帰ってくると酒臭いので母さんの文句もすこしわかる。
かごの帽子はすっかり乾き、濡れて濃くなった色が元に戻っている。ジュースを買おうと思ったが、お小遣いがもったいない。もう帰ろう。帰ってきのう凍らせておいたジュースをかき氷にしよう。
氷のことを考えると急にのどが渇いてきて、自転車を家のほうにむけて勢いよくペダルを踏んだ。
日向と影の境目がはっきりと区切られていて、それが後ろへ流れていく。窓や遠くの太陽電池パネルに反射した光が目のすみでちかちかする。せまい道ではエアコンの室外機からほこり臭い熱風が吹きつけてくる。走っているうちはいいが、信号で止まると汗が流れて目に入った。手の甲でぬぐいながら、青になるまでの間に家まで最短の道をあれこれ考えていた。
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