本屋をBBQ

飛騨群青

メルヘンなキャンプファイヤー

 ある田舎町に自分を「秦の始皇帝だ」と名乗る男がおりました。


 言うまでもありません。狂人です。


 町の人々は彼をバカにしつつも、恐怖していました。何をやらかすか分かったもんじゃないからです。


 さて男には不満がありました。町の人々が彼のことを始皇帝と認めないからです。町の人々は男にこう言います。


 始皇帝は大昔の人だ。

 始皇帝は中国の人だ。

 お前は狂っている。


 誰が何を言おうと、誰に何を言われても、男は自分が始皇帝であることを微塵も疑っていませんでした。


 しかし男には自分が始皇帝であることを証明する秘策がありました。それは街の本屋に火をつけることです。始皇帝がやった焚書坑儒のモノマネであることは言うまでもありません。


 町の人々が寝静まった午前一時、男はマッチと新聞紙を片手に本屋へ出かけました。町の人々は総じて早寝早起きです。町の中を歩いているのは始皇帝を名乗る男、ただ一人でした。


 男は本屋さんの店舗兼自宅に火を放ちました。おんぼろ木造建ての本屋はあっという間に炎に包まれました。町の人たちは大慌てで本屋の周りに集まり、消防車が来るまでの間、消火作業を手伝いました。ですが男だけは大威張りで「わしがやった。わしがやった」と叫び続けました。


 男は捕まり、パトカーに入れられました。男は領民に見送られ、宮殿へと帰るのだと思い込み、とてもとても満足そうでした。


 この町には彼ほど幸福な男はいませんでした。

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