第7話 矜持
託宣を受けた
糞便は絶対に川へ流さないようにし、村の周りを囲う環濠もきれいにさせ、導水路も配備した。三輪山の井戸から出る水を特に「薬水」として、粥と共に民に配った。
その甲斐あって、国を脅かしていた
異常気象も起こらず、五穀は豊作となり、民の暮らしも落ち着きを取り戻した。
今では神社の巫女たちも、
夕暮れ空の下に、大和平野が広がっている。住居が集まるあたりに、飯を炊く煙がのぼっているのが幾筋も見えた。昨年には見られなかった光景だ。
「姫、少し早いですが、お食事をお持ちしました」
侍女の
神に供える食物は、直接手で触れず、祭祀用具である箸で盛りつける。
弾力のある細い木を真ん中で折り曲げたもので、両端で食べ物をつまむのが案外難しい。
皆が自分を「霊力の衰えた巫女」と蔑んだり憐れんだりしている気になり、出仕するのがつらかった。いっそこのまま血が流れ続けて、神社へ行けなくなればいいのに、と思う。
「姫、最近あまり召し上がってらっしゃいませんが、無理にでもお口に入れて体力をつけませんと」
心配そうに言う
「いいのよ、吾は病気になっても。
投げやりにつぶやいた言葉を聞き咎め、
「まあ、なんてことを仰いますやら。……姫はいつも、心をこめて神々にお仕えされていました。幼いころにお母さまの元から離され、どんなに不安だったでしょう。それでも、甘えたい気持ちを抑えて修行を重ねられ、巫女頭になられました。他の娘が、着飾ったり男女のことにうつつを抜かしたりしているときも、姫は民の暮らしがよくなるよう、朝に夕に欠かすことなく、神に祈りを捧げておられました。この
小さいころから風や木々の声を聴くことができた
祭祀をつかさどる
託宣をするヒメとそれを伝えるヒコが、共同で政治を執っていた名残なのだ。現在も、形の上とはいえ、倭迹迹日百襲姫と
家族とも自由に会えず、他の女たちとは違う道を進まざるを得なかった姫にとって、その自尊心が支えになっていた。だが、今は。
「吾は、三輪山の神を正しく祀れず、
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