ためらい

 人型のロボットが戦っていた。灰色。

 操作しているのは少年。十代前半。

 反対側にも人がいる。別の青いロボットを操っていた。

 台を挟んで、向かい合っている。動かされるレバー。ボタンが押される。

 画面に映し出される二体のロボット。遠くに見える灰色のロボットへ、光が飛んでいく。

 前へ進む灰色のロボットは、わずかな動きで光とすれ違った。光が消える前に、青いロボットの目の前まで迫る。

 少年の手が一瞬止まる。ボタンを押した。

 灰色のロボットが巨大な鈍器を構えて、振り下ろされる。

 青いロボットは、すでにその場にいない。光の剣を受け、灰色のロボットは敗れた。

 二本先取の戦いが終わった。

「また明日な」

 同級生の言葉に、少年は手を振った。

 表情に悔しさは見られない。

 帽子をかぶって、斜めからの日差しを防いだ。ゲームセンターをあとにする。


 次の日の放課後。

 少年は、今日もゲームセンターへやってきた。

「おい。エックス。こっち、こっち」

 呼ばれた少年は、同級生のもとへ歩いていく。

 ゲームの筐体がたくさん並んでいる中に、人の集まっているところがあった。

「何かあった?」

「見てみろよ。すごいから」

 不思議そうな顔の少年は、言われるままにゲーム画面を見た。

 黒いロボットが操作されている。

 相手は黄色いロボット。画面奥から迫る攻撃は、次々と空を切る。

 黒いロボットは、的確に攻撃を当てていく。隙の少ない動きを徹底していた。破壊される相手。

「強い」

 ふわりとした髪の少年は、つぶやいた。

 長めの髪のプレイヤーが立ち上がる。筐体から出た。操作していたのは、十代前半の少年。

「お前、おれと勝負しろ」

「ぼく?」

 二人の少年は向かい合った。

 すこし髪の長い少年が、不敵な笑みを見せる。

「カノジョ相手に手加減してるんだろ? わかってるぜ」

「そういうわけじゃないけど」

「勝負を挑まれるくらい、強かったっけ? エックス」

 同級生の言葉に、少年は答えない。

「今のままだと、君には勝てない。一週間待ってほしい」

「楽しみにしてるぜ。おれは、ダブリュー」

 髪をなびかせて去っていく少年を、もう一人の少年が見ていた。目に力が入る。


 少年は戦った。

 相手のロボットが破壊される。

「ダメだ」

 少年の眉間に力が入った。

「やったじゃん」

「回り込むのが遅れた。ダブリューなら、反撃できる」

 同級生に褒められても、少年は嬉しそうな顔をしない。

 画面の先、はるか遠くを見ていた。

 黒いロボットを想定して、灰色のロボットは戦っていた。

「まだ、勝てない」

 少年は、すこしだけ目を細めた。


 ゲームの筐体が向かい合って並んでいる。

 その中の1ヵ所に、見物人が集まっていた。

 座っているのは十代前半の少年。

 ふわりとした髪はなびかない。長くない上に、まだ冷房が必要な季節ではないためだ。

「反応が遅れた。最善手を打てたはず」

 相手のロボットは破壊されている。少年は自分の心と戦っていた。

 連戦の疲れからか、大きく伸びをする。

 身体を左右にひねる少年は、すこし年上の少女を見た。離れた場所に立っている。

 次の挑戦者が、向かいに座る。

 遠く離れて向かい合うロボット。次の戦いが始まった。

「どんな感じ?」

「わからない。けど、やるだけやってみる」

 同級生の問いに、戦いながら少年は答えた。二人の口元が緩む。


 約束の日。

 二人の少年は、向かい合って座った。

 ゲームの筐体越しに対峙する。

 戦いが始まった。

 画面に映る黒いロボットは、容赦がない。隙もほとんど見せない。

 灰色のロボットを操作する少年は、真剣な表情だった。レバーが小刻みに動き、ボタンが素早く押されていく。

 動きに迷いはない。二体のロボットは互角の勝負を展開する。

「すごい」

 少年は思わず言葉を漏らした。

 二本先取の戦い。一本目を取ったのは、すこし髪の長い少年。

 すぐに画面が切り替わった。

「いけ。エックス」

 大声で応援する、同級生。

 ゲームの筐体の周りに並ぶ見物人は、黙って見守っていた。

 意表を突いた、相打ち覚悟の一撃。

 どよめきが起こる中、片方が破壊された。立っていたのは灰色のロボット。

 画面が切り替わり、最終戦が始まる。

 テクニックも、操作精度も、反応速度も互角だった。

 動きの先を読んで、攻撃が置かれていた。

 灰色のロボットが破壊される。


「ありがとう」

「はぁ?」

 ふわりとした髪の少年から礼を言われて、長めの髪の少年は戸惑っていた。

 二人は、ゲームの筐体から離れて椅子に座っている。机もあり、休憩できる場所。

 近くに座る同級生は、黙っていた。

「本気で戦った。それで、負けた。面白かった」

「それだけか?」

 聞かれた少年の顔がゆがむ。

「悔しいよ。あんな動きしかできない、ぼく自身に腹が立つ!」

「悔しいなら上達するはずだ。また、かかってこい」

 少年が頭をかきながら言って、すこし長い髪が乱れた。

「わたし、さっきの戦いで何が起きたのか、わからなかったんだけど」

 同級生が、遠慮がちに隣の椅子へ座った。ショートヘアが揺れる。

 二人の少年が同時に説明しようとして、言葉が被った。

 三人から笑いが起こる。同じ机を囲んで、試合の解説が始まった。

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