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その昔。
多くの人類は『職業』という役割を担い、己の技術や知識、素質をもって生きていた。
ある者にとってそれは生きるための糧を得る手段であり、またある者にとってそれは自身の快楽に繋がる道楽であり、またある者にとってはそれは生きる意味そのものであった。
しかし、時代が進むにつれて『機械』が人に代わってその役割を受け持つようになっていった。
教育も生産も交通も医療も開発も貿易も娯楽も奉仕も治安も統制も何もかも、全て機械が負担し提供してくれる。当然、それに伴う環境問題や健康への弊害や機械主導の風潮に異を唱えた人間も生まれたが、そんな些末な問題さえも機械は解決してしまった。
ありとあらゆる願望をかなえる技術。
どんな無理難題も正解へと導く知識。
複雑な人間心理さえも理解する素質。
そして世界は機械を害のない、素晴らしいものと結論付けた。
文明が発達しきったとも呼ばれる現代において、『職業』の概念は無いに等しく、人間の必要性もまた、限りなく希薄になってしまった。
当然の結果、多くの人類は働かず、その恩恵を享受するのみの一生を過ごすようになる。快適で優雅で苦悩や困難さえ人工的に再現出来てしまう理想郷。そんな未来永劫続く楽土のような世界にも、一つだけ綻びがあった。
なんてことはない。それ自体は何も問題視すべきではない小さな穴。
つまるところそれは『機械に人間は殺せない』ということだ。
機械反対論者を黙らせた条文、ロボット三原則の一文である。
人間を傷付けることは出来ず、命令に背くことが出来ず、出来得る限り自己を守らなければならない。
機械はその原則に基づき、そしてある結論を打ち出した。
ならば、人を殺す為の人を作ればいいのだ。
機械は人に人を殺める『職業』を定めようとした。
大昔に作られた殺し屋などという名称はもう必要ない。
その仕事こそ、現代における唯一の職なのだから。
機械は光の速度で世界に知らしめる。
選抜に選ばれた人間のみをこう呼ぶことにしよう――
――『職人』と。
これがこの『職人大戦』の始まりである。
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