第4話 夢見る時間
俺は毎朝妹の弁当を作るのだが、お天道様の几帳面なことには、頭が下がると同時に心底ウンザリする。たまにはちょっとぐらい遅れて昇ったって、誰も怒りはしない世の中になれば、戦争だって無くなりそうなものなのに。俺は常々、もっと世界が大らかになれば良いと思っている。
学生時代、そんな俺はよく遅刻をした。道草食う程の道中ではないので、単純に寝坊が原因だった。それにその頃、俺はちょうど自分のコンピューターを貰っていた。
夜中まで夢中になってパソコンをいじっているうちに、遅刻が目立つようになっていった。インターネットが自由に使えるようになり、それまでよくわからなかった「詩」の意味がわかるようになってきて、いよいよ止め時が掴めなくなった。(もちろん、そんな高尚なことだけが理由なわけはない。俺はもっと欲求に忠実に、色んなものを漁っていた)
妙な話、俺はぼちぼち勉強するようになったのだ。知らない街の、知らない景色。知らない物語。自分じゃない誰かの人生。今まで見知ってきた馴染みの世界とは別の世界を、めくるめく、見続けて、俺はちょっとずつ自分を変えていった。
俺の興味は「詩」だけに尽きなくなった。相変わらず小説はロクに読めなかったけれど(いや、正確に言えば、読めはするが物凄く時間がかかった)、音楽や絵にも興味を惹かれるようになっていった。写真も格好良いと思った。一瞬が切り取られているもの。そういうものに俺は、生のきらめきを感じる。
俺はネットで調べた情報を元に、こそこそと塾帰りに図書館に通うようになった。当時は今みたいに、あっという間に画像や音がダウンロードできなかったから、自分の足で取ってくる必要があった。(ついでに言えば、通信料も馬鹿にならなかったし)瞬く間に、幾つもの夜が更けていった。
そんなに急いで生きなくてもいい。色んなものからそう教わった。この世界は美しく、広い。だが汚いところもある。どうしようもない袋小路に陥ることもある。まるで機械のように巧妙に出来ているかと思えば、てんで滅茶苦茶な、こんがらがった蜘蛛の巣みたいなこともある。だからこそ面白かった。
「お前は、何がしたいんだ?」そんなこと、ちっともわからなかったけれど、それでも、楽しかった。自分のことなんて、死んだ後にゆっくり考えれば良い。本当にそう信じていた。誰にも譲る気が無かった。
…………長くは続かない、夢のような浮遊感だったけど。
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