第3話 城へ
コロコビトがすっかり大人しくなったころ、春の泉食堂は店を開けた直後からずっと大混雑する日々が続いていました。
「鳥の串焼きお待たせしました!」
「シチューまだ?」
「もうすぐですので! あんた、とっとと作りな!」
「お勘定お願いします」
いろんな声が飛びかいます。店の外にも並んでいる人がいます。もうお昼どきを随分過ぎたのに、ちっともお客さんが途切れません。前からお客さんが集まる店でしたが、こんなに来ることはありませんでした。
理由は一つ。
「お、あれか!」
「噂の子犬!」
ミントがカウンターの陰からこっそり顔を出すと、食堂中の視線が集まりました。ミントはさすがにびっくりして、跳びはねるように奧へ逃げてしまいました。
スケラの実、広場でのお祈り、そしてコロコビト。ここのところいろいろなおふれが出ましたが、春の泉食堂の子犬のお陰で対策が打てた――そんな噂が町中に広まっています。コロコビトのことを教えるためにミントをあちこち連れていったからでもありそうです。
(これだけ広まれば、ミントの飼い主が見つかるかな?)
あいたお皿を片づけていたリーフは、忘れかけていたことを考えました。元の飼い主が見つかるのならいいことだと考えています。その一方で、ここからいなくなると思うとさみしくもなります。
急いでテーブルをふいていると、食堂の外がざわつきはじめました。待っているお客さんがいるのでずっと人の声が聞こえますが、ドア越しでも空気が違うとわかります。さっきまでの期待や好奇心でいっぱいの声じゃありません。戸惑いがたっぷり染みついています。
ドアを勢いよく開けて入ってきたのは、どう見てもお客さんじゃありませんでした。にび色のよろいを身に着けていて、腰には剣を差しています。
「店のものに用がある!」
城の兵士たちです。お客さんたちは「どうしてここに?」といい合いました。不安が食堂全体に広まっていくなか、兵士たちは詰めかけるように入ってきます。十人近くいるでしょうか。
「困るねお客さん。ちゃんと待ってもらわないと」
レインがにらみながら詰め寄っていっても、兵士たちはひるみません。一人は書類を取り出して広げました。
「こいつがここにいるだろう!」
そこには犬の絵が描いてありました。まだ子どもで、茶色で、金の首輪をはめていて――間違いなくミント。リーフはギョッとしました。
(もしかして、ミントのせいでおふれに横やりが入ったから? とりあえず、さっき奧へ引っ込んだままここにいなくてちょうどよかった)
レインは立ちふさがるかのごとく兵士と向き合って、ますますきつい視線になります。
「いたらどうだってんだい」
「この犬は城で暮らしていて、ずっと探されていた! ここにいると連絡を受け、連れに来た!」
城で飼われていた? つまり、本当の飼い主はレウグネルダ王? 居合わせたお客さんはそんなふうに話していました。レインは鼻で笑います。
「おかしいね。犬を探してるなんておふれは聞いたことがない。くだらないおふれならいくらでも来てたけどねぇ」
「お、おい、お前」
厨房から出てきていたマーシュが止めに入りました。レインは引き下がりません。
「ああ、そうだ。城で飼われてたっていうんなら、名前は何だい。あたしら下々のものが一度聞けば忘れられないような、いいお名前なんだろうねぇ。そのわりにちっとも聞いた覚えがないけどさぁ」
問いかけられた兵士は、いら立ったように舌打ちしていました。
「つべこべいうな! 陛下のご命令に逆らうのか!」
「いくらレウグネルダ王でもね……」
レインが更にいい返そうとしたときでした。
「やめて!」
かん高い声が響いて、レインもマーシュもリーフも振り返りました。
「アクア?」
兵士が厨房から足早に現れました。足もとでアクアがわめいています。
「ミントに何するの!」
その兵士は腕にミントを抱えていました。どうも表からだけじゃなく裏からも入ってきていたみたいです。ミントを逃がさないために。
ミントはジタバタとあばれています。金属のよろいに歯が立たなくても腕にかみつきます。飼い主の迎えが来てうれしい、なんて雰囲気じゃありません。
「兵士がこそ泥みたいなことをするな!」
「おふれの嫌がらせを邪魔されて悔しいのか!」
「そんな犬に仕返しでもするつもりか!」
お客さんたちからヤジが飛んで、兵士たちは鋭い視線を返しました。
「黙れ! さもないと牢屋にぶち込むぞ!」
リーフはあぜんとしながらやり取りを聞いて、心の中で闇があふれるような気分になっていました。そして、ミントはもがきながらも緑色の瞳でリーフを見つめていたのです。
突然のことにお客さんがみんな帰ってしまって、春の泉食堂はいきなり暇になりました。もうすぐ夕飯どきですが、ひっそりと静まり返っています。
マーシュは食堂でため息をつくばかり。レインはマーシュに「しっかりしな」といいつづけていますが、いつもに比べて勢いがありません。アクアは泣き疲れて寝室で眠ってしまいました。
そしてリーフは、いつも休憩する部屋にいました。
(ミントはどうなるんだろう)
イスに座って、テーブルにひじをついて、うなだれたまま。
連れていかれたときのミントはすごくつらそうでした。レインから聞いた「犬には表情がある」という言葉がよくわかるくらいに。
(お客さんがいってたとおり、王様が仕返しをするんだろうか。どう考えても本当の飼い主じゃないだろうし)
スケイリアの人が牢屋に入れられれば、ムチ打ちなどの罰を受けることになります。ひどければ縛り首です。リーフは思いついてしまったことを持てあましつつ、ペンダントを開けました。
(ミントも、父さんや母さんみたいにいなくなる?)
そんなのは嫌だと考えて、ハッとしました。自分が両親とミントを同じように並べていると。
(ミントはたかが犬なんていえる相手じゃない。飼い主が見つかるまでなんて相手でもない。ぼくにとって家族だったんだ。アクアもレインにとっても同じ。きっとマーシュだってそう。だからミントがいなくなって落ち込んでるんだ)
ミントがいなくなった? それは違うと考え直しました。
(もしかしたら、ミントはまだ違うかもしれない。まだいなくなってないかもしれない)
いつもならペンダントをじっと見つめますが、今日はすぐ閉じました。父さんと母さんはもういないし、どんなに大事でも何も答えてくれない――そんなことに気づいていました。
(今、ぼくの家族は父さんと母さんじゃない。マーシュとレインとアクアと、そしてミントだ。拾ってもらってありがたいからじゃない。おふれのことで助けてくれたからでもない。一緒に喜んで一緒に悲しむからだ)
だからこそ、みんなのためになることをしたい。そう考えてみてひらめいたことがありました。かなり大がかりなことです。
でも、失敗したら? またムチ打ちだの縛り首だのと思い出しましたが、もっと嫌なことがあります。失敗したら結局みんなに何もしてやれなかったことになる、ということです。
それなら今のうちにできることはないだろうか。そう考えてたどりつけるものは一つしかありません。リーフは首に提げていたペンダントをゆっくりと外しました。
品書きに使っていた紙切れがちょうどそばにあって、リーフは裏返してペンを手に取りました。
〈出かけてきます。もし帰ってこなかったときは、ぼくのことなんか忘れてしまってください。
ぼくがずっと持っていたペンダントを置いていきます。どうか受け取ってください。売れば少しくらいはお金になるかもしれません。ぼくにできるのはそのくらいのことだけです。
この家で一緒に暮らしたみんなは、ぼくにとって大事な家族です〉
最後の一文は付けたらいけないかなという気もしました。何せ、いなくなったら無関係の人と思ってくださいという手紙です。でも、付け加えずにいられなかったのです。
(金色の守り竜が助けてくれる、か。よそから来たぼくでも守ってくれるんだろうか)
そんなことを考えました。竜なんて顔を合わせたことがないので、答えはわかりませんが。
◆ ◆ ◆
夜がふけたころ、リーフはこっそりと家から出発しました。準備は先にすませてあります。
いくつかの荷物を持って向かったのは城。城門の前に見張りの兵士が二人いて、あくびなんかしていかにもやる気がなさそう。リーフはそれに近づいていきました。
「こ、こんばんは……」
「何だお前は!」
きびしくにらんできます。仕事を増やすなといいたいのでしょう。リーフは引き返したりできませんが。
「あの、ぼく……」
「お前、見たことあるな。春の泉食堂で働いてるやつだ。昼間におれたちが行ったから、文句をいいに来たのか? 夜中だってのに」
どこの誰かを兵士の片方がいい当ててきて、リーフはひるみかけました。でもむしろ好都合。どうせ自分から春の泉食堂のものだと話すつもりだったのです。
「いえ、ぼくは……あそこで働いてるだけですから」
できるだけ軽い口調で答えます。
「犬だって、たまたまあそこで飼ってたからぼくが世話をさせられてただけです。ぼくとは無関係っていうか」
心にもない言葉です。胸の中では、ごめんとみんなに繰り返しました。
「なるほどな。読めたぜ」
もう一人の兵士が犬歯をちらつかせながら笑いました。
「あの犬がいたせいでおふれに横やりが入った、犬の飼い主も痛い目にあわされるかも……こいつはそう考えて、自分が巻き込まれねえようにしてえわけだ」
「ああ、なるほどなぁ」
二人そろってにやつきました。リーフから見れば気持ち悪いです。
「お前が無関係だって陛下に取り次いでやってもいいが、高くつくぜ?」
門番ごときがレウグネルダ王との橋渡し役なんてできるのでしょうか。疑問ですが、リーフは突っ込まないでおきました。
「はい。だから、ごあいさつ代わりにこれを」
リーフは布包みを石畳に置いて、広げました。
酒。弁当箱に詰め込んできたものは、スケラの根っこを使った料理。二人ともうれしそうにしました。
「わかってんじゃねえか。まあ、今日はこのくらいで勘弁してやる」
「これ、食いたかったんだよな。城勤めだと、飯屋に行っても『お前らにはやらん』っていわれるだけでよ」
スケラの実を丸ごと奪っていったんだから当たり前、とリーフはいいそうになったのをこらえました。持ってきたコップを兵士たちに手渡します。
「まずは一杯どうぞ。あの店で一番高いお酒です」
「一番っていっても、あんなせまくてボロボロの店でだろ? 大したことなさそうだな」
兵士が発した言葉にカチンと来ました。手加減しようと思っていたけどやめです。
「このお酒、薄めずに飲むのがおいしいらしいですよ」
本当は、濃さのせいで薄めずに飲むと悪酔い間違いなしの一品です。
二人はあっという間に酔いつぶれて眠ってしまいました。そのすきに、リーフは門の向こう側へもぐり込みました。
門の先に足を踏み入れたリーフは後悔していました。やっぱりさっきは手加減しておけばよかったかも、と。
(ミントがどこに捕まってるのか、さっきの二人から聞き出すつもりだったのに)
酔いつぶれさせてからでは聞きようがありません。
(城の中をくまなく探してたら、朝になるかも)
当てもなくあちこちを見渡しているうちに、リーフは影のようなものが動いたと感じました。建物や木の横でではなく、夜空でです。星と月をバックに羽ばたいているものがあります。
(お祈りのときに来てくれるダンスバードたちだ)
黒い鳥なので夜中は姿が見えにくいです。月がなかったら気づかなかったかもしれません。
(いつも朝に来るダンスバードが、どうして夜中に?)
どうすればここに現れるのかと考えれば、答えにたどりつけました。
(朝はミントが遠ぼえすると来る。もしかして、今もミントに呼ばれたとか?)
ミントは助けを呼ぼうとほえたのかもしれません。だとすると、やっぱりミントも助けてほしがっているということです。
(つまり、ダンスバードがいるところにミントがいる?)
ダンスバードは城の真上にいるのではありません。敷地の端っこにある塔の上です。
ダンスバードは羽ばたいていましたが、しばらくすると姿が見えなくなりました。いくら呼ばれたとはいえ、ミントがいる建物の中に入れなくては何もできません。困った末に帰ってしまったのでしょうか。
(そういえば、メラーナ姫が塔に閉じ込められてるって噂がある。もしかして、ミントと一緒にいる?)
メラーナ姫はレウグネルダ王が妙なおふれを出すようになってからいつも浮かない顔。もしかしたら手を貸してくれるかもしれない。リーフは一人で忍び込んだと思うと心細かったので、少しだけ気が楽になりました。
リーフは闇にひそみながら塔のそばまで来ました。
木の陰から塔を見上げると、高さがはっきりわかりました。町にある建物はせいぜい二階までですが、これはその倍以上あります。レンガで作られていて、お姫様が住んでいそうな華やかさはありません。
(ミントはあの中のどこにいるんだろう。やっぱり一番上?)
もしも各階ごとに部屋があったら、探すのが大変そうです。広さがほとんどないことは不幸中の幸い。
当然ながら入り口には見張りの兵士がいます。二人だけですが、ドアの向こうには他の兵士がたくさん……なんてことはないはずです。兵士たちが詰めておく場所なら城の近くにあります。
人以外もいます。黒くて大きな犬が兵士たちのそばに一頭。スケイリアは兵士の数が少ないので、調教した動物を役立てているのです。
(食べ物が残っていたら、犬を引きつけられたのに。力ずく? 腕力のないぼくじゃムリだ)
人間だろうと犬だろうと関係ない――そんな手は用意してあります。リーフは後ろを見て、立てた手を前へ動かしました。
「行け!」
無数の生き物がつっぱしっていきました。リーフが呼び集めて後から城に入らせていたものたちが、兵士と犬へ一斉におそいかかります。
「コロコビトだ!」
「どうしてこんなところに!」
兵士たちも犬も、何十人ものコロコビトにまとわりつかれたりかじられたりして大騒ぎ。のしかかって鼻をつまめばいいのですが、こんなにたくさんのコロコビトからおそわれている途中ではむずかしいです。
「あのお方のご命令だ!」
「へっぽこ兵士も犬っころも、おれたちにかかりゃ毛虫と同じ!」
コロコビトの方も、久しぶりに暴れられてうれしそう。
(先に話しておいたとおり、危なくなったら逃げるんだよ!)
リーフはそのすきに扉へ駆け寄って、中に入りました。
塔の中ではらせん状の階段が上へ上へと続いています。リーフは階段を急いで登っていきました。コロコビトもずっと兵士たちをおさえておけるわけではありません。城門で酔いつぶれた兵士たちもそのうち目を覚ますはず。
リーフはこんなに長い階段を登るのが初めてでした。走ってもいます。だけど息を切らせることもなく一番上まで行けました。リーフ自身にもちょっと不思議。腕力はなくても体力はあった? 単純に必死だったからでしょうか。
登りきったところに扉があって、リーフはすぐさま飛び込みました。
中は塔の殺風景さと無縁の世界でした。壁も家具も明るい色で染められています。
明るい気分にはなれません。色は全て赤。血のような赤。何だか不安になります。赤じゃないものは、バルコニーの向こうにある夜空。そしてバルコニーの入り口にいる茶色いもの。
「ミント!」
リーフはすぐさま駆け寄りました。ミントは小さなオリの中でうずくまっていましたが、リーフを見るとうれしそうにしっぽを振りました。ケガをさせられた様子はありません。
「今助けるからね!」
オリのカギは引っかけるだけの簡単なものですが、犬が口や前足で内側から動かすのはむずかしそう。リーフはカギを外して、ミントを抱えて出しました。
ミントはやっぱり尻尾を振り続けていました。でも、急にしっぽをだらんとたらしてしまいました。どうしてなのか、リーフは気づきました。
「ペンダントがないから? あれは家に置いてきたよ。家族のみんなにあげようと思って」
そんなことより脱出です。見つかる前に城から出ることができれば、春の泉食堂のリーフがミントを逃がしたと気づかれないかもしれません。門番は? 「ぼく、兵士の皆さんが酔っぱらって寝ちゃったから帰りました」なんていいわけが通らないだろうか。そんな期待がリーフの中にありました。
でも、誰からも見つからないまま逃げるところまで終えるのはさすがにムリでした。
出入り口へ引き返そうとしたリーフは立ち止まりました。そこに人が現れていたからです。いつからそこにいたのでしょう?
真っ赤なドレスを着ていて、髪は栗色。年は十代半ば。この人を知らない人間なんて、この国にいません。
「メラーナ姫……?」
レウグネルダ王が今みたいになってからずっと悲しそう。ほとんど塔に閉じ込められている。そんな噂のあるメラーナ姫。
悲しげとか閉じ込められているとか、そういう雰囲気ではありません。メラーナ姫は冷たいまなざしでリーフを見据えていました。
静々と近づいてきます。ミントがリーフの腕の中でうなっていました。リーフだって、異様な空気のせいで息を飲まずにいられません。
「あの、ぼく、この子を……」
「ここまで来るとは、腹立たしい!」
メラーナ姫が右腕を一振り。リーフは鋭い痛みを頬に受けてひるみました。メラーナ姫の手には革のムチがあります。
「大人しく朽ち果てておけばよいものを!」
ムチを振り続けます。リーフはミントをかばって背中で受けました。切り裂かれるような痛さです。とても助けてくれそうにありません。何をいっているのかわかりませんが、問いかけても答えてくれなさそうです。
「メラーナ姫……いかがなさったのですか……?」
出入り口に兵士が何人か駆けてきました。引っかかれたりかまれたりと小さなケガをいくつもしています。
(下にいた見張り? コロコビトたち、ぼくが逃げるまで待っておけなかったんだ)
兵士たちは傷を痛がっていられない様子。メラーナ姫の異様な姿におどろいています。
「……わたくしとしたことが、取り乱しました。お忘れなさい」
メラーナ姫は持っていたムチを隠すようにしまいました。
「この者たちを捕らえなさい」
白魚のような指がリーフたちを指さしました。兵士たちはうろたえながらもリーフたちに近づいてきます。
リーフはあちこちの痛みをこらえながら下がりました。後ろにはバルコニー。すぐ手すりに背中が当たりました。秋の夜風が冷たくて傷に気持ちいいですが、喜んでいる場合ではありません。
「そういえば、陛下もこの犬を捕らえるように命じてきた……なぜ犬ごときを」
兵士の一人がつぶやくと、メラーナ姫が短く告げました。
「聞く必要はありません」
兵士はさっきメラーナ姫が見せた様子を思いだしたのかもしれません。口を閉ざして、リーフへ迫る足を速めます。リーフは兵士たちとメラーナ姫を見ているうちに気づきました。
(おふれを出したりミントを捕まえるようにいったりしてたのは、レウグネルダ王じゃなくてメラーナ姫だったのかも。レウグネルダ王は、メラーナ姫がいったことを自分が考えたように兵士へ伝えてただけとか)
さっきの奇妙さを考えればありそうです。
もっとも、今のリーフは考えているどころではありません。ついに兵士がつかみかかってきて、あばれようとしました。でも、やっぱり力がないのですぐに取り押さえられてしまいました。
(そんな……ミント!)
ミントも取り上げられました。兵士が小さな子犬を無理やり抱えます。
兵士も子犬くらい簡単だと思っていたのでしょう。ミントはすきを見つけて顔を兵士の鼻先に近づけました。ガブリ!
「あだだだ!」
兵士があわててミントから手を離しました。ミントがいるのは手すりの外側なのに。
ミントの小さな体が闇の中に消えていきました。
「ミント……?」
リーフは手すりの下を見ようとしました。でも、押さえられているせいでできません。見るまでもないでしょうか。
「アハハハ! これはこれで面白い!」
メラーナ姫が笑い声を上げました。高貴さはありません。あるのは残忍さ。兵士たちが目を見開いていることには構いません。
「私は捕らえろと命じた! そして偶然にやつは死んだ! 後は番犬のエサにでもなるだろう!」
番犬は、コロコビトに引っかき回されたいら立ちをやけ食いでまとめようとするでしょうか。
「これでもはや何も変わらぬ! 何もかも、私が望む限りこのままだ!」
どういう意味なのか、リーフは考えることもできません。考える気力もつきてしまった気分でした。
(ミントはもういない。ぼくはまた、何もできなかったんだ)
がらんどうの感覚がリーフを包もうとしていました。
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