第4話『当時の湯治への悼辞』

お題   『夜』『風船』『意図的な子供時代』

ジャンル 『ギャグコメ』



 どんな些事にも意図的な子供時代のこと。

 そう、たしか中学の修学旅行での事件でした。


「諸君。男同士――否、漢同志として一つ話がある」


 長時間の移動に疲れて部屋で寛いでいると、ある友人が厳かに言いました。当時の私は大仰な口調にただならぬ雰囲気を感じたのを覚えています。

「修学旅行の夜といえば、風呂。風呂といえば覗きだ! よって我々男子同盟は今宵、覗きを決行する!」

 それはもう高らかに。女体見たい宣言がなされました。割れんばかりの歓声と共に。

 今思えば到底腑に落ちない三段論法も、勢いに任せれば押し通せてしまうものです。所詮、中学生ですから。

 そんな訳で、思春期真っ盛りの私と友人数名は、女湯という桃源郷に向けて一蓮托生を誓い合ったのです。


「まず入浴時間と場所だが……」

「女子は夕食の後だ。場所は『修学旅行のしおり』十二ページのマップを参照」

「男湯の方の様子を見に行ったがなかなかに広い。女湯も同程度の間取りだろう」

「露店風呂もあったな。竹垣で仕切られていたがその向こうが花園なのか?」

「いやそちらは恐らく旅館の裏手だ。旅館のパンフレットから察するに女湯の露天風呂は崖に面している」

「外部からの侵入は無理か」

「更衣室にカメラを仕掛けるのはどうだ? 今のうちに細工して仕掛ければ」

「電池が持たないな。売店にバッテリー売ってないか見てくる!」


 正に立て板に水の掛け合い。お恥ずかしい限りですが、男子という生き物はエロに対して真摯であり努力家なのです。

 しかし議論も行き詰まり、皆が頭を抱えていました。その時です。

「なあ、露天風呂の方に隠れておくのはどうだ?」

 先程売店に偵察に向かった男子が思いついたように呟きました。

「お前な、後のこと考えてないだろ。袋叩きにされるぞ」

「されない。隠れ通すんだ」

 その言は、妙な自信にあふれています。

「さっきの売店にゴム風船が売ってたんだ。それを使えば水中でも息が出来る!」

 一同の視線が一気に彼に集まります。

「夕食を速攻で消化し、女湯手前のトイレに集合。各自の服は男子トイレで脱いでおいて、全裸にゴム風船を持って廊下を駆け更衣室に侵入。女子グループが来る直前に湯船に潜水して湯けむりに紛れておけば後は……分かるな?」

 私達は互いの肩を抱き合い、勝利の確信をひしと噛みしめあいました。


 はい? 結局見れたのかって?

 いや……女生徒に割り振られた前の女湯が『若々しい六十代女子の会』の貸切だったみたいで……。

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