第4話 妖精の嵐
「んー! 今日も一日頑張ろ、う?」
休み明け、すっかり見慣れた妖精館の一室に足を踏み入れたノアは、先客の姿に目を瞬いた。
「おはよう、レイフ」
今日も今日とて黒々としたいでたちのレイフはノアを見て「おはよう」と告げると、早々に机上の書類へ視線を戻す。愛想のなさも相変わらずだ。
「今日はどうしたの? いつもより早いよね」
「やり残した仕事があった」
「そっか。ご苦労様」
いくらレイフがいけ好かなくても、仕事の邪魔をしてはならない。ノアはノアで、皆が来る前に日課の掃除とお茶の用意をすることにした。
(面倒臭がりのくせに、なんだかんだ言って真面目なんだよね。レイフって)
エドガーなどは助手のアランに手伝ってもらい、尻を叩かれながら報告書をまとめているが、レイフは一人で全てこなしている。
ボスであるドミニク曰く、レイフは人手不足を理由に休みも取らず、宿舎にまで仕事を持ち込んでいるらしい。
『レイフは仕事が存在意義みたいになっているからな。うちとしては助かっているが、あいつをちゃんと休ませてやらにゃならん。根つめて身体壊したらいけないしな』
ドミニクはそう言って、力強くノアの肩を叩いた。
捜査係を率いるドミニクが、指輪窃盗事件の容疑者家族であるノアを雇い入れたのも、その辺りに理由があるのだろう。
捜査のためだったとはいえ、ノアはまだ一応はレイフの妻だ。
(コーヒーでもいれてあげるか)
一通りやることを終えたノアはウサギが描かれた自分用のカップと、なんの面白味もない灰色のカップに濃い目のコーヒーをいれて、レイフの元へ持って行った。
「コーヒー、ここに置いていい?」
「ああ。悪いな」
「いいえ。これくらいお安い御用よ」
書類やら資料やらでひしめき合う机の僅かな隙間に、ノアはカップを置いた。
レイフは湯気のたつコーヒーを放置してペンを走らせていたが、ノアが「冷めないうちに飲めー」と無言の圧力をかけ続けていると、観念するふうに溜息をついて、カップを手に取った。
「ねぇ、わたしにも何か手伝えることない?」
「ない」
「考える余地もないと?」
「ああ」
清清しいまでに使えない認定をされ、さすがのノアも落ち込んだ。
「じゃあ、どうしたらレイフの役に立てる?」
「俺の役に立ちたいのか?」
問いを問いで返され、ノアはちょっと不満顔になる。
「べつにあなたの役に立ちたいわけじゃないわ。役立たずのままなのが嫌なの」
「向上心は結構だが、お前には別にすることがあるんじゃないのか」
「それは……」
たしかに、ノアの最大の目的は両親にかけられた窃盗の疑惑を晴らすことだ。
けれど指輪を売った露天商は見つからないし、思いのほか妖精館での仕事が忙しく、実家に帰る余裕もない。
「指輪が誰のものか知っている、って人には会えたんだけど……」
両手で持ったカップを口元に寄せもごもご喋るノアに、レイフの鋭い視線が向く。
「どこのどいつだ?」
「どいつ、って……エムリスよ。銀色の髪をした神秘的な男のひと」
レイフの様子を訝りつつも、ノアは素直に答えた。
「あいつか」
吐き捨てるように呟いたレイフは片手を額につけ、険しい顔をする。
「もしかしなくても、レイフの知り合い?」
「あいつには近付くな」
「どうして?」
「どうしてもだ。あの男は何を考えているのかさっぱりわからない」
忌々しそうなレイフの心情全ては察せないが、ノアにもエムリスの得体の知れなさは少しわかる。どうにも掴み所のない、不可思議なひとだった。
(このブローチ、エムリスにもらったってことは言わない方がよさそうね)
野いちごのブローチがレイフの視界に入らないよう、ノアはそれとなくカップで隠す。
(でも、エムリスに近付くなってことは、サンザシの指輪の持ち主を探られたくないのかしら。それとも他に何か、わたしに知られてはまずいことでもあるの?)
ノアが言い出すタイミングをはかっていると、入り口から事務のおばちゃんが顔を出した。
「おや早いね、二人とも」
「おはようございます!」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
ノアとレイフに挨拶を返したおばちゃんは「聞いてよノアちゃん、昨日うちの旦那ったらね!」と怒涛の勢いで愚痴を零し始める。
最後にはのろけで終わるおばちゃんの話は、捜査係の裏名物の一つだ――とは、エドガーの言だ。
彼も駆け出しの頃は、おばちゃん夫婦の夢を毎夜見るほどに聞かされたらしい。ほぼ同期のレイフはきれいさっぱり無視していたそうだが。
(少しは相槌打つとかすればいいのに)
いつの間にか、レイフはそ知らぬ顔で仕事に戻っている。
一度捕まるとなかなか中座できないおばちゃんの話が続くなか、捜査係にはアランを始め数人の捜査員が出勤し、最後にエドガーが息を切らせてやってきた。
「よっしゃ、ぎりぎり間に合った!」
「間に合っていませんよ、エドガー。もっと余裕をもって来てくださいと何度言えばわかるんです?」
「悪い悪い」
爽やかな笑顔でアランの小言をいなしたエドガーがレイフの隣へ着こうとしたとき。エントランスの方で複数の悲鳴があがった。
「ん? なんだ」
「わたし見てきます」
エントランスの方を見遣るエドガーに答え、ノアは廊下に向かう。が、
「行くな!」
立ち上がり様、突然レイフが大きな声でノアを呼んだ。驚き足を止めたノアの手を掴んだレイフは、自分の机の下にノアを押し込め、蓋をするように覆いかぶさる。
「わ! ちょ、レイフ!?」
ノアにはなにがなんだかわからないが、とにかくレイフの顔が近い。
耳を澄まさなくてもレイフの呼吸の音が聞こえる。白く不健康で、人より低い肌の温度までもが感じられる。少し首をのばせば、唇が触れてしまいそうだ。
下手に動かないようノアが硬直するのと同時に、捜査係の室内に甲高い笑い声が響き渡り、ごう! と暴風が吹いた。
「キャハハハハ!」
「フフフフフ!」
色鮮やかな羽根を生やしたピクシーたちが縦横無尽に部屋を飛び回り、あちこちで書類をぶちまける。彼らが起こす風にあおられペンやインク瓶までもが宙を飛び、壁や床を黒く汚した。
エドガーの悲鳴やピクシーをたしなめるアランの言葉は、楽しげな妖精の声と騒音に掻き消されてしまっている。
「なんなの、これ?」
「妖精の
頬を引きつらせるノアに答えたレイフは、捜査員たちの阿鼻叫喚とは比べ物にならないほど落ち着き払っている。机の影から様子を窺う顔にも、感情の揺れは感じられない。
「見つかると面倒だ。もうしばらく大人しくしておけ」
「う、うん……」
レイフに言われた通り、ノアは窮屈な机の下で身を丸め続ける。
しかし壁となってくれているレイフの髪は乱れ、コートの肩や腕にはうっすらとインクの染みのようなものが見えた。濡れたそこに、破れた紙片も張り付いている。
(庇ってくれている、ってことだよね? これ)
役に立たないだの仕事の邪魔をするなだの、レイフには散々な言われようをしているが、今はこうしてノアを助けてくれている。
冷たいのと優しいのと、どちらが本当のレイフなのだろう。
「やーっと終わったか! ったく今回も相当荒らしまくってくれやがって!」
妖精たちの声と風が止み、静寂が戻ったのち。ぼろぼろになったエドガーが苛立たしげに立ち上がる。ツンツンした彼の赤い髪は、花瓶の水を被ったせいで額の方に垂れてしまっていた。
「だから捜査係の入り口に妖精避けを置こうと言っているんです。毎回これでは片づけるのが大変じゃないですか」
床に散らばった書類を拾いながら、アランが突発的な災難に文句をこぼす。他の調査員たちもほうきを取りに行ったり、バケツを用意したりと動きだす。
「もう出てもいいぞ」
「ありがとう」
レイフが差し出してくれた手を借りたノアも、そろそろと机の下から出た。
「うわぁー……」
室内はノアが想像したよりもはるかに凄惨な状態になっていた。
窓辺に置かれていた花瓶が割れ、生けられていたガーベラはあちこちに散乱している。一番端の窓ガラスも一枚割れてしまっていた。
「今日は一日掃除で終わりそうね」
「不本意だが、そうせざるを得ないだろう」
疲れなのか仕事が押すのが耐えがたいのか、レイフは大きな溜息を吐く。そんなレイフの肩に、エドガーががっしりと腕を回す。
「おいレイフ。お前自分の嫁だけはちゃっかり守ったんだな。俺たちにも教えてくれりゃいいのによぉ」
「ああ、悪い」
「本当に悪いと思ってるのか?」
エドガーはあっさりとしたレイフの反応に眉を寄せたが、これ以上言っても仕方ないと思ったのか、やれやれと首を横に振ってノアに水を向けた。
「急で驚いただろ、ノア」
「ええ。こんなことがしょっちゅうあるの?」
「まぁ、一年のうちに二、三回くらいはあるかもな。片づけに終われて仕事が進まなくなるし、俺もアランに賛成で部屋の入り口に妖精避け置きたいんだが……ボスが反対しててさ」
肩をすくめたエドガーはげんなりしつつ、インクで黒く染まった自分の机の片づけに取り掛かった。
「いいかげん怪我人が出る前に対策考えないとな。棚の下敷きになったら洒落にならない」
「そうだな」
エドガーに同意したレイフも、折れて使えなくなったペンをゴミ箱へ入れていく。
ノアはお礼も兼ねてレイフを手伝いつつ、妖精館で働き始めてから感じていた疑問を口にした。
「ねぇレイフ。妖精と話をして、いたずらを止めてもらうことはできないの?」
「話をすること自体は可能だが、向こうはただ遊んでいるだけだ。害意はない。ただ単に遊ぶなと言うのは酷だろう」
「うん。でも、これはちょっとやりすぎじゃない?」
「まぁな」
レイフは苦々しい顔で溜息をつく。
「ピクシーや小人のような小さな妖精ほど、楽しい、嬉しいといった感情に忠実だ。彼らの遊びで人間が怪我をする危険があると説明しても、自分達の気持ちが優先される。かといって妖精避けを置いたところで、報復の恐れも出てくる」
妖精の報復については、ノアはレイフと一緒に回った先でも聞いていた。
たとえ妖精のいたずらに困っても、安易に妖精除けを置いてはならない。人間としては「ここには入らないで」という意味で配したものであっても、妖精にとっては「ここには近寄るな! どこかへ行け!」と強制的に排除されているように感じるのだという。
このリディーズ島は人間だけのものではなく、妖精も暮らしている。今まで自由に行き来できていた場所から突然締め出されたら、頭にもくるだろう。
「じゃあ、レイフが飲食店の人に教えていた方法は? 妖精が嫌うハーブを一枚吊るして、少しずつ時間をかけて数を増やして、妖精が自分からそこを避けるようにする、っていう」
「その方法を取れなくはないが、ここは妖精館だ。妖精と人間の中立ちをする場所が妖精を遠ざけては、存在意義に反するだろう」
「う……そうね」
レイフの言う通りだ。あまりの惨状に辟易するあまり、ノアの頭からその考えは抜けていた。きっとアランやエドガーもそうだったのだろう。
「それに、ここには受付や警備で亜人――獣型の妖精も勤めている。人間に近く大柄な分、植物や昆虫を基とした妖精に比べ耐性があるとはいえ、良い気はしないはずだ」
だからボスは妖精除けを置かない。そう結んだレイフの口元が、少しばかり緩む。
人間の都合だけで考えない、ちゃんと妖精のことも考えているドミニクへの敬いが、垣間見えたような気がした。
レイフが不満や呆れ、呆れ果てて諦めたような感情以外を出すことは珍しい。
「なにをにやにやしている?」
「なんにも」
訝しげに眉を寄せたレイフに、ノアは笑ってみせた。
「わたし向こうの掃除してくるね」
あらかた片付いたレイフの机の傍を離れ、雑巾で床を磨きながら考える。
(人間と妖精が共存するってことは、どちらにとっても暮らしやすい工夫が必要なのね。あとは、少しの我慢も)
しかし、妖精に子供を転ばされた母親の激昂を思うと、町の人たちにいたずらを許容しましょうとは言いにくい。
片方だけに負担が偏るのではなく、互いに譲り合える最適というのは、あるのだろうか――
---+---+---+---+---+---
定時を少し過ぎたところで仕事を終えたノアは、だんだんと夜が近付くなか、妖精館二階にある資料室に向かった。
そこには妖精に関する文献や、この島の歴史、ソノレアや他の町では妖精とどう付き合ってきたかなどの情報をまとめた本が収蔵されている。
稀少なものは持ち出せないが、妖精館職員であれば自由に本を借りることが出来た。
「しつれいしまーす」
おずおずと扉を開け、古い紙とインクの匂いが満ちた部屋へ足を踏み入れる。
天井までそびえる棚の上部は、闇に紛れて判然としない。正面奥――遠くの窓から射す残光が、足元に等間隔に配された鱗石の存在を、弱弱しく輝かせていた。
ノアは受付で借りてきた手のひら大の鱗石で、壁に埋め込まれた鱗石に軽く触れる。その接触で目覚めた石たちは連鎖反応を起こし、床や天井に次々と明かりが灯っていった。
昼間ほどとはいかないが、本を読むのに十分な光だ。借りた鱗石を鞄にしまったノアは、蔵書の背表紙を一つ一つ眺めていく。
「えーと、妖精の考え方に関する本は、と」
本棚に沿って歩いていると、出入り口にぬっと大きな影がかかった。
「お、ノアか。どうしたこんなところで?」
「ボス。お疲れ様です!」
「おう」
ドミニクは片手を上げてノアに近付き、人好きする笑顔で「お疲れさん」とノアを労う。
「今日は妖精の嵐があったんだってな? 大変だったろ」
「そうですね、強烈でした」
昼間の混乱を思い出したノアは、思わず苦笑いをこぼす。
折角集めた資料やら報告書やらがだめになったとかで、ほとんどの捜査員が今日は残業していくそうだ。ノアもレイフを手伝おうとしたのだが、「余計なことはしなくていい」と一蹴されてしまった。
「そういえばボスはあの時どこにいたんです? 姿が見えませんでしたけど」
「ああ、オレはノアの両親と会っていたんだ。二人とも元気だぞ」
「え!?」
あまりにもあっさり言われ、ノアは面食らう。両親が思いのほか落ち込んでいないようで安心はしたが、逆にドミニクのことが心配になった。
「あの、わたしが言うのもなんですが……そういうことわたしに教えちゃってもいいんですか?」
事件の担当であるレイフも、ノアの両親に面会に行っているはずだ。
しかしレイフはノアに何も言わない。彼にとってノアは助手ではなく「容疑者家族」であり、ささいな情報も漏らすまいとしているのだろう。
元気そうだった、の一言もないことからして、両親を案ずるノアの気持ちなど頓着していない可能性もある。どうにもレイフには、人の感情に疎い所があった。
「別に口裏合わせの片棒担いでるわけじゃねぇからな。大丈夫だ」
にっかり笑ったドミニクは「オレの心配してくれてありがとな」と言って、ノアの肩をぽんぽんと叩いた。
「ボスってほんとうに、良い人ですね」
分厚くて大きくな手のひらの温もりが残る肩に触れつつ、ノアははにかむ。
捜査係に乗り込んで強制排除されたあの日も、ドミニクは「自分を雇ってくれ」と無理を言ったノアを受け入れてくれた。
それはノアにとって、二重の喜びだった。
(きっとボスも、父さんと母さんが犯人じゃない、って考えている)
そうでなければ、ノアを雇ったりはしないはずだ。捜査係がどんなに人手不足で猫の手も借りたくても、ドミニクが類稀なるお人よしでもない限り、普通は嫌疑がかかっている者の家族を雇ったりしない。
心強いやら感謝やらで、ノアはきらきらとした目でドミニクを見上げる。
ドミニクは気恥ずかしそうに頬をかいて、話題を変えた。
「そういや、仕事にはもう慣れたか? 妖精と人間の橋渡しは結構疲れるだろ? 体力も気力もいる」
「そうですね……大変な仕事だと思います」
昼間のレイフの言葉を――人間と妖精の齟齬を考えると、ノアの顔は自然と険しくなる。
「ただ妖精がかわいいとか、仲良くしたい、ってだけじゃ立ち行かないからなぁ。優しいだけじゃつとまらん」
「はい」
「ま、今はそう深刻にならんでいい。まずは人間と妖精の違うとこ、同じとこ。考え方やら習性やら、いろんなことを知ることが大事だ。一口に妖精といってもいろんな奴がいるしな」
ドミニクは「この辺の本なんかいいぞ」と言って、ノアに次々本を渡していく。
両手でそれを受け取ったノアは、腕の重みに軽く眩暈を覚えた。本を読むのは嫌いじゃないが、さすがに一度に十冊は多い。中にはノアの腕ほどの厚みの本もある。
「そうそう、慣れたといえばもう一つ。レイフとはどうだ? うまくやっていけそうか?」
「はぁ、まぁ……なんとか」
煮え切らない返事をしたノアが本を抱えなおすのを見て、ドミニクは納得したような残念そうな複雑な表情で眉を下げた。
「あー……あいつは可愛げのない性格してるからな」
「全くです!」
ノアは鼻息荒く同意する。ドミニクを敬うだけでなく、性格面でも見習えばいいのに。
「まぁ、あれで色々苦労してんだ。ノアみたいに素直でイキの良い子が傍にいてくれりゃ、少しは変わるかと思うんだが」
「わたしは性格矯正器具じゃないです」
不満を露にするノアの言葉がツボにはまったのか、ドミニクは大きな声で笑った。
「ははっ、そいつはいい! ついでにアランの生真面目さをエドガーに分けてやってくれるといいんだがな」
「無理です、わたしにそんな効用ありません」
「ぶふっ!」
筋肉隆々の身体を折るようにして腹を抱えるドミニクの姿に、ノアは肩をすくませる。
ドミニクは良い人だが、今の会話のどこに笑うポイントがあったのか。彼もまた少々変わった人物らしい。
「ボス、ここにいたんですか」
ドミニクの声が響く資料室に、書類を手にしたレイフが顔を出した。
「おう、レイフ。どうした?」
目尻に滲んだ涙を拭ったドミニクはノアの傍を離れ、出入り口に立つレイフのもとへ歩いていく。
「以前町外れの要塞跡へ調査に行く許可を頂きましたが、昼間の妖精の嵐で書類が破かれてしまったので。もう一度サインをお願い出来ますか」
「ああ、わかった」
「要塞跡? レイフ、そんなところに行くの」
東の町外れにある要塞は、救国伝説よりも遥か昔――リディーズ島がいくつかの国に分かれていた頃に使われていたものだ。今では風と潮とで朽ち果て、誰も近付かない。
「お前には関係ない」
ドミニクの後ろから顔を覗かせたノアを、レイフは一言で切り捨てた。
「はいはいわかりました。調査に行って足を滑らせて海に落ちないように、せいぜいお気をつけて!」
いーっとレイフに向けて歯を剥いたノアは、ドミニクにだけ挨拶をして資料室を出る。そしてずっしり重い本を抱え、どすどすと廊下を踏み鳴らしながら宿舎へ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます