#33 - Blackberry団と、この世界のみんなのこと。

 未咲「れいかちゃぁん……」


 先に学校に来ていたわたし(玲香)が、頼りない声に気づいて振り返る。

 みずから制服をたくし上げて、小水で濡れた下着を見せてくる未咲がそこにいた。


 未咲「ふきふきしてぇ……」


 いつにもなくふにゃふにゃしている。

 最近、未咲の失禁回数が異常なほど増えてきているように感じる。その原因は。


 玲香「また、が出たのね」

 未咲「うん……」


 あいつら、というのは、未咲のトラウマとなっている、

 古いアニメ作品に出てくる謎の秘密結社『Blackberry団』のこと。

 彼らに夢の中で襲われることが多くなってしまい、最近の悩みのタネだ。

 それを思い出すと、自分で尿意すらコントロールできなくなるという。


 玲香「気持ちはわかるんだけど、もうちょっと慎ましくできないものなの?」

 未咲「できないよ……頭の中に焼き付いていて、忘れられないんだもん……」

 玲香「ほんと、困ったわね……」


 未咲のとなりに座っている春泉は、きょうはやむなく欠席。

 草津家の三人目となる女の子の出産に立ち会うためと、ホームルームで聞いた。


 玲香「無事、春泉のところに生まれてきてくれるといいんだけど」


 なにげなくつぶやいた。


 ♦


 母親「ふぅんっ、くぅっ……!」


 かなり苦しそうな顔をして、お母さんが新しい子どもを産もうとしていた。

 さくらのときは、ここまで大変じゃなかったと思う。


 助産師「もう少しですよー、がんばって!」

 母親「うぅんっ、はやくうまれてっ……!」


 息もたえだえになって、こっちまで苦しくなってくる。

 無事に生まれてくることを、ただ願って待っているしかなかった。


 しばらくして、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。


 助産師「生まれましたよー。元気な女の子です」

 母親「はぁっ、はぁっ、ありがとう、ございます……」


 お母さんはそれから、少しだけ気を失ってしまった。


 ♦


 春泉「んっ」


 ぶるっ、と寒気がした。

 おしっこだ、と気づくより先に、身体は勝手に排泄準備を始めようとしていた。


 春泉「わっ、待ってっ」


 じょわ……。

 やってしまった。そう思うと、たちまち恥ずかしくなってくる。

 ハルミはかなりひさしぶりに、パンツにおしっこのシミを作ってしまった。

 ようやくちゃんとトイレまでガマンできるようになったと思ったら……。

 やっぱり、この世界の寒さとかがいけないのかな……。


 春泉「さくらだって、最近は全然おもらししてないのに……」


 自分で自分がなさけなくなった。

 産みの苦しみで気絶したお母さんが目覚めるまで、ずっとひとりで泣いていた。


 ♦


 B団「Blackberry団、只今参上! お嬢さんの純潔は我々が頂いた!」(←妄想)

 未咲「いやぁぁぁぁぁ!」

 玲香「なに授業中に騒いでんのよ、静かにしなさい」

 未咲「だって、だって……!(ぶるぶるぶるっ)」

 玲香「(あれっ、何かしら、この感じ……)」


 未咲の身震いを見てか、わたしのほうまでそれが伝わってしまったようで。


 玲香「(トイレに行きたくなってきたけど……動けないし、喋れない?!)」


 わたしはフリーズした。こんなこと、いままで一度だってなかったのに。

 尿道が熱を帯びる。限界が近い。いったいどうすれば……!


 玲香「(このまま、みっともなくおもらしなんて……そんなの絶対いや!)」


 そうは思っても、身体はものの見事に動いてくれない。

 膀胱の体積が増えていくのを感じる。その中身が出口を求めて渦を巻いていく。


 玲香「(おねがいっ、うごいて……!)」


 沸騰しそうな顔とおなかをして、わたしは必死にこの状況を脱しようともがいた。

 でも、まったくの無駄だった。


 玲香「(やだ、もう……っ!)」


 まるで約束されたかのように、その時はやってきた。


 じょっ、じょぉっ……。

 椅子の上でかすかに動くお尻のほうから、生暖かい液体が噴出し始めていた。


 玲香「(止めなきゃ……でも、どうやって?)」


 考えても、答えは出なかった。

 こらえきれなくなって溢れ出るその水は、どこまでも黄色く光り輝いている。


 玲香「(だめ、こんなところで……みんながいるのに……)」


 これもBlackberry団とやらの仕業、なのだろうか。

 禁断の授業中おもらしは、このようなかたちで不意に訪れてしまった。


 未咲「わぁっ、玲香ちゃんのおしっこ、すっごいにおい……」

 うみ「な、正直ここまでとは……」

 玲香「(ふたりとも嗅ぐな、ばかぁっ!)」


 ロコだけはまったく気にも留めないようすで、粛々と授業を受けていた。

 結局おもらししたあともしばらく動けず喋れずの状態が続き、

 気がつけば放課後になるまで、わたしは椅子の上で監禁され続けていた。


 玲香「(絶対かぶれてる……あぁっ、また尿意がっ……)」


 計三回ほど耐えきれず垂れ流してしまい、大恥をかく結果となった。

 ようやく原因不明の拘束状態が解かれて、やっとロコが声を掛けてきた。


 ロコ「えっと……だ、大丈夫……じゃないよね、あはは……」


 だいぶ気を遣われてしまっている。わたしも喋る気力はとっくになくなっていた。


 ロコ「きっと、うん、大丈夫……わたしもよく、おもらし、するから……」


 そういう問題ではない、とはわかりつつ、精一杯の気遣いには感謝しかなかった。


 ロコ「じつはいま、わたしもその、したくて……だから、大丈夫、だよ……」


 そういってロコはずっと突っ立っている。何をするのか、だいたい想像はつく。


 ロコ「すぅーっ、はぁーっ……じゃあ、するね……んっ」


 ぷるぷると、そしてせつなげな表情を浮かべて、ロコは何かを準備し始めていた。

 それはロコの身体がずっと溜め込んでいた、身体にとってはもはやよくないもの。


 ロコ「……やっぱりだめ!」


 突然、ロコが叫んだ。でも見たところ、いまさら引き返せそうもない

 ところまで来ているのは、こちらまで伝わってくるようだった。

 お願いだから、早く楽になってほしい。わたしみたいに苦しんでほしくない。


 未咲「ロコちゃん……」

 ロコ「なぁに、みさきちゃ……ひゃぁぁっ」


 どうやら未咲はロコの後ろにまわり、排泄を促してあげたくなったらしい。

 服の上からおなかをさすって、おしっこが出やすくなるようにしている。


 未咲「ほら、あんまり我慢してると苦しいでしょ? 遠慮せずに出していいよ」

 ロコ「それはわかってる、けど……」


 あと一歩、のところでロコは踏み切れずにいた。

 未咲はそれでも献身的に、ロコに寄り添って気持ちを同じくしていた。

 こちらからだと、なんだか未咲まで我慢しきれなさそうに見えてくる。

 まさかとは思うけど、時を同じくして果てるつもりだろうか。


 未咲「ここを刺激したら、ロコちゃんでもたくさん出せそうかな?」

 ロコ「やっ、らめっ、こんなところでおしっこしちゃ、だめ、なのっ!」

 未咲「いいから、気にしないで。ここはロコちゃん専用のトイレだと思って」

 ロコ「そんな、だめ、みさきちゃん、やめて、はなして……あっあっ!」


 昂ってぴくぴくし始めたかと思えば、ロコの下着がうっすらと透けだした。


 未咲「その調子で、もっと自分に正直になって、さあ!」

 ロコ「やぁん、もう、だめ……おしっこ、ここまできてっ、あぁぁっ」


 ぷしゅぃぃぃっ!

 聞いたこともないような音を立てて、ロコちゃんはおしっこを出し始めた。

 下着は汚い色に染まってしまうけど、きれいにも見えてくるから不思議だ。

 わたしは安堵した、と同時に、わたしまでおしっこしたくなってしまった。


 未咲「すごいね、ロコちゃん……その、わたしもいいかな?」

 ロコ「未咲ちゃんも? うん、いい、んじゃないかな、わかんないけど……」

 玲香「(ふたりともおもらしごっこはいいけど、ちゃんと始末しなさいよ……)」


 残念なことに、声は声にならず、ふたりには届かない。

 それをいいことに、ふたりはやりたい放題気の済むまで教室の床を濡らし続けた。


 ♦


 ロコ「着てるものも足元も、ぜーんぶおしっこまみれになっちゃったね……」

 未咲「わたしたち、もう引き返せないところまで来ちゃったみたいだね……」

 ロコ「あはははは……」

 未咲「えへへへへ……」


 しばらく力なく笑っているしかできなかった。

 片付けだしたのは、最後のチャイムが鳴ってから実に三時間が経過した頃。

 こんな青春、できることなら過ごしたくなかったかも……。


 これというのも、すべて冬のせい。きっとそうに違いない。

 でも、これでいい。

 なんたってわたしたちは、不思議な空気でつながりあっているのだから。

 これからもずっと、こんなことだけして学生生活を送っていたい。

 そう思ってしまった。


 わたしたちは、もう立派なだった。


 ♦


 春泉ちゃんのところは母子ともに健康で、数日後には退院できるらしい。

 それを聞いて安心した。また学校に来たときにいろいろ聞かせてほしいな。

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