#32 - ちいさいころのおはなし。 - The story about when we were children. -

 ――あのころも、やっぱり寒かった。


 それは、わたしたちがまだ幼かったころ。

 玲香ちゃんに手を引かれてやってきたのは、あたりに誰もいない雪原。


 れいか「ゆきあそび、しましょ」


 うれしかった。ただ玲香ちゃんといっしょにいれるだけで。

 だけどこのときのわたしは、べつのことで頭がいっぱいになっていた。


 みさき(うぅ……さむい……)


 そう、とにかく寒い。

 もとよりこの世界に住んでいたら、当たり前のように感じる温度の低さ。

 でも、実はこの『さむい』には、もうひとつの意味が含まれていた。


 ――おしっこが、したい。


 口には出ない。考え、もしていないかもしれない。

 わたしの体だけが、ほんとうのきもちを知っている。そしてそれには気づけない。

 限界になるまで、あのころのわたしはおしっこの感覚をつかめなかったんだ。

 最近になって、ようやく思い出すことができた。


 ふたりしてしゃがむ。その日は、玲香ちゃんと雪うさぎをつくることにした。


 みさき「ゆきうさぎつくろー♪」

 れいか「(アンナの歌ね……ん?)」


 このとき玲香ちゃんが、なんとなくこっちを見ているような気がした。


 れいか「――!(みさきちゃん、ぱんつ、ぱんつ!)」

 みさき「えへへっ、れいかちゃんとこうやってあそぶの、たのしいな~」

 れいか「……っ!(どきどきどきっ)」


 顔を上げると、玲香ちゃんがなぜか顔を真っ赤にしていた。

 これまたなんでかわからないけど、心臓の音まで聞こえてきそうだった。


 わたしの脚は開きっぱなし。いま思えば、この恰好は端たないし、何より冷える。

 パンツも見えていたんじゃないかな。玲香ちゃんがヘンによそよそしかったし。

 おしっこのシミもついてたんじゃ……もしかして玲香ちゃん、そんなところまで?!

 いろいろ思い出すと、なんだか恥ずかしくなってきちゃいそう。


 ――しばらくすると。


 みさき(ん……? なんだろう、このかんじ……)


 おなかを見る。だけど変わった様子はどこにもない。

 気のせいかな……そう思った瞬間、自分でも何を思ったかわからず立ち上がった。

 がに股だった気がする。そのとき尿意が一気に限界まで駆け上がったんだと思う。

 気づけばわたしのおしっこの穴は、もう放水準備を済ませていたみたいだった。


 みさき「やっ、おしっこ……っ!」


 んじょろろろっ!

 このときのわたしのおしっこは、とにかくいきおいがすごかった。

 玲香ちゃんに見せつけるように、わたしはパンツをはいたままおしっこをした。

 それも立ちながら。当然ながら、おしっこはわたしの足を伝って流れていく。

 そのことに途中で気づいたので、和式トイレでするみたいに足を曲げた。


 みさき「ふーっ、ふーっ、はぁぁ、んっ……!」


 ちいさなおまたから、ずっといやらしくおしっこが噴き出し続けている。

 不思議といやじゃない。むしろとっても気持ちがよかった。

 どんな顔をしていたか覚えていない。玲香ちゃんは知っているかもしれないけど。

 玲香ちゃんはずっとこっちを見ていた。まるで何かにとりつかれるみたいに。


 れいか「(だめ、っ……そんなおととこえきかされたら、わたしまで……)」


 ちらっと確認すると、玲香ちゃんの身体がぶるぶる震えだしているみたいだった。

 そして、それはいきなりだった。


 すぱーん。


 わたしの頬を平手でなぐった。


 みさき「???」

 れいか「……!」


 玲香ちゃんはこの場から去っていってしまった。


 みさき「なんで……?」


 つくりかけの雪うさぎは、わたしのおもらしによって溶かされていった。

 それがいやだったのかな、と最初は思った。だけど、よく考えると違った。

 去り際にのぞかせた玲香ちゃんのパンツも、また湿っていたのが見えたから。

 わたしのおしっこを見て、玲香ちゃんもつられてしちゃってたらしい。

 自分の意に反して。とっても恥ずかしかったんだと思う。なんとも健気だ。


 みさき「そっか……れいかちゃんも、おしっこがまんしてたんだね……」


 そうじゃないだろう、といまのわたしだったらそう考えるけど、

 当時はこれで納得するしかなかったんだろう。いろいろと恥ずかしい。


 ♦


 そこまで考えたところで目が覚めた。そっか、全部夢だったんだ……。

 夢が教えてくれたこと。それはあのころのわたしたちの、ほんとうのきもち。

 そして恥辱。きっとこの先ずっと忘れることは、ないのかもしれない。

 これからも、この世界で生きていく。そう誓ったわたしだった。

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