#31 - 近くて困っちゃうな…… - Want to go there! -

 学校の女子トイレに、いままさに一生懸命な顔をしながら駆け込む女の子がいた。


 未咲「だめっ、もう間に合わな……あっ!」


 トイレの前で思わずしゃがんでしまい、意図せず出す体勢になってしまった。

 しょぉぉぉっ……。

 こんな状況でけっして聞こえてはいけない音。また、やっちゃった……。


 未咲「もう、やだ……!」


 自然と涙が溢れてくる。失敗し慣れているとはいえ、何度目だって恥ずかしい。

 おまたがあつい。それを感じてしまうと、関係ないはずの顔まで熱を帯びてくる。

 おもらしって、そういうもの。ましてや女の子。そういう生き物だから仕方ない。

 というか、最近トイレが近い。やけに寒い気がする。もちろんいつも寒いけど。


 春泉「はぁ、はぁ……ミサキ……」


 そんなわたしを見て、興奮をおさえられないような声を出す女の子らしき人。

 春泉ちゃんだった。


 春泉「ハルミももうゲンカイだよ、ミサキ……」


 それは高ぶる気持ちのことか、はたまた……。

 春泉ちゃんはわたし以上に、どこかせつなげな表情をうかべていた。


 春泉「あっあっ……でる……」


 ぎゅっとすそをおさえたかと思うと、直後、そのあたりが黄色く染まっていった。


 春泉「きもち、いい……」


 わたしとは対照的に、まるっきり快感としてその事実を受け入れた春泉ちゃん。

 春泉ちゃんは、このことをあまり失敗とは思っていないのかもしれない。

 残念ながらわたしは、少しだけだけど気まずさを覚えてしまうようだった。


 春泉「見てた? ミサキ」

 未咲「えっと……うん……」

 春泉「最近、カラダがなんかヘン……すぐおもらししちゃう……」

 未咲「わたしも……」

 春泉「がんばってガマンはする……けど何回もちびっちゃう……」

 未咲「わかるよ……」

 春泉「もう! この季節、いつ終わるの?!」

 未咲「お、落ち着いて春泉ちゃん! きっといつか終わるから……」

 春泉「いつかって、いつ?!」

 未咲「それは……」

 春泉「こんなことなら、いっそ生まれてこなかったら……」

 未咲「春泉ちゃん……そんなこと言っちゃダメ、だよ……」


 見える息が、どこまでも白い。

 春泉ちゃんの言っていることは、痛いくらいにわかる。わたしだって逃げたい。

 でも逃げられない。だからわたしたちは、ここで生きていくしかないんだ。


 玲香「トイレのほうから騒がしい声がすると思ったら」

 未咲「れいかちゃんみないでっ!」

 玲香「いまさら言われたところで、見慣れているからなんとも思わないんだけど」

 未咲「はぅぅ……こんな日常とも早くさようならしたいよぉ……」

 玲香「なんの話してたの」

 未咲「れいかちゃんにはないしょ」

 玲香「なにそれ、きもちわるっ」

 未咲「いいの、これは春泉ちゃんとわたしの、女の子同士のひみつなんだから」

 玲香「そう、わたしもいちおう女の子なんだけどね……」


 なんだか一瞬で疲れた。早く家に帰って録り溜めた番組でも消化したい。

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