#30 - こんなところ、玲香ちゃんにしか見せないんだから……
キーン、コーン……。
授業が終わり、帰ろうとしたそのとき。
未咲「うーん、うーん……あはっ」
まゆをひそめつつ、未咲が机に両ひじをついて何かを考えている。
様子が少しおかしい。いや、少しどころではないかもしれない。
足をぶるぶると震わせて、しまいにはあやしく笑った。
未咲「……よしっ」
覚悟を決めた、と言いたそうな顔をして、わたしのところに駆け寄ってきた。
未咲「玲香ちゃん、待って……!」
そう言っている間にも、身体はぴくぴくと微動していて、落ち着きもない。
じっと見つめていると、今度は制服のすそをおさえてもじもじしはじめた。
目の焦点はまるで合わず、しだいに呼吸まで乱れていく。間違いない……。
未咲「あのねっ……じつはわたし、いますっごくおしっこがしたいんだ……」
玲香「そ、そう……だったら、勝手に行ってくればいいと思うんだけど……」
未咲「いやっ、それじゃ、意味、ないの……玲香ちゃんと一緒じゃないと!」
玲香「んー……?」
どういった理屈なのか。わたしにはさっぱりわからなかった。
まさか小さい子どもじゃないし……いや、まさか、そのまさかだったり……?
確証はない。だけど、未咲はときどき子ども返りしたりもするっぽいし……。
玲香「……わかったわ。いっしょに行きましょ」
未咲「うん!」
にぱっとした笑顔。どうやらこれであってるらしかった。
一向に春になる気配のないこの世界で、未咲は孤独を感じているのかもしれない。
こと排泄に関しては……至上の悦びとして、未咲の脳にインプットされていそう。
あまりきれいなものではないけど……未咲にとってはたいせつなんだろう。
わたしが付き合ってあげてもいい、ような気が、このときはしていた。
このあと、わたしの顔が縦の信号機よりも赤くなるとは知らないで。
♦
玲香「トイレに着いたわよ。ほら、早く個室に入って」
未咲「う、うん……」
むずむずするような笑みを浮かべつつ、未咲はひとり女子トイレの中に……
と、なぜか後ろを振り返り、わたしの目を見つめながらこう言った。
未咲「ねえ、れいかちゃんもはいろ?」
玲香「えぇ……わたしはここでいいでしょ」
未咲「はやくぅ……おしっこぉ、もれちゃうからぁ……(足をぱたぱた)」
玲香「しっかたないわね……」
わざとらしくも見えるその我慢のしぐさ。
――これってもしかして、ほんとうに限界が近いの?
未咲は演技派ではないと見ているので、じつは後者なのかもしれない。
実際に漏らされると困るので、わたしはためらわずに従うことにした。
はっきり言ってしまうと、未咲はとにかく世話が焼ける。
だけど、悪くもない。彼女から絶大な信頼をおかれている気がするから。
未咲「ちゃんと個室までついてきてよ? 扉の前でさよならはだめだからね?」
玲香「もちろんよ」
できるだけの笑顔を作って、未咲に見せつけてみたりする。
少しでも安心して排尿させてあげたい。そんな想いが芽生えつつあった。
このときの未咲は、なんかたよりなくてかわいく見えた。
それがどこか嬉しくて、自然とまた笑顔になってしまう。
何も気にせずに、ここでおしっこしていいんだよ。そう言ってあげたい。
だけど、このときの未咲はとにかくおかしかった。
洋式便器に座った未咲が、驚くべきことばを口に出す。
未咲「よっと。んじゃ、いまからここでおもらしするね、れいかちゃん」
玲香「……ん?」
せっかく作った笑顔だったのに、一瞬で凍りついた。
玲香「えっと、ここってトイレよね……なんで?」
未咲「なんでも。なんかね、急にぱんつ脱ぐ気がなくなっちゃったみたい」
玲香「はぁ……?」
未咲「あとね、玲香ちゃんにわたしの恥ずかしいところ見せたいなって」
玲香「いや、だからなんで?」
未咲「だから、なんでも。玲香ちゃん、わたしのここ、さわっていいよ」
そう言って未咲は、みずから下腹部をさらけだす。
未咲「おしっこしたくなるように、やさしくさすってほしいな……」
玲香「いやいやいや……え? ほんとにいいの?」
未咲「こんなこと、玲香ちゃんにしかさせてあげないんだから……」
玲香「したくておなかぱんぱんだろうに、よくそんなこと……」
未咲「だからこそ、だよ。玲香ちゃんに全部ぜーんぶ見届けてもらいたいの……」
言って未咲は、いまにも破裂しそうなおなかをいとおしそうに見つめていた。
トイレでおもらしをする、というおかしな行為を後押ししてほしいと?
冷静に考えてみる。こんなこと、やっぱり気安く推し進めていいものでもない。
玲香「今一度、確認ね……ほんとにいいのよね?」
未咲「だから、いいって言って……あっ」
短い悲鳴。それが指し示していることといえば、もうそれしかなかった。
未咲「ごめん、玲香ちゃん……さすってもらわなくても、もう限界っぽい……」
玲香「じゃあ、やめとく?」
未咲「ほんとにごめんね……いつも冷えるから、おしっこ溜まりやすくって……」
わたしだってそうだけど、未咲はとくにそうらしい。
未咲いわく、漏れそうなときは尿道がとにかく出したがっている感覚になるとか。
そういった経験に乏しいので、それが真実かどうかはわからない。
でも、たぶんそうなんだろう。
未咲「ああっ、だめっ、でる、はぅ、れいかちゃん、おしっこ、みて……!」
玲香「べつに見る必要はないんじゃ……」
言いつつも、未咲のどうしようもなくてどうにかなりそうな顔を見る。
こっちまで照れてしまいそうになって、目線を逸らしたくもなる。
でも、どうしてだろう。必死にこらえている未咲に、なぜか釘付けになる。
思えば未咲はここ最近、結構な頻度でおしっこを漏らすようになった。
昔はこんなこと、ほとんどなかったのに。
これまであまり見たことのなかった幼馴染の姿に、魅了されてしまいそうになる。
あれっ……わたし、なんでこんなに未咲のこと……?
未咲「あっあっ、でるっ、おしっこ、どうしよう……」
もう子どもじゃないのに、トイレに座りながらパンツを汚すなんて。
すべてが間違っている。なのに、不思議と間違ってもいない気さえする。
限界はすぐそこだった。
未咲「だめっ……!」
目をつぶる。水の音が聞こえる。ついに未咲はおもらしした。
子どもみたいにうつむいて、そして等身大(?)に悲しんだ。
未咲「やっちゃった、やっちゃったよぉ……」
やっぱりわからない。どうして、こんなことを……?
未咲「わたし、わたしね? 玲香ちゃんが一回だけおもらししたこと、覚えてる」
玲香「それが、これとどう関係が?」
未咲「わたし思ったの。当時の玲香ちゃんの気持ちを知るには、こうすべきだと」
玲香「うーん……」
どう、なんだろう……こうしたところで、わたしはもう女子高生なんだけど……。
未咲「わたしはまだなんかどこか幼いし、わかることもあるかなって思って」
玲香「……」
まあ、彼女が何かわかったのなら、わたしからは何も言うことはなくなる。
もしそうだとしたら、素直に従ったことも間違いではないとも思えてくる。
何にしても恥ずかしかっただろうし、当時のわたしだって恥ずかしかった。
それはもうその場から逃げ出したくなるほどに。でも未咲は逃げなかった。
もちろん、わたしも逃げはしなかったけど、恥ずかしくてたまらなかった。
未咲「ごめんね、玲香ちゃん……こんなことに付き合わせちゃって」
玲香「気が済んだのなら、こちらとしては何よりよ」
未咲「これからもこんなことするかもしれないけど……よろしくね」
玲香「できれば見たくはないけどね」
嘘。わたしはもう気づいてしまっている。未咲のとびっきりかわいい部分に。
幼さ、と言ってしまえば単純だけど、実質それに近いものではある。
年相応な部分は、確かにある。
ときおりのぞかせるから、たまらなく見えてきたりもする。
あとどれくらい見られるかな。いつか振り返ってみて、指折り数えてみたい。
未咲「じゃ、帰ろっか!」
玲香「待ちなさいよ未咲、濡れたパンツ履きっぱなしでいいの?」
未咲「んー、なんか面倒くさい……」
玲香「まったく、あんたって子は……」
そう、未咲という子はもう、これでいい。
むしろこれくらいじゃないと、なんかそれこそ落ち着きがなくなりそうで怖い。
この関係性こそが、わたしたちなんだと思う。これまでも、これからも。
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