#25 - 雪あそび、しよ? - Let's play in the snow! -
蜉蝣「きょうはみんな、俺たちのライブにきてくれてありがとう」
そういって
俺たち、と言っているけど、じつは蜉蝣は女の子だったりする。
そしてメンバーは全員女子で構成されている、いま注目のガールズバンド。
この機会にライブに参加してみようと思い、ライブハウスにやってきた。
蜉蝣「それじゃあ最後の曲、聴いてください」
演奏が始まった。
なにか壮大なことが起こりそうなイントロで始まるこの曲には、思い入れがある。
はじめてこの曲を聴いたとき、なぜだかわからないけど
こんな経験は、これまでなかったに等しいことだった。
しかしあっという間に曲は終了し、観客はみんな
客1「あれっ、この曲ってこんなに短かったっけ?」
客2「このバンドねぇ、なんでか知らないけど気分によって曲の長さ変えるのよ」
客3「なんでだろう、いい曲だと思うのに……」
きっと誰にも
あまり深くは考えずに、わたしはそそくさと会場をあとにした。
♦
未咲「っていうことがあってね……」
玲香「
少しだけ音楽かじってるわたしが考えるに、その子たち、
じつはそんなに音楽のことを愛してないんじゃないかしら」
未咲「さらっと耳に引っかかること言ったような……
そうは見えないんだよね……曲のつくりはとっても
玲香「表面上そう見えたとしても、深く
未咲「そういうものなのかな……なんか悲しいね……」
玲香「現実はえてしてそういうものね。
未咲「わかった……わたしの話につきあってくれてありがとう、玲香ちゃん」
冷たい風が、教室の窓をめがけて吹いているようだった。
わたしたちのところまでは届かなくても、なぜだか寒さを覚える。
きょうは雪が降りそうだった。
未咲「ねぇ玲香ちゃん、学校おわったら雪合戦とかしない?」
玲香「そんな子どもっぽいこと、あんまりしたくないんだけど」
未咲「いいじゃん、たまにはこういうことして気分の
玲香「絶対しないから」
未咲「じゃあわたし、玲香ちゃんが
雪玉ストックしておいて、いっせいに玲香ちゃんめがけて
それでもいいの?」
玲香「勝手にしなさいよ、わたしはそれ全部よけるつもりでいるから」
未咲「不可能だと思うな~。だってわたし、けっこうコントロール正確だもん」
玲香「どうだかねぇ……」
と、うみちゃんが会話に入ってきた。
うみ「雪合戦するのか? あたしも混ぜてくれよ!」
未咲「いいよー! ロコちゃんにも声かけてみて、おっけーだったら教えてねっ」
うみ「おうさ!」
雪合戦なんて、幼いころ以来ひさしくやってない。
やったあと手がかじかんでしまうのがいやで、これまでなんとなく
この機会にふと思い立ってやってみるのもいいんじゃないか、と思えた。
だってもう、わたしたちはあったかい関係で結ばれているから。
ロコ「雪合戦? いいよ~。ひさしぶりにやるから楽しみ~」
玲香「それにしても、きょうはほんとに寒いわ……冷凍庫の中にいるみたいね」
未咲「おしっこも間に合わないよね……さっき、ちょびっともれちゃったよ……」
ロコ「未咲ちゃんも? わたしなんて、ぱんつびしょびしょになっちゃった……」
未咲「ぱんつびしょびしょ……それ、すっごいね……///」
ロコ「うんっ……♡ はやくまたおしっこ、い~っぱい溜まらないかなぁ……」
なぜだかロコはうつむきがちになりながら、どこかいとおしそうにしていた。
未咲とおんなじベクトルかもしれないと、いやでも考えてしまいそうになる。
わたしだけは絶対にそうはならない。いくら外が冷えていたとしても。
未咲「あれっ、そういえば
玲香「そのようね。
体調不良で学校に来れないって学校に
未咲「そっかー、残念……わたし、雪合戦おわったらお見舞いに行ってくるよ」
玲香「ええ、
春泉ちゃんを雪合戦にさそえなくて本当に残念だったけど、
きょうはこの四人で、せいいっぱい楽しむことにしよう。わたしはそう決めた。
玲香「けっきょく、わたしはしなきゃいけないことになるのね……」
♦
放課後、誰もいない校庭に、しんしんと雪が降り積もろうとしていた。
未咲「もちょっと待てばいっぱいできそうだねー。よし、それまでステイ!」
玲香「
未咲「まぁ、それぜーんぶふくめてたのしーい雪合戦ってことで!」
玲香「むちゃくちゃを言ってることに、一刻も早く気づくべきね……」
未咲「ちょ、ちょっと玲香ちゃん、何しようとして……むぐぐっ!」
玲香ちゃんが実力行使に出た。わたしの口には積もりたての雪が
未咲「
玲香「さて、帰りましょうか」
未咲「
そうは
未咲「玲香ちゃんって案外つきあいがいいよね。さっすがわたしの
玲香「もう、どう返したらいいのやら……」
未咲「ありがとう! 未咲ちゃん(はぁと)とかでいいと思うよ?」
玲香「はいはい、そうですね……」
出る息はため息ばかり。
誰がちゃん付けで呼ぶものか。わたしはかたく胸に
未咲「ていうか、降り積もったばかりの雪つめるって軽い
だってばっちいよ? 誰が
玲香「それに関しては本当に申し訳ないことをしたわ、ごめんなさい」
未咲「うむ、素直でたいへんよろしい」
玲香「(……はやくおうち帰りたい)」
そしてギターの練習をしよう。雪のせいで手がうまく動かなかったとしても。
帰ってきてすぐあっためれば多少はなんとかなる、はず。そう信じたい。
未咲「ではでは、準備が整いしだい始めたいと思いまーすっ!」
ロコ「たのしみだね、未咲ちゃん♪」
未咲「そうだねー。始まったらまっさきに玲香ちゃんねらいでいこうねー♡」
玲香「わたしはなにがなんでも全力でよけるから!」
その目には、この季節にそぐわないほど赤い炎がめらめらと燃えていた。
♦
しばらくして、玲香ちゃんの目がいつものようにクールになったとき。
雪は思っていた以上に地上に集まり、万全なフィールドができあがった。
未咲「さすがに寒くなってきたね……やっぱりやめよっかな……」
うみ「ここまできておいてそれはないぜ、あたしはまだ平気だぞ?」
ロコ「(ど、どうしよう……またおしっこ、したくなってきた……)」
ふたりがしゃべっているとき、おしっこの穴はいまにも悲鳴をあげそうだった。
もしいま雪玉をおなかに当てられちゃったら、わたし、わたし……!
のんきなこと言ってたさっきのわたしには、もう
未咲「うん……じゃあもうちょっとだけ待ってみよう、かな……」
いま、わたしはすっごくおしっこがしたくてトイレを思いうかべている。
でもせっかくみんな外で待っている中で、ひとり抜けるのはなんだか気が引けた。
こうなったら、なにがなんでもがまんし通して、すきをついてトイレに行こう。
玲香「(やっぱり、どうしたって寒いわね……)」
玲香ちゃんはひとり
♦
未咲「じゃ、じゃあいくよーっ……はじめ!」
わたしの声を合図に、雪合戦は幕を開けた。
あきらかに挙動がおかしいわたしと、どこか緊張ぎみのロコちゃん。
同じ結末を迎えることになるとは、ここでは考えもしなかった。
玲香「ほらそこのふたり、もたもたしてたら当てるわよ!」
うみ「なかなかやるな……それなら、これでどうだっ!」
ロコ「ふぅっ、ふんっ……」
ロコちゃんの様子がおかしい。開始早々、微動だにしなくなってしまった。
って、人の心配してる場合じゃない。わたし、がまんしてるんだった。
ロコ「(ねぇ未咲ちゃん、ちょっといい……?)」
未咲「(どうしたの、ロコちゃん…?)」
ロコ「(あのね、わたしね、さっきからおしっこしたくて……んっ……
だからね、わたしをかくまってくれるとうれしいな、って……)」
未咲「(そう、だったんだ……じつはわたしも……)」
ロコ「(やっぱり? 見たところ、なんか未咲ちゃんもへんだったから、
もしかしてって思ってたけど、ほんとにおしっこしたかったんだ……)」
未咲「(うん、あのふたりにはひみつにしてね)」
ロコ「(もちろん、だよ……だから、はやくおわらせちゃお?)」
玲香「そこまでよ! 観念しなさい!」
未咲「そうはさせないよ! くらえっ、ひとまわり大きいわたしの雪玉!」
玲香「無駄玉だったわね! これで終わらせてもらうわ!」
未咲「うっ……!」
くらいどころが悪かった。
おしっこしたすぎるいまだと、完全に急所とも言えそうなところに玉が当たる。
未咲「ああっ、だめ、おしっこ出る、出ちゃうっ……!」
玲香「えっ、おしっ……?!」
わたしのことばに、玲香ちゃんが驚きのあまり目を丸くした直後だった。
未咲「はっ、はっ……!」
しゅおおおおーーーっ……。
さっきまで
尿量は多めで、いつになくいきおいが強く、とどまるところを知らない。
純白パンツに強烈なおしっこのにおいが染み付いて、とれなくなっていく。
湯気まで立ちこめてきて、もうどうしたらいいかわからなくなる。
未咲「やだっ……みないで、玲香ちゃん、みんなっ……」
うみ「(ん? 未咲のやつどうしたんだ? あんなところで座って)」
ロコ「みっ、未咲ちゃん……(そんな、いまそんな音きかされたら……)」
わたしはとっさにお
でも、もう動けないほど尿意は深刻で、呼吸まで切迫していた。
身体はぴくりとも動かない。おしっこがしたい衝動のほうがずっと勝っている。
ロコ「はぁっ、はぁっ……」
未咲「どうしよう……ぱんつ、ぐしょぐしょになっちゃったよ……」
ぱんつがぐしょぐしょ……未咲ちゃんがおしっこで……おしっこ、したい……。
いつもなら聞き流せそうなことばでも、こんな
ほかの何よりも冷たく積もった雪の上で、わたしの身体は確実に冷えている。
なさけないことかもしれない。けど、いまはそんなこと考えている場合じゃない。
わたしはつい、現在進行形でたいへんな未咲ちゃんに助けを求めてしまった。
ロコ「未咲ちゃん、おねがい……わたしのぱんつ、脱がせてほしいの……」
未咲「ごめん、いまそれどころじゃ……うわ、おなかつめたっ……」
未咲ちゃんもまた、
どうしよう……このままだと、わたし、わたし……。
ロコ「(本当におねがい、うみちゃんでも玲香ちゃんでもいいから助けて!)」
ひっこみ思案な性格のせいで、未咲ちゃん以外の誰にもヘルプを出せないまま。
案の定、わたしの願望とは正反対に、みんな未咲ちゃんの心配ばかりしてる。
おしりに落ち着きがなくなっていく。暑くもないし、むしろ寒いのに汗をかく。
うわごとみたいに、「おしっこしたい」みたいなことばっかり口に出してる。
その動作ひとつひとつが、わたしの限界を確実なものにしていくみたいだった。
ロコ「やっ……///」
髪の下あたりから吹き出た汗が、つーっと顔の下のほうまで落ちていく。
合図したかのように、おしっこもそれにならって小さな穴をこじ開けようとする。
ロコ「誰か、誰かっ……!」
目を閉じてせいいっぱい唱えようとしても、この声量だと誰にも届かない。
それくらいのボリュームしか、このときは出すことができなかった。
そしてその声量に対応するかのように、こぼれ出た尿量もわずかだった。
そのとき。
うみ「そーいやロコは、あんなところで何してんだ?」
玲香「さあ……行ってあげればいいんじゃない、わたしは未咲といるから」
うみ「わかった、そうする」
幸か不幸か、うみちゃんは間一髪のところでわたしのことに気づいてくれた。
うみ「おーい、ロコ! そこに座ってたら身体冷えるぞ!」
ロコ「わ、わかってる……」
おそらくこの声も届いていない。大声を出せる余裕さえなくなっているから。
うみちゃんはいちおうわたしのことを気にかけてはくれたけど、それだけだった。
必死におしっこを我慢しているなんて、たぶん一ミリも伝わってないと思う。
ロコ「(うみちゃんに助けを出さなきゃ……うみちゃんに助けを……)」
でも声を出したら、おなかに力を入れることになって、最悪もれちゃう……。
そんなジレンマを抱えてしまったが最後、わたしは諦めざるを得なくなった。
ロコ「(ここはわたし専用のトイレ……だからこのままおしっこしたって……)」
尊厳を捨ててまでして、もう長く苦しい我慢から早く解き放たれたかった。
ここは雪の上。大丈夫、むかしのことばでトイレは[
雪で隠す。雪でおおい隠す。雪に隠してもらう――。
恥ずかしいものがいっぱい詰まった、きれいな色をした、きたない黄色いお水を。
ロコ「おねがい、誰も来ないで……」
今度はさっきまでと逆のお願いをして、ことを済ませようとした。
なのになぜか、こんなときに限ってみんなこぞってこっちに向かって歩いてくる。
ロコ「なんで……? みんな、タイミングが悪すぎるよ……」
未咲「お待たせ、ロコちゃん! さあ、早く
ロコ「待って、未咲ちゃん! いまはだめなの……」
未咲「もうがまんできないんだよね? だったら……」
ロコ「だからこそなの! とにかくみんな、あっちへいって……!」
未咲「困ったなぁ……ほら、ゆっくり脱がせてあげるから……」
ロコ「やっ……」
未咲ちゃんがわたしの
それがきっかけになって、ついにわたしは我慢の限界を迎えることに。
ロコ「未咲ちゃんだめっ、指があたって……あっ、あっ……!」
ちょろ、ちょろっ……。
未咲ちゃんとは対照的に、おしっこのいきおいはなく、じんわりパンツに染みる。
ずっと我慢していたぶん、出すときにかすかではあるけど気持ちよさを覚えた。
もちろん、みんなに見られている恥ずかしさのほうがずっと強かったけど。
ロコ「うっ、ひぐっ……みないでぇっ……」
未咲「そっか……もうがまんできなかったんだね……ごめんね……」
ロコ「ひどいよ、未咲ちゃん……わたし、ずっとここで待ってたのに~!」
わたしたちのおしっこの管――尿道は短い。そのせいで起こってしまった悲劇。
いまでもわたしの股のまわりでは、不潔な水たまりが自分の領域を広げている。
玲香「(ふまじめだけど、見ないでって言ってるのが未咲とそっくりね……)」
うみ「ずっと座ってんなーとは思ってたけど、まさか我慢してたとは……」
ロコ「言えなかった、っ……だって、恥ずかしかったんだもん……。
わたしね、未咲ちゃんのうしろでずっともじもじしてたんだ……」
うみ「早く言おうよ……って、まああたしが言ってもロコは言えないのか……」
ロコ「なにか合図でもできたらよかったんだけど、それもできなかった……」
うみ「こんなこと
ロコ「(こくっ)」
首振りをひとつ。
そしてまたうみちゃんのことばにおしっこが反応して、パンツの中で
そのパンツがみんなに見られていることに気づいたのは、全部出しきったあと。
そうだ、未咲ちゃんに言われて脚が広げっぱなしだったんだっけ……。
わたしがおしっこ出すところ、全部見られちゃってたかも……。
恥ずかしさのあまり、失神寸前になるまで顔を赤らめていたわたしだった。
いろいろあったけど、冷たい雪合戦はふたりの温かいおしっこで幕を閉じた。
濡れた下着はあとでちゃんと洗濯するとして、あとは春泉ちゃんのお見舞いだ。
未咲「んじゃそこのお三方、また会おう!」
玲香「どんなことばづかいよ、ふだんそんな
未咲「わたしはいま春泉ちゃんのことで頭がいっぱいなの! 話しかけないで!」
玲香「なんか急に拒絶されたし、あんたは春泉の何になるつもりなの……」
未咲「じゃあねー! あした、わたしが風邪ひいてたら盛大に笑ってねー!」
玲香「はいはい、言われなくても笑うから安心しなさい」
未咲「玲香ちゃんひどいーっ! ふん、玲香ちゃんが風邪ひいても知らないよ!」
玲香「わたしは丈夫だから。せいぜい自分の心配でもしておくことね」
♦
そして翌日。ばっちり未咲だけが風邪を引いた。
春泉のほうは、すっかり元気になったみたいでひと安心。
未咲に関しては……仕方ないからわたしがお見舞いに行ってあげることにしよう。
(#25、寒)
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