#23 - Hxxxxx な、わたしはあの子の夢を見る。

 簡単なあらすじ:

  未咲みさきは夢を見る。とてもぶっそうな夢を――そして……。



 未咲「ん……っ?」


 ある朝、わたしは違和感いわかんを覚えながら目を覚ました。

 わたしだけの部屋なのに、もうひとり誰かいる気がするんだけど……。


 ??「ふふっ、ようやく起きてくれたみたいね」


 そこにいたのは、見知った、でも見慣れない表情をしたわたしの大切な幼馴染おさななじみ


 玲香「お目覚めはいかが、おぜうさん?」

 未咲「お、お嬢……?」


 あれっ、なんだかいつもの玲香れいかちゃんじゃないみたいな感じがする……。

 そう思うと、急に寒気がしてきちゃった。


 未咲「ちょっと待って! えっ、えっ……なんで、れいかちゃんがここに……?」

 玲香「あら、まだ完全には目が覚めていなかったかしら?

    それとも、これからわたしに何かされそうで怖かったりするの?」

 未咲「はいっ?! そそそ、そんなことないよ!

    むしろ、なんでもこい! って思ってたり……するよ、うん……」


 いきおいがなくなったのは、いくら信頼しんらいのおけるお友達だからといって、

 ずっとそうとは限らないし、いつ豹変ひょうへんしてもおかしくないと思ったから。

 もしこの予感が当たってしまったら、これからわたし、たいへんな目に――。


 ……ううん、ちょっとここで考えてみるね。

 玲香ちゃんはいま、わたしのベッドの上にいる。

 そして、わたしはその玲香ちゃんにおおいかぶさるような形になってる。

 これはもしかして、もしかすると……?

 でもどうだろう。想像するだけで悪寒おかんがしてきちゃいそう。

 見当ちがいの可能性もあるけど、イチかバチかでこう言ってみよう。


 未咲「玲香ちゃん! わたしのことが嫌いだったら、もういっそ殺して!」

 玲香「……」


 ベッドで安眠あんみんしているところを狙って、みたいなことなのかもしれない。

 でも、これだと目覚めるまで待っていた意味を説明できない。

 わたしの中で、勝手になぞは深まっていく。


 それはともかく、突然わたしの部屋に侵入しんにゅうしてきた玲香ちゃんがなんか怖い。

 この無言の間だってそう。

 こんなに冷たい目をした玲香ちゃん、ひさしく見ていない気がする。


 そっか……玲香ちゃん、わたしの知らない間に、わたしのこと憎んでいたのかも。

 脈絡なくえっちなことしたりするし、ほんとうはずっといやだったのかな……。

 だったら、こうなる前に言ってくれればよかったのに……。


 玲香「そうね……がお望みなら、そうしてあげてもいいわ」

 未咲「……へっ? いま、なんと?」

 玲香「二度も言わせないで。って言ってるのよ」

 未咲「じゃなくってっ! さっき、って言った? 言ったよね?!」


 どう聞いても他人行儀ぎょうぎな言い回し。わたしはついに聞きのがさなかった。

 心なしか、カッターナイフのようなキリリといった音さえも聞こえてくる。

 わたしの中で恐怖が倍増……いや、それ以上に増幅する。


 玲香「このくちびるでね」

 未咲「……んっ?」


 目をかたく閉じ、覚悟を決めたさなかで放たれたひとことだった。


 未咲「もしかしてって、てきな意味合いだったりする?」

 玲香「そう言い換えてもらっても結構。

    とにかくいまは、あなたのことが頭をめぐってどうにかなっちゃいそう」


 逆だった。むしろ殺意にも似た愛情だった。ややこしいよ、玲香ちゃん……。

 ほっと胸をなでおろしたくなった。肉体が機能不全におちいるわけではないっぽい。

 ……ほんとかな? むしろどこかやられてしまってもおかしくはないような。


 玲香「じゃあ、いくわ

 未咲「たんまっ! あのぉ、気分が高揚こうようしているところなんだけどぉ……」


 安心感を覚えたせいか、下腹部がもぞもぞしてきてしまった。

 この感覚、かなり思い当たるふしがある。

 その前に、なんかわかんないけど鼻がひくひくして止まらない。

 どういうこと? このままだとわたし、おかしくなっちゃいそう……!


 玲香「いまさらしおらしくしてもやめないから。ほら、目を閉じて……」

 未咲「いやっ、待って……うひゃっ!」


 わたしの目は決して閉じることはなく、むしろ自然と大きく開かれていた。

 それから玲香ちゃんの顔が接近するにつれて、他に近づいてくるものがあった。

 ふいに訪れた尿意の限界である。


 未咲「あっ、あっ、どうしよう、出ちゃうっ……!」


 じゅっ、じゅわっ……。

 必死になってこらえたおかげか、被害ひがいは最小限で済んだ。


 未咲「れいかちゃんストップ! おしっこ、ベッド、よごしちゃうっ……」

 玲香「やめないわよ……いいから、おとなしくしてなさい……

    これまであなたがしてきたぶん、お返しはたっぷりとしなくちゃね……」

 未咲「だめーっ!」


 息も絶え絶えで抵抗していると、ついに化けの皮ががれた。

 ぽむっ。


 未咲「……?」


 気の抜けた音とともに、玲香ちゃんの姿をまとっていたけものの正体が割れた。


 未咲「あれっ……玲香ちゃん、じゃなかったの?」

 化狐「畜生ちくしょう、バレちまったからにはしょうがないな。

    そうさ、おいらはあんたの親友に化けた、ただの狐だよ。

    鼻のいいあんたに気づかれないように、このおいらの獣くさい体臭さえも、

    あんたの親友そっくりにマネさせてもらったんだ」

 未咲「な、なんたるいたずらをっ……」


 これをいたずらで済ませてなるものか。

 次いで狐は言った。


 化狐「ついでにあんたの鼻腔びこうをくすぐる、そのなんだ、フレグランスってやつか?

    おいらよく知んないけど、そういうのも駆使くししてあんたに近づいたんだ」

 未咲「なんの、ために?」

 化狐「きまってるだろう、あんたと結ばれたかったんだよ。

    メスとしてたいそう魅力的な、あんたと子孫を残したかったってわけ」

 未咲「そんな……ひどいよ……」

 化狐「あんたはそう思わないのか?」

 未咲「思うわけないよ! 玲香ちゃんの姿だったし、そりゃ油断もしたけど!」

 化狐「そうかい。だけどな、自然の摂理として、メス同士で子づくりなど

    不可能に限りなく近い。少なくともおいらはそんな世界で生きてきた」

 未咲「わたしたちはそんな関係じゃない!」

 化狐「ならば、なんのために生きている? ただ食って寝て、それでお終いか?」

 未咲「それの何が悪いの? わたしたちは幸せだし、これ以上望むことなんて!」

 化狐「ダメだな、そんなんじゃ。生きものとしてこの世に誕生したんだったら、

    それなりに後世のことを考え、繁栄を望むべきだろうよ」

 未咲「そんなの人の勝手でしょ? わたしたちの関係をないがしろにするな!」

 化狐「あー、はいはい、言いたいことはなんとなくわかったよ。

    それがあんたたちの幸せなんだろ? もう勝手にするがいいさ」

 未咲「わかったらさっさとそこをどいて! わたし限界なの!」

 化狐「まあそんなていたらくで、本当に間に合うと思っているのか?

    せいぜい足掻あがいて、存分にぶちまけてひとり大恥おおはじをかけばいいよ」

 未咲「間に合うもんっ! 早く消えなさいよ……っ!」

 化狐「うーん、その見るからに苦しそうな表情! 非常にたぎるねぇ……。

    かの楽園エデンまで持ちこたえられるといいけど、はてどうなることやら……」

 未咲「や……う……っ」


 かくして、狐は消えた。

 わたしは狐のことばなど耳を通り抜けて、おしっこのことで頭がいっぱいだった。


 未咲「はやくっ……トイレ……いかないとっ……」


 もれちゃう。頭はえているのに、ベッドに恥ずかしい地図を作っちゃう……。

 わかっているのに、身体からだがちっとも言うことを聞いてくれない。

 普通だったら立ち直れそうにない惨劇までの秒読みは、すでに始まっていた。


 未咲「もう、いいや……これもぜんぶ、がわるいんだ……」


 責任転嫁てんかはなはだしい。冷静に考えるとそうなるだろう。

 しかし、頭がぐちゃぐちゃになってるいまのわたしにそのような発想はなかった。


 未咲「ぜんぶ、ここでだしちゃおっかな……」


 こころとからだのその両方が、いままさにその秘匿ひとく行為を容認しようとしていた。

 そして、ついにそのときは訪れた。


 未咲「……」


 しゅるるるるる……。

 最後は自分でも何を言ってるかわからないことばをつぶやいて、全面降伏こうふくした。

 まるで成長してないわたしの下半身は、たちまち幸福に似たぬくもりに包まれた。


 未咲「えへへ……これ、すっごいきもちいい……」


 もはやプライドなんて焼却場しょうきゃくじょうにでもやってしまったみたいに、しかし

 とにかくわたしは一刻も早く楽になりたい一心で、ひたすら排泄はいせつ行為こういを続けた。

 への苛立いらだちは、流れ出る黄色いそれにすべて変換へんかんされていく。


 未咲「おわってしまうなんてもったいないよ……ずっとつづけばいいのに……」


 未練たらしいことばとは裏腹に、その行為はあっけなく終わりを告げてしまう。


 未咲「こんなにたっぷり……ほんとにぜんぶ、わたしが出しきったんだ……」


 どきどきがおさまらず、挙句あげくの果てには事件現場に顔をうずめてひとりえつる。

 他人が見ていたら確実にドン引きされる。たとえそれが玲香ちゃんであっても。


 未咲「すー、はー……うっ、これはまずい……すぐ二発目がきちゃいそう……」


 かまわずに吸い続けた。完全におかしい人、もといただれたメス犬だ。


 未咲「くるっ……きちゃう……もうがまんできないっ……!」


 たまらずベッドから飛び起きてトイレに向かおうとするも、

 とてもそれどころでなく、被害を減らすべく再びベッドにもどらざるを得ず……。


 未咲「うーっ、うーっ! おねがい、トイレいかせてよぉ……!」


 もう誰にたのんでいるんだか。しいて言うならば、玲香ちゃん……?

 いやいやいや、それだってもうどんなプレイなんだか。

 あのきつねさんがとんでもないだとは微塵みじんも思いたくないけど、

 そう思わずにはいられないほど、わたしはひどく狂わされていた。


 未咲「もうやだぁ……夢なら早く覚めて!」


 口にした刹那せつな、わたしはベッドから飛び起きた。もちろん現実においてである。


 未咲「はっ……さっきまでのは、全部、夢……?」


 そう思い続けられたらよかった。しかし現実は非情だった。

 夢とまったくおんなじ結末が、わたしをいまかいまかと待ち構えていたらしい。


 未咲「夢じゃなかった……やっちゃったよ、おおむね現実だったよ……」


 しょんぼりとがっくりのダブルパンチ。たまったものじゃない。

 夢と現実のはざまで何かと溜まっていたのは、ほとんど真実だったけど。


 ♦


 未咲「っていうことがございました……」

 玲香「文字通りドン引きよ。小さい子どもと大差ないでしょ、はっきり言って。

    どうしてくれるのよ、これを包み隠さず聞かされたこっちの気持ち考えて」

 未咲「ごめん……でも玲香ちゃんが絡んでたし、お伝えしないわけには……」

 玲香「むしろ黙っていてくれたほうがこっちとしてはありがたかったなぁ……

    はぁ……どうしてもっていうなら、ハグくらいさせてあげてもいいけど」

 未咲「いいの? でもいまそこまで気分じゃないっていうか……」

 玲香「気持ちだけでも受け取りなさいよ、このばかっ!

    これでも、けっこう勇気出して言ってみたほうなのよ……?」

 未咲「そうなの? なんか、ごめん……」

 玲香「ほら、早くしないとみんな来ちゃうから……」

 未咲「んじゃ、おことばに甘えて……」


 現実はかくも美しかった。こんな関係が永遠に続くことはないと知っていても。

 きょうはなんだかあったかい。

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