#22 - 春のきざし?

 2月のある休日。

 この日の陽射ひざしはあたたかかったし、せっかくなので日向ぼっこに出かけた。 


 未咲「このへんがいいかな……よっと」


 何もしげっていない場所に、わたしは身をゆだねる。

 来た道は、葉っぱがついていない木が並ぶ通り。この世界では見慣れた光景。

 もしこの世界に四季というものがあったなら、もっと色あざやかなんだろうけど。


 未咲「ん~っ……ここにいると、気持ちがほわほわってなりそう……」


 わたしながら語彙ごいがとぼしい感想なんか述べて、横になる。

 うとうとしかけたところで、誰かが近づいてくる。


 ??「……そんなところで何やってるのよ、未咲みさき


 その声は、わたしがよく知っている人のものだった。


 未咲「あっ、玲香れいかちゃん……いま、ちょうどまどろみそうだったのに……」

 玲香「邪魔じゃま、しちゃったかしら?」

 未咲「ううん、そんなことないよ! 玲香ちゃんもどう? ほら、おいで」

 玲香「わたしはどちらかというと、ここで本でも読んでいたいんだけど」

 未咲「あっ、そう? だったらこちらこそ邪魔はできないね。

    どうぞわたしの隣で、ごゆるりとご本、読んでいてくださいな」

 玲香「そうさせていただくわ」


 そんなこんなで、私と玲香ちゃんはふたりして冬の陽射しに当たることに。

 この日は本当に光が心地よかった。このまま眠って、どこまでも……。


 しばらくして、わたし、未咲はなんとものんきな寝言を口走ることになる。


 未咲「ひゃはは……れいかちゃん、そんなとこくすぐっちゃだめぇ……」

 玲香「……(どんな夢を見ているのやら……)」


 どうやら、ばっちり玲香ちゃんに聞かれていたみたいだった。

 そういえば、玲香ちゃんはどんな本を読んでいるのかな。あとでこう。


 未咲「ふぁ~、よく寝た……れ、れいかゃん、なんでここに……」

 玲香「えっ……もう忘れたの? さっきからずっとここにいたのに?」

 未咲「えへへ、ごめん……」


 なんと、わたしがここにいたことすら忘れるほど寝ふけっていたらしい。

 それはそうと、なんだか下腹部がうずいてしかたがない。なんでだろ。


 未咲「(これって、もしかして……)」


 夢の中で、玲香ちゃんにくすぐられたからかな。まさか、そのせいで……。


 未咲「(おねがい、夢であってほしいっ……!)」


 思い切って、下着ごしにおまたをさわってみる。夢、じゃなかった……。


 未咲「(ちょっと、ちびっちゃってる……)」


 そう、わたしはいかがわしい夢で感じてしまい、プチおねしょしちゃった。

 それも、小さいころからずっと一緒の、玲香ちゃんがすぐそばにいる中で。


 未咲「(それにさっきから、おなかのあたりが、なんかへんだよぉ……)」


 ひさしく感じることのなかった、この身体からだの変化。

 たとえようがないけど、なんとなく解消法は見えている気がする。

 それを実行にうつすには、どうも近くにいる彼女の助けがいりそうだった。


 未咲「玲香ちゃん、こっち向いて……(はぁ、はぁ……)」

 玲香「未咲?」


 熱にかされたように、気づけばわたしは玲香ちゃんの口をふさいでいた。

 そしておおいかぶさるようになって、わたしは玲香ちゃんをむさぼった。


 玲香「んんんん~っ?!」

 未咲「れいかちゃん、れいかちゃんっ……!」


 ささやかなおもらしに気づいてから、そう時間は経っていない。

 なのにもう、わたしは発情期の犬みたいに玲香ちゃんにおそいかかっていた。

 自分でもよくわからない感情に、ただ流されてしまっているみたい。


 玲香「み、みさきっ……おち、おちついて……おちつきなさっ……」

 未咲「だって、だって……玲香ちゃんがかわいすぎるんだもん!

    こんなのわたし、だまって見ているわけにはいかないよ!」


 やけに熱がかかったようなことばで、逆に玲香ちゃんをふうめていく。

 むしろ玲香ちゃんのほうが、落ち着きを失っている感じさえしてくる。

 そういうわたしは、犬のしっぽがおしりから生えていると言われても

 おかしくないくらいに犬みたいで、玲香ちゃんを舌でなめつくしている。


 玲香「いやっ……なんで……いままでこんなに激しくしたことっ……」

 未咲「もう戻れない、から……! 玲香ちゃんもわかってる、でしょ!

    さいごまで……ちゃんと、つきあってくれないと……!」

 玲香「そんなっ……わたしたち、どうなっちゃう、のよ……!」

 未咲「わかんない……わかんない、けどっ……はぅっ!

    この先にはきっと……春が待っている、気がする……!」

 玲香「いみ、わかんない……それって、けっきょくどういう……」

 未咲「それはこれからわかる、はず! だから……

    いまはただ、玲香ちゃんはわたしに身をゆだねてみてっ!」

 玲香「ひゃぁぁっ……ちょ、ちょっとあんた、どどどこさわってんのっ!

    そそそ、そんなとこ、さわっていいなんて一言も言って……」

 未咲「いいか、らっ……わたしに全部まかせて、くれればいいの!」


 ちょっと強引ごういんめに、わたしは玲香ちゃんの身体をまさぐり始めた。

 それにしても、いきなりにしてはこの女の子、感じすぎている気がする。

 ……はっはーん、さてはあの本の内容、とても人には言えないやつだな。

 そうとわかれば。


 未咲「ねぇ玲香ちゃん、さっき読んでた本、あれってもしかして……」

 玲香「ふぇっ……? はて、なんのことやら……」

 未咲「とぼけたって、もうこっちは全部わかっちゃったよ、玲香ちゃん」

 玲香「……っ!」


 直後、玲香ちゃんの身体が波打つように痙攣けいれんを起こし、あげくの果てには……


 玲香「はぁぁぁ~んっ……!」


 いままで聞いたことのないような嬌声きょうせいを上げて、玲香ちゃんは絶頂した。


 未咲「えっ、何?! どうしたの、玲香ちゃん?!」

 玲香「だめだめ未咲、見ちゃだめっ……ふぅうんっ!」


 これまた色っぽい声で、今度は何やらもじもじと落ち着きがない。

 もしかしなくても、黄色いあれを我慢している様子に違いはなかった。


 未咲「おしっこだよね? いいよ、がまんするより出しちゃえ!」

 玲香「で、でも……」

 未咲「ぱんつなら、わたしのをあげるから気にしないで、ほら!」

 玲香「そういうことなら……ってそうじゃなくて!」


 どうもこちらから見ていると、すでに限界は近いようだった。

 これから起こる出来事に、期待は高まってしまう。だって変態だもの。


 玲香「あっ、出る……でちゃう……」


 その声とほぼ同時に、玲香ちゃんの下半身から、なさけない音がしだした。

 耳をふさぐことはなく、ただただ聞き入るのはわたしだけだった。

 玲香ちゃんはついに聞かず、そのままいやいやをしだすまでになっていた。


 玲香「いやぁ……こんな音、聞きたくない……」

 未咲「わたしには、ちゃーんと聞こえてるよ……きもちよさそうだね」

 玲香「そういうのいいからぁ……」


 そのときだった。木陰こかげから、わたしたちじゃない誰かの視線を感じ取った。


 ??「は、はわわわ……あのふたり、こんなところであんなことを……」


 その声もまた、わたしたちがよく聞く声だった。

 ひとりでひそひそと話す声が、こちらまで聞こえてくるみたいだった。


 ??「わたしは見てない、わたしは見てない、わたしは……」


 ついさっき起こったことは、全部うそ。全力で、そう思いたかった。

 いくらあのふたりが、小さいころから仲良しだったからといって、

 ああいうことをするほどの仲だとは、どうしても思いたくなかった。


 ??「そう、これは全部きっと冬のいたずら。わたしだって……」


 すぐそこにある欲望は、ひょっこりと顔を出し、そしておさまった。

 わたしにはうみちゃんという、大切な友達がいるんだった。


 ??「……しばらく待ってから、ふたりに話しかけようかな」


 わたしはロコ。いまはただ、ふたりの姿を見ているだけにしよう。


 ♦


 ロコ「あ、あの……元気?」


 最初に出たことばが、これだった。

 なんか、もうちょっと気の利いたこと言えなかったかなぁ……。


 未咲「あ……うん、元気だよ! ね、玲香ちゃん!」

 玲香「そう、ね(きょうの未咲、いつになく大胆だいたんでどきどきした……)」

 ロコ「たまたまここを通ってきたら、未咲ちゃんの後ろ姿が見えて……」

 未咲「そ、そうなんだ!

    (あのとき、ロコちゃんにことの始終を見られてないかな……)」

 うみ「おー、こんなところでみなさん、さながら春爛漫はるらんまんって感じっすか?」

 未咲「あっ、うみちゃんもいたんだ! ハウディー!」

 玲香「それ、春泉はるみのやつでしょ(未咲がしても、さほど違和感いわかんないわね……)」

 ロコ「つかの間の春、だけどねー。あしたからまた逆もどりだよ~……」

 うみ「そっかー……たいへんだけど、あしたもよろしくな!」

 未咲「うんっ!」


 ♦


 いっぽう、そのころの春泉は。


 春泉「へくちっ」


 日ごろのつかれがピークに達し、自宅で安静にしているのだった……。

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