#13 - 甘い匂いに誘われて…… - Sweet Strawberry Bread - 3

 うみちゃんとのいちゃいちゃタイムが終わり、おおむね満足して教室にもどった。


 未咲「あれっ、ロコちゃんは?」

 玲香「彼女なら、うみと一緒いっしょに教室から出ていったけど」

 未咲「もう授業はじまっちゃうのに、まだ戻ってきてないの?」

 玲香「そう言われてみれば、おかしいわね……」

 未咲「わたし学級委員長だから、ちょっとロコちゃん探しに行ってきていい?」

 玲香「いま言うことじゃないかもしれないけど、あんた学級委員長なのよね」

 未咲「え? そうだよ? 何かおかしいかな?」

 玲香「ううん、おかしくないわ。わたしが見るかぎり、未咲みさきは適任だと思ってる」

 未咲「……? まぁいっか。んじゃ、探しに行ってくるね!」

 玲香「はいはい、行ってらっしゃい」


 なんというか、このゆるさが不思議とクラスの雰囲気ふんいきを作ってるようだった。


 ♦


 廊下ろうかを歩いていると、掃除道具そうじどうぐを持ったロコちゃんがそこにいた。


 未咲「あっ、ロコちゃんだ……ん? なんで掃除道具もってるんだろ?」

 ロコ「はわわ、チャイム鳴ったし、急がなきゃ……って未咲ちゃん?!」

 未咲「おーい、ロコちゃーん! 早く教室に戻っておいでー!」

 ロコ「う、うん! ちょっと待ってて!」


 しまった……掃除に気をとられてて、よごれたぱんつのこと気にしてなかった!

 未咲ちゃんのいる前でぐわけにもいかないし、このまま教室に行くしか――。

 あれ……? 未咲ちゃんのほうから、さっきもいだようなにおいがする。

 もしかして……これ、わたしが朝買ったいちごパンのかおり?

 まさか、未咲ちゃんがいちごパンを……?


 未咲「ロコちゃん、早く!」

 ロコ「あっ……うん! いま行く~!」


 あれこれ考えたりするひまもなく、わたしはしかたなく教室に戻ることに。

 でも、それが間違まちがいだった。


 ♦


 先生「は~い! では、授業をはじめま~す」


 言って、先生が慣れた調子で教鞭きょうべんをとる。

 どこかなごやかな雰囲気の、いたってマイペースな先生の声。

 そして、教室に降り注がれる、冬の日のあたたかな陽差ひざし。

 どちらも眠気ねむけさそってしかたがない。

 前のほうに座っている春泉はるみは、それと戦っている最中だった。


 春泉「うぅ~……もういっそ、このままつくえの上でねたい……」

 先生「ほーら草津さん、しっかりなさい!

    まだ、授業はじまって数分しかってないでしょう?」

 春泉「そんなこと言われても……もう、むり……ねむたいよ……」


 そんな会話を春泉の後ろで聞いていたロコは、別のものと戦っていた。

 それはうたがいようもなく、どう考えても尿意にょういだった。

 下着がれているので、また下腹部が冷えてしまったみたい。


 ロコ「(うわぁっ……まさか、こんなことになるなんて……)」


 いまさら教室をすわけにもいかず、ぐっとこらえることに。

 しかし、それがまたとんだ間違いを生むことになるとは、まだ思わなかった。


 ♦


 必死にがまんしていると、今度は別のことが気になってきた。


 ロコ「(それにしても未咲ちゃん、ずっといい匂い……)」


 未咲ちゃんにだったら食べられてもよかったかも、なんて思ってしまう。

 ほんとは食べたかったけど、未咲ちゃんだったらきっとお返ししてくれるよね。


 ロコ「(でも、いまはそれどころじゃなくて……)」


 おしっこ、またトイレじゃないところでしちゃうのかな……。

 先生に言って行かせてもらいたいとは思ってるけど、言う勇気が出ない……。


 ロコ「(こんなことなら、あのときちゃんとぱんつ脱いでればよかった……)」


 濡れたまんまにしたせいで、よけいに行きたくなっちゃったから。

 いまさらやんでもおそいんだけど、悔やまずにいられなかった。


 ロコ「(うみちゃん、気づいてくれないかな……)」


 となりに座っているうみちゃんをたよろうとしてるわたしがなさけない。

 そんなあわい期待をしたって、何も変わらないというのに。


 ロコ「(でも、どうしたって言えないんだもん……!)」


 だんだんと、あせりが顔にあらわれるようになってきたような気がする。

 そして、限界のときはふいにおとずれてしまう。


 ロコ「あっ……」 


 ぷぢゅっ……。

 かすかな水音がしたかと思うと、まもなくそれは下着をさらに濡らしていく。


 ロコ「いやぁ……」


 寒さとなさけなさで、ふるえがおさまらない。

 ちょっとだけとはいえ、やってしまったことはどうしてもかくすことができない。

 はっきりと、下着はその顛末てんまつをあらわしている。


 ロコ「(やっちゃった……おしっこ、またもらしちゃったよぉ……)」


 泣きそうになるのをかろうじてこらえ、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

 同時に休み時間までのあいだ、ずっとこれなんてえきれないと思った。


 ロコ「(せ、せんせぇ……)」


 涙目なみだめになりそうになりながら、先生になにかをうったえかける。

 しかし、無情にも授業はとどまることを知らずに進められた。

 と、しばらくして。


 未咲「ん……? なんかヘンなにおいがする……」


 唯一ゆいいつ異変に気づいたのは、未咲ちゃんだった。


 未咲「こっちのほうからするんだよね……ちょっと失礼するよ?」


 そういって、鼻をこちらに近づけてくる未咲ちゃん。

 その鼻の向かう先は、言わずもがなわたしの下半身だった。


 未咲「あー、これはちょっと厄介やっかいなことになってますねぇ……」


 なにが、とは言わないでくれてよかったけど、あやうく失態がわたりかけた。


 未咲「先生、稲橋いなはしさんが具合悪そうなので保健室いってきます!」

 先生「えっ? あら、そうだったの? はいどうぞ、行ってらっしゃ~い」


 さっしてくれてありがとう。わたしは心の中で未咲ちゃんにそう言った。


 ♦


 大惨事になる前にトイレで用を済ませられて、わたしはひと安心した。

 そして未咲ちゃんとわたしはふたり、保健室に来た。


 未咲「すみませーん、なにかくものありますか?」

 担当「ありますよー、自由に使ってもらってかまいませんからー」


 保健室の担当者に許可をもらって、タオルを使わせてもらった。

 わたしはベッドに座って、未咲ちゃんのお世話になることにした。


 未咲「はーい、じゃあいてあげるから、服まくってねー」

 ロコ「ごめんね未咲ちゃん、いろいろ気つかわせちゃって」

 未咲「いいのいいの、きもちわるかったでしょ?」

 ロコ「うん……ところで、未咲ちゃん」

 未咲「なに?」

 ロコ「未咲ちゃんから、なんかいちごっぽいにおいがするんだけど……」

 未咲「あー、廊下に落ちてたいちごパンをこっそり食べたからかな?」

 ロコ「そのいちごパン、たぶんわたしのかもしれないんだ……」

 未咲「あっ、そうなの? ごめん、知らずに食べちゃって」

 ロコ「べつにいいけど……ちゃんとお返し、してくれるよね?」

 未咲「……もちろんするよ! また今度おごるから、今回はゆるして!」

 ロコ「いいよ~。じゃぁ……続き、おねがいしていい?」

 未咲「あ、あぁ……そうだったね! すぐ拭き終わるからじっとしてて!」


 保健室の一角に、なんともいえない空気がただよっていた。


 ♦


 しばらく拭いていると、ロコちゃんの様子ようすがだんだんおかしくなっていった。


 ロコ「ね、ねぇ未咲ちゃぁん……」

 未咲「ん? なぁに?」

 ロコ「またおしっこ、したくなってきちゃった……」

 未咲「えっ! どうしよう、もうだめっぽいかな?」

 ロコ「うん……拭かれてるうちに、だんだんもよおしてきちゃって……」

 未咲「じゃぁこうしよう! このタオルに思いっきり出していいよ!」

 ロコ「えぇっ……そんな、できないよ!」

 未咲「でも、これ以外に方法が……ベッドを汚すわけにもいかないし……」

 ロコ「空き容器とか、どこかにないの~?」

 未咲「あるかもしれないけど、ロコちゃんは見つかるまでがまんできそう?」

 ロコ「……できないかも」

 未咲「だったら、こうするしかないよね……そうでしょ?」

 ロコ「だけど……」

 未咲「ほら、わたし気にしないから……ここにぜんぶ出しちゃおう?」

 ロコ「……わかった」


 しぶしぶといった感じではあるけど、ロコちゃんは受け入れてくれた。


 未咲「うっかりこぼしたりしないように気をつけるから、心配しないでね!」

 ロコ「うん……」


 わずかな勇気をふりしぼって、わたしは決心した。

 いまから膀胱ぼうこうに残っているおしっこを、このタオルにぜんぶ出すことを。


 ロコ「いくよ、未咲ちゃん……!」


 そういって、わたしは下腹部にほんの少しだけ力を入れた。

 すると……。


 ロコ「っっ~~~!」


 じょっ……。

 その音を合図に、わたしの下着から黄ばんだ液体がどっとあふれてきた。

 タオルで受け止めてくれてはいるけど、さすがににおいまではさえぎれない。

 たちまちわたしのまわりが、おしっこのにおいに包まれていく。


 ロコ「は、はずかしいよぉ……」


 さっきはきもちよかっただけなのに、いまはなんだか違う。

 とたんに、いますぐにでもどこかへ消えてしまいたい気持ちが押し寄せてくる。


 ロコ「みないで、未咲ちゃん……」

 未咲「ロコちゃん……」


 正直に言って、この状況じょうきょうってかなり赤面ものだ。

 それなのに、どこかどきどきしてしまう気持ちがおさえきれない。


 未咲「……もう、ぜんぶ出たよね?」

 ロコ「う、うん……すごくきもちよかった、です……」

 未咲「そ、それはよかった、ね……あはは……」

 ロコ「おしっこ、くさいよね……きらわれちゃう、かな……」

 未咲「だいじょうぶ、だよ? そんなことで、きらいにならないから……」

 ロコ「ごめんね……がまん、できると思ったんだけど……」

 未咲「(あぁ―――っ! もう、こっちもがまんできないよう!)」

 ロコ「きゃっ、未咲ちゃん?!」


 いきおいにまかせて、気づけばわたしはロコちゃんにおそいかかっていた。


 ロコ「いやっ、そんなところさわっちゃだめ~!」

 未咲「ぐへへ……それもこれも、ぜんぶロコちゃんのせいだからね?」

 ロコ「なんでこうなるの~! たすけて~!」


 時間さえ忘れて、わたしたちはベッドで一線を越えた。


 担当「(あらあら、これこそ青春って感じだわ)」


 ちらちらと見えていたふたりに、そんなことを思った保健室の人だった。


 ♦


 なんやかんやあって、いつの間にかわたしたちはしあわせで満たされていた。


 ロコ「えへへ、未咲ちゃんだーいすき♡」

 未咲「わたしもだよ、ロコちゃん♡」


 たとえこれがいびつな関係だったとしても、わたしたちには関係ない。

 これもひとつのしあわせだって思えるから。


           (甘い匂いに誘われて…… -Sweet Strawberry Bread-・寒)

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