#8 - 教室までの道 - road to our classroom - 5

 ふと、未咲のことが気にかかった。

 わたしの予想だと、もうじきトイレでどうかしていてもおかしくない。


 玲香「……春泉はるみ

 春泉「ふぇっ……? なに……?」

 玲香「ちょっと、未咲のようすを見に行ってきてもらってもいいかしら」

 春泉「えっ? まあ、いいけど……ハルミなんかでいいの?」

 玲香「正直にいうと、ちょっと心配だけど……わたしよりも通じ合いそうだし」

 春泉「やっぱりハルミのこと、そんな目で見てたんだね……」


 あからさまにがっかりした顔をこちらに見せてきた春泉。

 そんな顔されてもね……あの子に似て、余計にちょっとたよりなく見えてしまう。


 玲香「おねがい、かわりに確かめてきてほしいの」

 春泉「……わかった」


 しぶしぶではあったけど、承諾しょうだくしてくれてよかった。

 未咲はわたしの幼馴染おさななじみだけど、こればっかりはどうにもならなかった。

 小さいころから見ているとはいえ、はっきり言ってあれは見るにえないから。


 ♦


 未咲「はぁ、はぁ……もう、ほんとにげんかい……」


 ようやくトイレの個室までたどりつくことができたわたし。


 未咲「あとは腰をおろして、すればいいだけだよね……」


 うん、あらためて確認するまでもないことだけど、それでいいはず。

 とここで、わたしはよからぬことを思い出しそうになってしまった。

 いや、というか、完璧かんぺきに思い出すことになってしまった。


 未咲「おもらし魔法少……って、なんじゃこりゃ……きもっ」


 ほんのちょっと考えていたことが、つい口に出てしまった。

 これはきっと、この前インターネットのアングラ動画サイトで見た、一本のそれ。

 たしかタイトルは、『おもらし魔法少女☆さゆり』。

 ヒロインはもちろん、さゆりっていう名前の、ピンク色のかみの毛の女の子。

 その可憐かれんな見た目とは裏腹の、時折ときおり見せるあられもない姿が魅力的みりょくてきな子だった。

 いまさっき、反射的にきもちわるいって感じた。思いかべたシーンのせいで。

 魔法が使えるさゆりちゃんが触手しょくしゅおそわれてしまった、あの場面のことだ。

 見た感じだと、それはぬめぬめしていそうだった。


 未咲「こうなったら、もうこうするしか……」


 この状況じょうきょうを切りけることは不可能ではない。

 ただその方法は、年端としはもいかない少女にとってはある意味で苛酷かこくなものだった。


 ――乙女おとめのプライドをかなぐり捨てて、とにかく精一杯せいいっぱいをすること。


 そうすることによって敵は彼女のおしっこでけ、攻撃できなくなってしまう。

 正直にいって魔法要素が見当たりづらいけど、わたしの琴線きんせんにはなぜかれた。


 未咲「なんか、いまならあの子の気持ちがちょっとわかる気がする……」


 はっきりいって、やっちゃったらどうしたってずかしい。

 そんな当たり前のことが、ようやくわたしの身体からだに実感としてわいてきた。

 そういえばさっき、ちょっとだけやらかしちゃったなぁ……。


 未咲「たしか、さゆりちゃんがおもらしするとき、なんか前兆があったよね……」


 うん、ぜったいにあったはず。

 そう、彼女のもっているステッキの先っぽのほうが、ぴくぴくってなって……。


 未咲「それにこたえるみたいに、さゆりちゃんの身体もふるえて……」


 ステッキをにぎる手も、ぎゅってなって、それで……。


 未咲「あうっ……もう、でる、でちゃうよ……っ」


 さゆりちゃんの衣装いしょうから、つーっと流れていくその液体の色は……。


 未咲「は、はちみつレモンスカッシュこうげきっ……!」


 さけびながら、わたしはめていたものをすべて出すことを決意した。

 さっきまで考えていた必殺技の名前、わたしにも口に出すことができたよ!

 さゆりちゃんには遠くおよばないけど、せいいっぱい考えたからいいよね?


 未咲「はぅぅっ……恥ずかしい、よぉ……」


 なさけない悲鳴をあげながら、わたしは白い触手怪物のおなかに乗っかった。

 やっぱりわたし、さゆりちゃんじゃないからそこまで強くはなかったみたい。

 するとどうだろう。わたしのおしっこが、そいつのおなかを溶かしていく。


 未咲「よし、やった、ついにわたしにもたおせた……!」


 トイレの個室で、わたしはひとりえつった。

 がまんのしすぎで、どうにかなっちゃってる感はいなめないままで。


 未咲「ふふふ……いきおいにまかせて、ついやっちゃった……♡」


 どうせ下着はれてしまったし、いまさら引き返せなかった。

 いっそのこと、とことんよごしつくしちゃえばいいやって思ったし。

 恥ずかしくてひどい妄想もうそうのあとには、こんな爽快感そうかいかんが待っていたんだなぁ……。


 春泉「……ミサキ! だいじょうぶ?!」

 未咲「はっ……!」


 そのとき、わたしはようやく我にかえった。

 客観的に見ると、わたしは便器にすわりこんでおもらししている状態だった。

 ぱんつとか制服とかが、もういわなくてもわかるほどにしたたっている。


 春泉「なんか、すごい声が聞こえたんだけど……」

 未咲「いやこれはその……ちょっとしたあれで……」

 春泉「なにしてたの? すっごく気になるんだけど……」

 未咲「じゃ、じゃあ正直にいうね……おもらし魔法少女ごっこ、だよ……」

 春泉「え? 何それ?」


 どうしよう……この子、困惑こんわくしかしてない!

 ……そういえば、なんでさっきわたしの名前がわかったのかな?


 春泉「レイカにいわれて、トイレにいるミサキって子のようすを見に来た!」

 未咲「そ、そうなんだ……玲香れいかちゃんにね……なんか、ごめん……」


 あっ、いうほど困惑してなかった……。


 春泉「あやまらなくていいよ……ほらよく見て、わたしも失敗してるから」

 未咲「あ、ほんとだ……」


 おもらししたあとが、くっきりはっきり制服にのこってる……。

 安心感こそあるかもしれないけど、わたしと同じでたよりなさそう……。


 未咲「ところで、れいかちゃんはもう教室に行った?」

 春泉「ああ、レイカならたぶん、あそこでまだ待ってると思うよ」

 未咲「そっか……やっぱりわたしたち思いなのかな、れいかちゃん……」


 きっとそのはずだよね。

 ちょっとしたうれしさを感じながら、わたしたちはそろって保健室に行った。

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