第217話 アストラッドへ③

「久しぶりですね、マゼランを出られてアストラッドに行かれるのですね」


 マゼランを出て今この街道にいるとなると、その行先しかあり得ない。


「そうです。あなたたちもアストラッドへ?」


「ああ、私はアストラッドと言うよりはプレトリアへ向かう途中、というところです」


 シェラック=フィットのいう事を全て真面に信じるほどルークは間抜けではない。ただロックたちと同様アストラッドに向かうしかない道を通っているのでは他に誤魔かし様がない。


「お久しぶりです、ロックさん、ルークさん」


 シェラックの他にもう一人。シェラックの同行者はその青年だけだった。


「久しぶりですね、確かユスティニアスさんでしたか」


「はい、ユスティニアス=ローランです、ユスティとお呼びください」


「二人なんですね」


 いつも複数の同行者がいたシェラックだったが今日は二人きりだった。


「いつもの配下たちは本国に返してしまいましたから。今回のプレトリア行きはユスティの希望を叶えているだけで他意はないのですよ」


「ユスティさんの希望ですか?」


「ええ、シェラックさんは僕の見聞を広めるための旅に同行してくださっているのです」


 シェラック=フィットが自らのグロシア州騎士団参謀の職務を疎かにしてユスティと旅をするはずがない。彼は彼の目的があってユスティに付き合っている振りをしているのだろう。


 その目的地がアストラッドなのかプレトリアなのか、或いはその両方なのかは知れなかった。


「それで同行してもいいですかね?」


 シェラック=フィットとは敵対している筈だった。配下の命を大切に思ってはいないシェラックに対してロックもルークもいい感情は持っていない。


 逆にユスティに対しては悪い印象はない。むしろ助けられたと認識していた。


「いいですけど、こちらのペースに合わせてもらえますか?」


「それはユスティ次第ですが、まあ大丈夫でしょう」


 歳はあまり変わらなそうだったがユスティはルークと比べてもかなり細くロックよりもかなり背が低かった。実はユスティは二十歳でロックよりも一つ年上なのだが、見た目だけでは年下としか思えなかった。


「ところでソニー=アレスは一緒じゃなかったんですか?」


 やはりシェラックは色々と知っているようだ。ロックたちとはエンセナーダで別れてから接触は無かったのだが多分マゼランにも居たのだろう。マゼランで何をしていたのやら。


「ソニーとはマゼランで判れたよ。いずれはアストラッドに戻るとは思うけどね」


「アストラッドまで同行するんじゃないかと思っていたのですが」


「彼は戻るとしても海路じゃないかな」


「なるほどそうですね」


 四人は連れだってウラノまでの険しい道を進む。ユスティとロックは普通に会話をしているだけだがシェラックとルークは色々な思いを巡らせながらの会話なので身体が付かれる以上に精神的に疲れて行く。


 ウラノ街道(街道と言っても整備されている訳ではない)の1泊目は野宿だった。

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