第218話 アストラッドへ④

「で、ユスティはプレトリアに何をしに行くの?」


「僕はロンドニアのカリスト=レム・ロンドニア王から指名を受けて東方の各国を回って見分を広めて来るよう言い遣って今ここまで来ました」


 ユスティは幼く見えるがロックたちより二つ上で今は21歳になる。6歳のころから司書だった父に付いて王立図書館に入り浸っていたので様々な本を読み漁り知識を詰め込んでいった。


 18歳になると直ぐに国王に召し出されて送り出されたのだ。国王としては貴族でも何でもないユスティを生死も問わず旅に出して知識を蓄積しロンドニアに利益をもたらせれば儲けもの、程度の話だった。


 ただユスティとしては自分の知識欲を満たすことが出来れば満足だった。国王の思惑など関係が無かったのだ。


 ユスティの知識欲は際限がなかった。医学、地学、経済学、農業、商業、工業。そして各国の歴史。ロンドニアでは殆ど魔道は研究さえされていない。剣と実務の国だった。


 ユスティとしては様々な奇跡とも言うべき事象を成し得る魔道にシャロン公国に入ってから触れてしまったので、魔道も知識欲の対象になってしまった。それでシャロン公国の中では魔道が盛んなプレトリア、と言うわけだ。


 いずれはシュタールにも行って魔道の研究をしたい、ということも考えていたが、シェラックと同行するため彼の目的にも合うプレトリア、という事なのだ。


「それで魔道の盛んなプレトリアに行きたいのです」


 プレトリアへ行く途中のアストラッド、と言う訳だ。


「でも魔道の研究ならシュタールじゃないのか?」


 ロックが口を挟む。


「シュタールか、しつか僕も行きたいな」


「ルークは俺が連れて行ってやるさ。目的地は自分たちで決めるんだからな」


「そうだね。とりあえずアストラッド、それからそのままやっぱりプレトリアかな。ユスティともプレトリアでまた会えるかも知れないね」


「ぜひ。まあ僕たちも少しはアストラッドに滞在するかも知れないので」


 ユスティは少し言い難そうにしている。シェラックの手前、ということか。


「ユスティ」


「あっ、はい、すいません」


「アストラッドはただの通過点、ということですよ、ルーク」


「そうですか。僕たちもいつまでアストラッドに居るか判りませんから。ソニーが戻っているなら別ですが、そうじゃなければ特に知り合いもいませんし」


「おい、アーク=ライザーがいるだろ」


 ロックがちゃんと名前を憶えていた。


「確かにアークはアストラッドに戻ったと聞いてるけど今でもずっと居るとは限らないですよ」


 ルークは少し意地悪を言ってみた。


「それはそうか。だったら知り合いは居ないかもな」


 ロックは単純だ。


「ソニーに何か紹介状でも書いてもらって来ればよかったかな」


「いや、いいさ。アークが居なくても、アークより強い剣士が居るといい。まあアークがいれば、あいつとも試合ってみたいがな」


「楽しみにしておけばいいよ」


 四人は話しながら山道を登っているので、態々ユスティに合わさなくても割とゆっくり歩いていた。それがユスティを除く三人の共通の認識だったのは少し不思議だった。

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