第216話 アストラッドへ②

 二人と1匹を乗せた馬車は東へと向かう。カウル山脈の麓にはウラノに向かう街道(最早街道とは呼べない荒れた道)への入り口の村があった。


 アカウルと呼ばれるその村は、ただカウル山脈道への出発の村としての機能しかない。旅の装備を整えて馬車をそこで乗り捨てるのだ。


 アストラッドに抜ける街道の中間地点ではあるがウラノと言う村は林業と農業の村だった。


 ウラノまでは馬車でも行けるのだが、その速度は道の悪さと急勾配で歩くより遅いくらいだ。だから木材や農作物を運ぶ馬車や牛車以外はほぼ全員が徒歩となる。


「さて、今日はここで一泊して、明日からはカウル山脈だな」


「山登り程の重装備は必要ないかも知れないけどウラノまで3日ほどはかかるそうだから、ちゃんと準備しないとね」


「3日なら呑まず食わすでも大丈夫なんじゃないか?」


「それ、耐えられる?」


「耐えられるさ、でも嫌だな」


「だろ?だからちゃんと準備するんだ」


「任せた」


「任された」


(儂の分もな)


「判ってるよ、ジェイ」


「ジェイは荷物を持てないから少なめにな」


(おいおい)


「冗談だよ、いつも役に立ってくれているんだから差別はしないさ」


「ロックが言うと冗談に聞こえないから」


 その日のうちに装備を整えて一行は眠りに付くのだった。


 翌日、早朝から一行は出発した。


「徒歩ってのはまどろっこしいものだな」


「長距離の移動には向かないね。移動魔道をロックが使えれはもっと楽なんだけど」


「魔道は覚える気はない」


「判っているよ。でも僕の移動魔道では君を一緒に運べないからね。それにしても剣士も魔道を使って身体強化とかをやってくる相手もいるんじゃないかな?」


「そんな奴らも全部剣だけで倒すのが俺の理想さ」


 ロックの思いは純粋で単純だ。マゼランの三騎竜やマシュ=クレイオンたちもほぼ同様の思いの筈だった。魔道を使った強化剣士は邪道として蔑まれているのだ。但し、強いことは強い、という評価が一般的だった。


「剣だけで生きていけると思っているならお目出度いことですね」


 後ろからいきなり声を掛けられた。声を掛けられるまでは相手の存在にルークもロックも気が付けなかった。当然魔道なのだがそれも含めてルークが気づけなかったのだ。


「お久しぶりですね。確かシェラック=フィットさんでしたか」


 ルークが後ろを確認もせずに応えた。

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