第213話 剣士祭Ⅴ⑨

「では、これで失礼します」


 ルーリ=メッセス中隊長は部下を引き連れて直ぐに駆けつけてきた。その時には全員が倒された後だった。ルーリは全員を捕縛して騎士団詰所へと戻って行った。


 シューア=ランドルフは自身だけの判断でサーシャやロマノフには相談せずに、若しくは相談したが一存でやったことにするよう言い含められていたのだろう。道場が主導して襲わせた、という事には出来ない。


 シューアの暴走、ということで厳重注意と謹慎辺りで済ませる算段だ。それだけの影響力をサーシャ=ランドルフは有していた。


「さて、帰るか」


 ロックは晩飯前の運動を少し熟しただけ、みたいな感じだった。


 道場に戻るとミロとトリスティアでご馳走を作ってくれた。旅立つロックとルークの為だ。そして多分同じように道場を離れるアクシズの為でもある。


「あー、美味かった。ミロもトリスティアも料理が上手いな」


「そうだね、ミロの料理はマゼランに来てから格段に上手くなった」


 最初のころは結構失敗を続けていたが最近のミロの料理は本当に美味かった。


「あとはソニーに礼を言わないとね」


「ああ、そうだな。でも何故ソニーは今日協力してくれたんだろう」


「何か思惑があったんじゃないかな。でも打算からであっても力になってくれたことは本当に助かったし、いいじゃないか」


「そうだな。アクシズの協力がなければ決勝まで行けなかったことは間違いない」


 そこにアクシズが割って入って来た。


「なんだ、俺の話か?」


「ああ、剣士祭は全部アクシズのお陰だと言ってたんだ、改めてちゃんと俺を言いたかった。本当にありがとう」


「なんだ、そんなことか。俺はソニーに頼まれて俺が出来ることを出来る方法でやっただけだ。まあ結構楽しかったし礼を言われるようなことではないさ」


 アクシズは少し照れた表情を浮かべた。


「お前たちは旅に出るんだろ。いつかまた都世子下で会えるといいな」


「そうですね。でも、その時は敵か味方か判りませんが」


「おいおいるルーク、物騒なことを言うなよ。もし本当に敵同士で会ったらどうするんだ」


「もし敵同士で会ったら一目散に逃げるさ、お前たちと戦うなんて無茶は出来ん」


 冗談とも本気ともとれる口調でアクシズが言った。


「まあ、もし本当にそんなことになったら、ちゃんと手加減するさ」


「それは駄目だよ、ロック。アクシズも手を抜かれても嬉しくないよ」


「いや、俺は十分嬉しいぞ、存分に手を抜いてくれ」


 確実にマゼランでも上位に入る三人は、ローカス道場から直ぐに居なくなってしまう。三人の会話には入れないクスイーは三人が居なくなってからのことが不安になって来た。


 マコトさんと二人で道場を盛り上げて行こう。そしてロックさんたちがマゼランにまた来てくれた時に立派な道場に成っておくのが三人に対しての一番のお礼だと思っていた。


 そして、自分でも精進してロックたちに好敵手として認めて貰えるくらいの剣士になろう。クスイーはそう誓うのだった。

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