第212話 剣士祭Ⅴ⑧

 まだ明るいうちに一行は帰路に着いたので夕飯の食材を買いに市場へ寄ることにした。今日はご馳走だ。


 剣士祭の成績がマゼランで広まれば、もしかしたら明日からでも入塾希望者が殺到するかもしれない。


「今日の晩餐を終えたら、明日の朝にも出発するかな」


「えっ、もう行かれるんですか?」


 ロックは剣士祭が終わったらまた修行の旅に出るつもりだった。それが塾生が集まりだしてからでは抜けにくいと思うのだ。


「新しい塾生が来るときに俺たちが居ない方がいいんじゃないか。どっちにしてもずっとは居られないんだからな」


 ロックの意見は間違ってはいない。ロックやルーク、アクシズを目当てに入塾した後、直ぐに三人が居なくなってしまったとしたら詐欺だと騒ぎになってしまうかも知れない。


 クスイー=ローカスとマコト=シンドウがいるローカス道場に入塾してくれる人材が必要なのだ。あとトリスティア=アスドレンも協力してくれる。


 三人で対応できる人数の新入生なら逆に丁度いい人数に収まるかもしれない。それが一番良かった。


 一行が少し人通りが途切れた場所に差し掛かった時だった。


「待て」


 後ろから声を掛けられた。聞き覚えがある声だ。


「待ったらいいことでもあるのかい?」


 ロックが態と揶揄うように応えた。


「こちらにとっていいことは有るがな」


 見ると覆面で顔を隠した十数人が後ろで既に剣を構えていた。『待て』と事前に声を掛けただけでも、まだ良心的か。


「ふーん、そうかい。で剣を抜いたってことは切られてもいい覚悟はできている、ってことでいいんだな?」


 ロックの力量を知っている相手がその言葉で少し怯んだ。闇討ちは自尊心が許さなかったので声を掛けたが、真面にやって勝てる相手でも無いと思っている。


 本来人海戦術しかないのだが、思ったほど人数は集められなかったのだ。


「声でバレてるけど大丈夫ですか?」


 ルークが相手を心配して声を掛ける。首謀者はシューア=ランドルフで間違いない。動機は自らの敗戦と道場の敗戦の逆恨みだろう。


「えっ」


 声だけで特定されるとは思っていなかったのか、シューアは少し辟易ろいだ。ただ、剣はまだ交えていないとはいえもう襲ってしまっている。後戻りは出来ない。全員を殺す覚悟で来ているのだ。


「いいよ、折角来たんだ、掛かっておいで」


 またロックは煽っている。相手を怒らせて我を忘れさせようとする作戦だが、功を奏するかどうかは不明だ。


「手を出すなよ」


 ロックがルークたちを牽制する。一人で相手をするつもりなのだ。マシュとの試合で疲れている筈だが、やはり真剣での戦いの方が得意ではあるのだ。


「人数多いよ、大丈夫?」


「まあ大丈夫だろ。負けそうになったら助けてくれよ」


 そんな気は毛頭ないのだがロックは冗談のつもりで言っていた。ルークもアクシズも実のところ助けに入るつもりがない。ただ疲れだけが問題だったのだ。


「殺したら駄目だよ」


 ルークはそう言うとマコトにルーリ=メッセスを呼びに行かせた。ロックが勝ったとしても後始末が問題だ。ここはガーデニア騎士団の出番だった。

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