第197話 剣士祭Ⅳ③
「マコト、いい修行になったな」
マコトは本選が始まってまだ勝てていないがとてもいい経験になっている。何よりも得難い経験だ。
「来年はちゃんと本選でも勝つさ」
マコトはそう言い切った。いい経験が自信につながっているようだ。来年も剣士祭本選に出る、という決意だが、今のところ誰も同意してはいない。来年同じ五人で剣士祭に出場できるとは限らないのだ。
アクシズも敢えてそのことには触れないでいた。ソニー=アレスから頼まれてローカス道場が剣士祭に出場できるように手伝っているだけで、いつまで居るのかは判らないし剣士祭が終わった時点で去ってしまう可能性は高い。
「お前ならできるだろう。頑張れ」
アクシズはマコトを激励する。その言葉には裏は無いが自分がその時に多分居ない、ということは言わない。言う必要がないと思っていた。
「次鋒戦ローカス道場クスイー=ローカス対ルトア道場アースト=リース、始め」
クスイーの試合はほぼパターンが決まってきている。相手もそれを十分理解しているようだ。クスイーの剣速は異常に速い。ただ、それを凌ぎ切れば勝ちが見えて来る。クスイーの体力が持たないのだ。異常な剣速に消費する体力は相当なものだった。
相手がクスイーの剣速に堪え切れれば相手の勝ち、クスイーが動ける時間内に相手が受けきれなければクスイーの勝ち、ということだ。
そしてクスイーの剣技に経験がいい作用をし始めている。アクシズからは剣速を抑えて相手と打ち合う事を憶えろ、とは言われていない。とりあえず自分が今出来る最速で打ち込むように言われている。
普通に戦えばアーストの勝ちは揺るがない。まだまだクスイーには経験が足りない。ただ今回はクスイーの剣速が落ちない。それにアーストが対応仕切れなくなりつつある。
それまでのクスイーならそろそろ剣速が少しだけ落ちるかちょっとした隙が生まれて、そこを突かれて負けてしまっていた。
それが落ちないので相手のアーストも少し焦りだしていた。今までのクスイーの戦い方を見ていたアーストはとりあえず異常なまでに速い剣をなんとか凌げれば問題なく勝てると思っていたのだ。
「クスイー、頑張っているね」
「そうだな、少しづつ相手に対応する時間が伸びて居る様だ。あのクラスの剣士に勝てるのも時間の問題だな」
アクシズはクスイーが勝つとは思っていない。ただ直ぐにアーストは追い越してしまうだろう、と思っていた。今日は負けても明日は勝つのだ。
クスイーは相手に反撃する暇を与えない。ただ相手もクスイーの剣をちゃんと受けたり躱したりしている。クスイーの剣は真っ直ぐ過ぎてフェイントが無いのでとんでもなく速くても受けやすいのだ。
いつまで経っても落ちない剣速にアーストの方が疲れて来て対応できなくなってきたとき、やっとクスイーの剣が少し鈍ってきた。すでにマコトの試合の倍以上の試合時間が経っていた。が、先にアーストの疲れが勝ったようだ。
「そこまで、クスイー=ローカスの勝ち」
負けたアーストの方が疲れ果てて倒れ込んでしまった。
「やったな」
「はい。アクシズさんたちのお陰です」
真っ直ぐアクシズを見るその瞳には驕りはなかった。ただ自信と確信があっただけだ。その姿を見つめるトリスティアの姿もあったが、クスイーは気づいてはいない。
そしてついに中堅戦が始まる。ここまでクリフ=アキューズは全試合に出場し一敗もしていない。ロック=レパードも一敗もしていないが試合数が少なかった。大将戦まで縺れ込まなかったからだ。
クリフは試合勘を取り戻すため中堅として出場し全試合を戦ってきている。もう万全と言ってもいい。
ロックはマゼランに来るまで、それこそ実戦を幾度となく経験して来た。マゼランに来てからはそれほど実戦は無かったがアクシズあたりと稽古するのは楽しかった。
強い剣士と試合たい、ただ一つのロックの望みが叶う時がやっと来たのだ。
「ロック、頑張って」
「ああ、少しでも長く試合えるように頑張るさ。クスイーの試合には負けられないからな」
ロックもクスイーに刺激を受けたようだった。
「中堅戦ローカス道場ロック=レパード対ルトア道場クリフ=アキューズ、始め」
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