第198話 剣士祭Ⅳ④
やっとロックの念願が叶った。マゼランの三騎竜の一角クリフ=アキューズとの一戦だ。一度練習のような感じで試合ったことがあるが、あの時は様子見でしかなかった。今回は剣士祭本選での戦いだ。
試合は静かに始まった。余り打ち合わない。
ロックが打ち込んでクリフが受ける。クリフが打ち込んでロックが受ける。それが緩慢とも言うべき速さで行われている。
「おい、あれはいったいなんだ?」
アクシズがルークの顔を見て問う。
「僕にも判りませんよ。速すぎてゆっくりに見える、とか?」
「そんなことが有り得るのか?」
「いや、違うでしょう。ただ単にゆっくり打ち合っているようにしか見えません。二人で楽しんでいるんじゃないですか?」
そうなのだ。二人は打ち合っているが、実はただ楽しんでいる。
「クリフさん!」
何かに気が付いてリンク=ザードが声を掛ける。
「判っている」
クリフは一言だけ応えた。そしてギアを上げる。
「流石だ、いいね!」
反応が上がりだしたクリフに対してロックが言う。ロックも当然ギアを上げる。そのギアのあげ方も丁度同じように見えた。前もって打ち合わせをしてあるようにしか見えない。
二人の打ち合いは徐々に速さを増していく。ルークにもその差が見えない。ロックの腕が上がったのか、クリフがロックに合わせているのか。
二人の打ち合いは演舞の様に切れることなく打ち合い続けている。どんどん速さが増す。普通の剣士なら前もって練習していてもこれだけ打ち合い続けられない速さに達している。
上段から、中段から、下段から打ち込む。身体を一回転させて遠心力で横から撫で切る。どんな打ち込みをしても相手が対応して受けてしまう。
ロックが打ち込みクリフが受ける。クリフが打ち込みロックか受ける。その順番が狂わない。どうみても打合せしていたかのように見える。
ただその動きが速くなりすぎて目で追うのも付いていけなくなってくる。そして、その速さのまま動きが全く止まらない。人間が、その限界の速さで動ける時間はそれほど長くはない。それが全く止まらなかった。
クリフが打ち込みロックが受けた順番の後、二人はやっと一旦離れて止まった。流石に二人とも息が荒い。
「じゃあ行くよ」
ロックが上段から打ち込む。それはロマノフ=ランドルフとの試合で見せた技だ。ロマノフはしっかりと受けたはずだが、その剣は手から離れて落ちてしまった。ルークにも理屈はよく判らないロックの特別な技だった。
その上段からの打ち込みをクリフが受ける。クリフの顔が少し怪訝な表情を浮かべた。しかしクリフの剣は落ちなかった。
「凄い!」
思わずロックが叫ぶ。取って置きだった技を受けきられて感動すら覚えている。マゼランの三騎竜と言う名は伊達ではないことを実感していた。
「そろそろかな」
クリフが言う。
「そろそろだね」
ロックが応える。そして夢のような楽しい試合は決着した。
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